凶悪魔獣ご来店!? 絶対安全ダンジョンではSランク狼も腹を見せる
凶悪魔獣ご来店!? 絶対安全ダンジョンではSランク狼も腹を見せる
ニャングルとのテナント契約が成立し、ダンジョンの入り口付近にはさっそくゴルド商会のポップな屋台が組み上がり始めていた。
「いらっしゃいませーっ! 当店自慢のポポロまんじゅうと、回復ポーションのセットがお買い得ですわよーっ!」
カフェエリアでは、エプロン姿のリーザがほうきをマイクスタンド代わりに、見事な美声で呼び込みの練習をしている(まだお客さんは一人も来ていないが)。
平和なBGMのように響くリーザの歌声を背に、ヒカリはカウンターで新作メニューの試作に励んでいた。
「ふむ……やっぱりフルーツ系のタルトは見た目が華やかでいいね。シンくん、これ味見してくれる?」
「はい、喜んで」
カウンターの隅で、姿勢良く待機していたシンが、差し出された一口サイズのイチゴタルトをパクリと口に入れる。
「……っ。甘酸っぱさとカスタードのバランスが絶妙です。ヒカリさんは天才ですか。これなら、国賓レベルのVIPに出しても――」
「大げさだなぁ。スーパーの安いイチゴなんだけどね」
ヒカリがくすくすと笑った、その時だった。
『――グルルォォォォォォォッ!!』
ダンジョンの外、ポポロ村と森の境界線あたりから、地鳴りのような恐ろしい咆哮が響き渡った。
カフェの窓ガラスがビリビリと震え、カウンターのコーヒーカップがカチャカチャと音を立てる。
「ヒィィッ!?」
入り口で屋台の設営をしていたニャングルが、耳をペタンと伏せて悲鳴を上げた。
「アカン! この鳴き声、森の主や! Sランク魔獣の『ヘルウルフ』が山から下りてきよったで!!」
Sランク魔獣。
それは、大国の正規軍が一個中隊を動員してようやく討伐できるかどうかの、生きた災害である。
「ヒカリさん、下がって!!」
シンが凄まじい速度でカウンターを飛び越え、ヒカリの前に立ち塞がった。
彼の右手にはGlock19、左手にはいつの間にか亜空間から召喚した消音器付きアサルトライフル『SR-16』が握られている。その背中は、一切の隙がない「合衆国大統領を守る盾」そのものだった。
ドンッ! ドンッ!!
何者かが、ダンジョンの入り口の扉に激しく体当たりをしている。
そして次の瞬間、木製の扉がミシミシと嫌な音を立てて内側に開いた。
「ウゥゥゥ……グルァァッ!!」
カフェのエントランスに足を踏み入れたのは、体長三メートルはあろうかという巨大な黒い狼だった。
赤く血走った眼、刃物のような牙。毛皮にはバチバチと赤黒い雷を纏わせている。ひと目見ただけで、本能的な恐怖を掻き立てられる姿だ。
「ヒィィィッ! 食べられるぅぅ!」
リーザがほうきを放り出し、ニャングルの背後に隠れてガタガタと震える。
「……ターゲット確認。Sランク魔獣・ヘルウルフ」
シンの声は、氷のように冷たかった。
「警告はしません。ヒカリさんの安息の地に土足で踏み込んだ罪、その命で――」
シンがライフルのセーフティを外し、ヘルウルフの眉間に照準を合わせた、まさにその瞬間だった。
『ピーン!』
ダンジョン内に、澄んだ電子音が鳴り響いた。
「へっ……?」
ヘルウルフの赤く血走っていた眼から、スゥッ……と禍々しい光が消え去った。
纏っていた赤黒い雷も、まるで静電気が逃げるようにパチパチと消滅していく。
「キャン?」
Sランクの凶悪な魔獣は、ポカンと口を開け、きょとんとした顔で首をかしげた。
そして、カウンターの奥に立つヒカリの姿を視界に捉えた瞬間――。
「ワンッ! ワフッ、ハッハッハッ!」
さっきまでの地響きのような咆哮はどこへやら。まるで飼い主の帰りを待っていたゴールデンレトリバーのように、ちぎれんばかりに尻尾を振って、ヒカリの元へトコトコと歩み寄ってきたのだ。
「え、ええっ!?」
シンが呆然と銃を構えたまま固まる。
その横をすり抜けた巨大な狼は、ヒカリの足元にゴロンと仰向けに転がり、一番の急所である喉元とフワフワのお腹を無防備に晒した。
「クゥ〜ン……」
(撫でて? もふって?)と言わんばかりの、見事な服従のポーズである。
「わぁ……! おっきなワンちゃんだぁ!」
ヒカリは恐怖など微塵も感じず、カウンターからひょいと身を乗り出して、ヘルウルフの顎の下をわしゃわしゃと撫で始めた。
「よしよし、いい子だねぇ。毛並みすっごくフワフワ! シャンプーしたてみたい!」
「ハッ、ハッ、ハッ……♪」
巨大な狼は目を細め、ヒカリの撫でる手にすりすりと頭を押し付けている。
「な、なんだこれは……」
シンは銃を下ろし、信じられないものを見るような目でその光景を凝視した。
ヒカリの持つユニークスキル【ダンジョンクリエイト】には、空間を改造するだけでなく、『ダンジョン内部に限り、出現する魔獣を完全にテイム・使役可能』という恐るべき隠し機能があった。
どんな凶悪なモンスターであっても、この『絶対安全領域』のエントランスを跨いだ瞬間、悪意を強制無効化され、ヒカリに対して絶対の忠誠と親愛を抱く「ただの可愛い動物」になってしまうのだ。
