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『限界社畜OLの絶対安全ダンジョン経営〜最強の過保護護衛に溺愛されつつ遊園地作り。荒らしは勝手に自滅します〜』  作者: 月神世一


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金の亡者と防衛責任者の果てなき舌戦(そして社畜の契約術)

金の亡者と防衛責任者の果てなき舌戦(そして社畜の契約術)

ダンジョン第1層、『カフェ&スパエリア』がプレオープンして数日。

ヒカリのダンジョンは、控えめに言って「極楽」として機能し始めていた。

「ヒカリさーん! お風呂掃除終わりましたわ! まかないのオムライス、ケチャップ大盛りでお願いしますの!」

「はーい、お疲れ様。今作るね」

フリルのエプロンをなびかせて報告に来る看板娘のリーザに、ヒカリはカウンター越しに笑顔で返す。

ヤンデレ気味のキャルル村長は「ヒカリお姉ちゃんの淹れたコーヒーじゃないと仕事ができません……」と毎朝のように顔を出し、スパで骨抜きになってから村役場へ出勤していくのが日課になっていた。

そして、ヒカリの専属護衛であるシンは――。

「マスター。リーザさんのモップがけの動線ですが、入り口からの死角を作っています。有事の際に僕の射線が塞がるため、清掃ルートの改善を要求します」

「シンくん、ここは戦場じゃないからね? あと、その眉間のシワ、また濃くなってるよ。はい、ホットミルク」

「あ、ありがとうございます……」

相変わらずの過保護っぷりを発揮していたが、ヒカリの差し出すホットミルクを受け取ると、ふにゃりと目尻を下げてカウンターの隅で大人しくなった。

そんな平和な昼下がりのことだった。

チリン、チリリン。

入り口のドアベルが、軽快な音を立てて鳴った。

来客だ。ヒカリが「いらっしゃいませー」と声をかけようとした瞬間。

「まいど! 儲かりまっか!?」

勢いよく扉を開けて入ってきたのは、派手なストライプのスーツを着こなした、猫耳の青年だった。

手には重厚な木製の算盤そろばんを持ち、口元には高級そうな煙管きせるをくわえている。その目は、完全に『金貨』の形をしていた。

「な、なんだこの極上の空間は……! 完璧な空調、広々としたカフェ、そして奥から漂う極上のヒノキの香り! アカン、これはアカンで! 金の卵を産むガチョウや!!」

猫耳の青年は、店内の設備を見るなり、震える手で算盤を弾き始めた。

パチパチパチパチッ! と、尋常ではない速度で玉が弾かれる音が響く。

「えっと……お客、様?」

ヒカリが困惑して声をかけると、青年はバサリと名刺を取り出し、カウンターへ滑らせた。

「お初にお目にかかります! ワイはゴルド商会の幹部、ニャングルと申します! ポポロ村の財務顧問みたいなもんもやっとりますわ!」

「あ、ご丁寧にどうも。ダンジョンマスターの木本ヒカリです」

「ヒカリはん! 単刀直入に言わせてもらいまっせ。このダンジョン、ワイらゴルド商会と『独占契約』を結びまへんか!?」

ニャングルは身を乗り出し、ギラギラとした目でヒカリに迫った。

「食材の仕入れ、アメニティの補充、ぜーんぶワイらが引き受けますわ! ヒカリはんは座ってるだけでええ。その代わり、このダンジョンでの物販利益の9割をうちが――」

ニャングルが言葉を言い終えるより早く。

チャキッ。

冷たく、重い金属音がカフェに響いた。

「――僕の雇用主を搾取しようとするなら、あなたのその頭蓋骨で、この美しいフローリングを赤く染めることになりますよ」

いつの間にか、ヒカリの隣からふっと姿を消していたシンが、ニャングルの背後に立っていた。

その手にある『Glock19』の銃口が、ニャングルの後頭部にピタリと押し当てられている。

「ひぃっ!?」

「利益の9割? 冗談はあなたのその悪趣味なスーツだけにしてください。今すぐここから立ち去らないなら、コンマ2秒で脳幹を吹き飛ばします。……ね? 痛いのは嫌でしょう? 止めましょう?」

シンの声はひどく丁寧で、底冷えするほど冷酷だった。

USSS仕込みの、完全な『暗殺者の目』である。

だが、ニャングルもただの商人ではない。

「ひぃっ」と悲鳴を上げながらも、反射的に愛用の算盤を頭の後ろに掲げ、銃口との間に挟み込んだ。

「ま、待てや兄ちゃん! ワイは平和主義者や! 暴力はアホのすることやで!?」

「ええ、僕も争いは嫌いです。だから、あなたが大人しく引き下がれば何も撃ちません」

「シンくん、ストップ」

ヒカリはため息をつきながら、カウンターから身を乗り出してシンの腕をポンと叩いた。

「ここ、『絶対安全領域』だから、どうせ銃の引き金引けないよ?」

「……知っています。ですが、心理的プレッシャーは交渉において有効な戦術です」

「理屈はいいから、銃をしまいなさい」

ヒカリに怒られ、シンは「……はい」とシュンとして銃をホルスターに戻した。

とはいえ、その鋭い視線は依然としてニャングルの首筋をロックオンしたままだ。

「ふぅ……助かったで、お姉さん」

ニャングルは冷や汗を拭い、再び営業スマイルを浮かべた。

「ほな、気を取り直して。利益配分は譲って7対3! これ以上は商会のメンツが――」

「ニャングルさん」

ヒカリは、ニャングルが提示した契約書の束をパラパラと捲り、ピシャリと閉じた。

その瞳には、先ほどまでの「ぽやんとしたダンジョンマスター」の面影はない。

そこにあったのは、前世で幾多の悪徳業者と戦い、下請けいじめの契約書を何度も跳ね返してきた『進行管理事務イベントプロデューサー』としての、冷徹な社畜の顔だった。

「この契約書、テンプレですね。うちのランニングコストと、そちらの物流コストの計算が全然合ってません」

「……へ?」

「食材とアメニティの物流をそちらが担うのは助かります。でも、このダンジョンの最大の価値は『絶対的な安全性』です。今後、三大国の兵士や冒険者が休息を求めて殺到するはずです」