「ヒカリはん……あんた、Sランク魔獣を素手で手懐けたんか……!? 冒険者ギルドのトップ連中が見たら泡吹いて倒れるで……!」
ニャングルが算盤を取り落とし、口をパクパクさせている。
「うーん、手懐けたっていうか、最初からすごく人懐っこいよ?」
ヒカリがヘルウルフの背中をポンポンと叩くと、巨大な狼は「ワォン!」と嬉しそうに一声鳴いた。
「でも、さすがにカフェの中にこんな大きなワンちゃんがいたら、お客さんがびっくりしちゃうかもね」
ヒカリは少し考えてから、空中のパネルを操作した。
「よし。ダンジョンの外周に、思いっきり走り回れる『ドッグランエリア』を作ろう! これならワンちゃんたちもストレス発散できるし、お客さんも動物と触れ合って癒やされるでしょ!」
《ダンジョン第1層・外周部:『もふもふドッグラン&動物ふれあいエリア』を拡張しました》
エントランスの横に新たな扉が出現し、その奥に広大な人工芝のドッグランと、日向ぼっこ用のウッドデッキが広がった。
「よし、君は今日から『ポチ』ね! ポチ、あっちのエリアの案内係と、ふれあいスタッフをお願いできる?」
「ワフッ!」
ヘルウルフ――もといポチは、ヒカリの命令にピシッと敬礼するような仕草を見せると、ご機嫌な様子でドッグランエリアへと走っていった。
「す、すごい……。Sランク魔獣をタダ働きさせるやなんて、ブラック企業も真っ青のドス黒い経営手腕やで……!」
「違うよ! まかないでお肉のステーキちゃんと出すから、ホワイトな雇用契約だよ!」
ニャングルのツッコミに、ヒカリがぷくっと頬を膨らませる。
すると、開けっ放しになっていたダンジョンのエントランスから、ぞろぞろと新たな影が姿を現した。
「クマー……」
「ニャァ……」
「ピヨッ!」
森に生息するAランクの『グリズリー・ベア(熊型)』に、Bランクの『シャドウ・リンクス(巨大山猫型)』、さらには空を飛ぶ『ストーム・イーグル(巨大鷹型)』まで。
先ほどのヘルウルフの咆哮につられて山から下りてきた魔獣たちが、入り口の結界を越えた瞬間に次々と『絶対安全ルール』の洗礼を受け、牙を引っ込めて行列を作り始めたのだ。
「あ、みんな面接希望? いいよいいよ、うちは動物スタッフ大歓迎だから!」
ヒカリがニコニコと招き入れると、恐ろしい魔獣たちは皆、幼稚園児のようにお行儀よく一列に並び、ヒカリにお腹を見せたり、スリスリと頭を擦り付けたりし始めた。
「ヒカリさん……」
シンが、どこか複雑そうな、それでいて少しだけ羨ましそうな顔でヒカリの隣に立った。
「ん? どうしたの、シンくん」
「……いえ。狼や熊にまで慕われるあなたは、本当に慈愛の女神のような方だと思いまして」
そう言いながら、シンは足元にすり寄ってきたシャドウ・リンクス(巨大山猫)を、忌々しそうに見下ろした。
「ですが、いくら安全ルールがあるとはいえ、ヒカリさんに近づきすぎるのは感心しませんね。……おい、そこは僕の定位置だ。どけ」
「シャーッ!」
「ほう、やる気ですか? 僕の銃弾と君の爪、どちらがヒカリさんの隣にふさわしいか――」
「シンくーん? 動物相手に大人気ないよー。仲良くしてねー」
「……はい」
ヒカリにたしなめられ、世界最強の暗殺者はシュンと肩を落とし、渋々巨大な山猫と並んでカウンターの隅に収まった。
(いつか絶対、あの毛玉たちよりも僕の方がヒカリさんの役に立つことを証明してみせます……!)
シンの中で、魔獣たちに対する謎のライバル心が燃え上がった瞬間だった。
限界社畜OLのダンジョンに、『もふもふ動物ふれあいエリア』が爆誕。
強欲な人魚姫、がめつい商人、過保護な護衛に加え、Sランク魔獣の従業員たちまで加わり、ポポロ・ワンダーパークはますます賑やかな、そして「絶対に誰も死なないテーマパーク」へと進化していくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ダンジョンに初の『敵(魔獣)』が侵入!……と思いきや、ヒカリちゃんのテイムスキルの前では、Sランクの凶悪ヘルウルフもただの「大きなワンちゃん(ポチ)」になってしまいました(笑)。
魔獣たちをタダ働き……じゃなくて、ホワイトなまかない付きで雇用し、ふれあい動物エリアが完成です!
そしてシンくん、まさかの「モフモフの魔獣たち」に嫉妬しています。自分の定位置(ヒカリの隣)を猫に奪われそうになってムキになる最強暗殺者、大人気ないですね!
次回は、従業員も増えたことで、シンくんの「過保護すぎる防衛セキュリティ」がさらに暴走!?
テーマパークに似合わない物騒なゲートを作ろうとするシンくんと、それを阻止するヒカリちゃんのやり取りをお届けします!
「ポチもふもふしたい!」「シンくん猫に嫉妬してる(笑)」「絶対安全ダンジョン最強!」と思っていただけましたら、
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皆様の星と応援が、もふもふ従業員たちのステーキ代になります!
次回の更新もどうぞよろしくお願いいたします!