ヒカリはカウンターに備え付けの紙とペンを引き寄せ、サラサラと図を書き始めた。

「独占契約は結びません。ですが、入り口の『安全区画』に、ゴルド商会のテナントスペースを一つ提供します。そこで回復ポーションや、ダンジョン土産を売ってください。絶対にバカ売れしますから。その代わり――」

「そ、その代わり……?」

「テナントの場所代として、物販の総売上の20%をこちらに納めてください。食材とアメニティの仕入れ代金は、そのテナント料から相殺する形でどうですか? これなら、お互いのキャッシュフローも安定しますし、無駄な送金手数料も浮きます」

パチパチパチパチッ!

ニャングルは、目を見開きながら手元の算盤を弾いた。

ヒカリの提案した数字は、ゴルド商会にとっても十分すぎるほどの莫大な利益を生む。しかも、初期投資のリスクはゼロ。安全な場所で商売ができるという、これ以上ない好条件だった。

(な、なんやこのお姉さん……! ただの世間知らずの小娘やと思っとったら、とんでもない切れ者やないか!)

ニャングルはゴクリと唾を飲み込んだ。

だが、彼が本当に驚いたのは、ヒカリの提示した条件が「彼女自身が最も得をする数字」ではなく、「双方が適正な利益を得て、長く共存できる完璧なバランス」だったことだ。

ニャングルは、スラム上がりで金と数字しか信じてこなかった。

だからこそ、打算や搾取のない「真っ当で誠実な商取引」を提示されたことに、商人の魂を激しく揺さぶられていた。

「……負けましたわ」

ニャングルは煙管をふっと吹き、肩をすくめた。

「あんた、えげつないほど優秀なボスやな。……ええでしょう! その条件で、ゴルド商会はポポロ・ワンダーパークと提携させてもらいますわ!」

「よかった! これで毎日の買い出しに行かなくて済むね!」

ヒカリはパァッと顔を輝かせ、ニャングルとがっちり握手を交わした。

商人相手に一歩も引かず、むしろウィンウィンの関係を築いてみせたヒカリの鮮やかな手腕に、背後で控えていたシンも密かに目を見張っていた。

(……すごい。僕が銃で脅すよりも遥かにスマートに、かつ平和的に脅威を味方に引き入れた。やはりヒカリさんは、僕が命を懸けて守るに足る、素晴らしいマスターだ……!)

シンの中で、ヒカリへの尊敬と溺愛度がさらに跳ね上がった瞬間だった。

「よっしゃ! ほな、さっそく入り口に屋台を組ませてもらいまっせ! リーザはん、宣伝よろしく頼むで!」

「任せてくださいませ! このスーパーアイドル・リーザの美声で、お客の財布の紐をズタズタに引き裂いてさしあげますわーっ!」

ニャングルとリーザが意気投合し、カフェの隅で何やら悪巧み(販促会議)を始める。

「やれやれ、賑やかになりそうだね」

ヒカリが笑うと、シンはそっと彼女の隣に並び、周囲に油断ない視線を向けながら言った。

「ヒカリさん。契約は成立しましたが、あの商人が少しでも妙な動きを見せたら、すぐに言ってください。事故に見せかけて、算盤ごと粉砕しますので」

「だから物騒なこと言わないの! ほら、見張りの前に、冷めないうちにホットミルク飲んじゃいなさい」

「……はい」

しっぽを振るように素直にカップに口をつける最強の暗殺者と、算盤を弾くがめつい商人、そして強欲な人魚姫。

限界社畜OLのダンジョン経営は、頼もしすぎる(そして個性が強すぎる)仲間たちを次々と巻き込みながら、着実に「究極のテーマパーク」への階段を登り始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は、お金大好き商人・ニャングルが登場しました!

ヒカリちゃんをカモにしようとしますが、シンの物理的な脅迫と、ヒカリちゃんの前世の「社畜スキル(下請けとの契約交渉術)」の前に完全敗北(笑)。

でも結果的に、双方がめちゃくちゃ儲かるホワイトな契約が結ばれました! これで仕入れ問題も解決です!

シンくんは、ヒカリちゃんの有能さにさらに惚れ直したようです。銃をしまってホットミルクを飲む姿がすっかりワンコですね。

次回は、ついにダンジョンに『お客様』ならぬ『凶悪な魔獣』が侵入!?

しかし、絶対安全なダンジョンに入った魔獣の運命は……「モフモフの従業員」への強制転職!?

「ヒカリちゃん交渉上手!」「シンくんの過保護が通常運転」「ニャングル良いキャラ!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】の評価(星をポチッと押して★★★★★に!)をお願いいたします!

皆様の星とブックマークが、ヒカリちゃんたちのテーマパークを大繁盛させる最大のスパチャ(応援)になります!

次回もどうぞよろしくお願いいたします!

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