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『限界社畜OLの絶対安全ダンジョン経営〜最強の過保護護衛に溺愛されつつ遊園地作り。荒らしは勝手に自滅します〜』  作者: 月神世一


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不法侵入してきたのは、世界一臆病な最強の暗殺者でした

不法侵入してきたのは、世界一臆病な最強の暗殺者でした

「……異常事態コード・レッドですね。完全に」

ポポロ村の境界線に広がる静かな夜の森。

その最も太い木の枝の上に潜み、神谷かみたにシンは暗視ゴーグル(NVG)越しに『それ』を睨みつけていた。

昨日まではただの空き地だった場所に、突如として一軒のログハウスが出現している。

魔力探知機を通せば、その小さな建物から、災害級の大型ダンジョンに匹敵するほどの高密度な魔力が放出されているのがわかった。

(罠か? 隣国の新兵器? それとも未知のSランク魔獣の巣……?)

シンの脳内で、瞬時に何十通りもの最悪のシナリオがシミュレートされる。

彼の職業は、ポポロ村自警団の特命要人警護官。

そして地球にいた頃は、アメリカ合衆国シークレットサービス(USSS)で大統領の命を守っていたプロフェッショナル中のプロフェッショナルだ。

シンの行動原理は、ただ一つ。

『一番死にたくないから、誰にも死んでほしくない。だから、一番死なないための選択をし続ける』こと。

「放置すれば、村の脅威になる。……やるしかないですか」

シンはため息をつき、自身のユニークスキル【シークレットサービス】を発動した。

何もない虚空から、使い慣れた特殊作戦用の消音器付きアサルトライフル『KAC SR-16』を取り出し、スリングで体に固定する。

さらに、スーツの下にはセラミックプレート内蔵のタクティカルアーマー、右太もものホルスターにはGlock19。防弾仕様のサングラスをかけ、足音一つ立てずに木から飛び降りた。

周囲に伏兵はいないか。

地雷は埋まっていないか。

狙撃手の射線は通っていないか。

すべての死角を潰しながら、シンは滑るような足取りでログハウスに接近する。

ドアノブに手をかけ、最新のピッキングツールで鍵を――と思ったら、鍵すら開いていた。

(……不用心すぎる。やはり、誘い込むための高度な心理トラップですか)

シンはごくりと喉を鳴らし、そっと扉を押し開けた。

銃口を前に出し、部屋の隅々まで素早くクリアリング(安全確認)を行う。

リビング、ヨシ。

キッチン、ヨシ。

そして、部屋の奥にある巨大なベッドには――。

「……ターゲット、確認」

シンは銃を構えたまま、ベッドに近づいた。

そこにいたのは、恐ろしい魔獣でも、武装したテロリストでもなかった。

丸まった毛布の中で、スゥ、スゥ、と無防備な寝息を立てている、パジャマ姿(正確には、昨日着ていた仕事着のまま)の若い女性だった。

(擬態……? いや、殺気がまったくありません。ですが、油断はできません)

シンはベッドから2メートルの距離を保ち、SR-16の銃口をぴたりと女性の眉間に向けた。

「……起きてください。動かずに、両手をゆっくりと見える位置へ」

低く、冷徹なプロのトーンで警告する。

もし相手が少しでも不審な動きを見せれば、コンマ2秒で肩か膝を撃ち抜き、無力化する準備はできていた。

「んん……? 朝……?」

シンの声に反応し、女性――ヒカリは、目をこすりながらのそりと身を起こした。

そして、目の前に立つ全身黒ずくめの男と、自分に向けられた真っ黒な銃口を見つめた。

普通なら、悲鳴を上げてパニックになる状況だ。

シンも、彼女が泣き叫ぶことを想定し、瞬時に口を塞ぐ手順を考えていた。

だが。

「……あー、ごめんなさい。私、まだ寝ぼけてるのかな」

ヒカリは全く悲鳴を上げなかった。

それどころか、ぽやんとした顔でシンの顔をじーっと見つめてきたのだ。

「えっと……お兄さん、自警団か何かの方ですか?」

「質問しているのはこちらです。あなたは誰ですか。この建造物の目的は?」

「木本ヒカリです。目的って言われても……私がゆっくり寝るためのお部屋、なんですけど」

「寝るため……? 嘘をつかないでください。これだけの魔力を持つダンジョンが、ただの寝室なわけが――」

シンがさらに銃口を近づけようとした、その時だった。

「あのさ、お兄さん」

ヒカリが、心底心配そうな、同情に満ちた声を上げたのだ。

「お兄さん、徹夜明け? ……っていうか、何日寝てないの? 目の下のクマ、すっごい真っ黒だよ。肌もボロボロだし、立ってるのもしんどそう」

「……は?」

シンは完全に虚を突かれた。

銃を突きつけられている人間が、襲撃者の『健康状態』を心配するなど、いかなるマニュアルにも載っていない。

だが、ヒカリの目には、シンの構える銃よりも、彼が放つ『圧倒的な過労のオーラ』の方がよほど危険に見えたのだ。

前世で、終わらないイベント準備のために三日三晩徹夜し、トイレで吐きながら栄養ドリンクを流し込んでいた先輩ディレクターの顔と、目の前のシンの顔が完全に一致していたからである。

「ダメだよ、そんなに無理しちゃ。人間、寝ないと本当に壊れちゃうんだから」

「な、何を言っているんですか。僕を惑わそうとしても無駄ですよ」

シンは焦りを感じ、相手を制圧するための『殺気』と『敵意』を込めて、引き金に指をかけた。

――瞬間。

『ピーン!』

部屋全体が、淡いエメラルドグリーンの光に包まれた。

「なっ……!?」

シンが驚愕した次の瞬間、彼の手からSR-16がふわりと浮かび上がり、まるで透明なクッションに包まれたように、部屋の隅へ強制的に移動させられてしまった。

さらに、太もものハンドガンも、ポケットのナイフも、すべて同じようにシンの体から離れ、宙に浮いて隔離されてしまう。

「な、なんだこれは!? 武装解除魔法……!?」

「あ、ごめんね。驚いた?」

ベッドから降りたヒカリが、申し訳なさそうに苦笑いした。

「ここね、私が作ったダンジョンなんだけど。私が設定した絶対ルールがあってね。『この空間内では、一切の悪意と暴力が強制無効化される』の」

「悪意が、無効化……?」

「そう。だから、誰かを傷つけようとしたり、武器を使おうとしたりすると、システムが自動で止めちゃうんだよね。ここは『絶対安全領域』だから」

シンは戦慄した。

自分が長年培ってきた危機管理能力も、USSSの最新鋭の武装も、この空間の『ルール』の前では児戯に等しい。

もし彼女が敵なら、今この瞬間に自分は殺されている。

(終わった……! 一番死にたくない僕が、こんなところで……!)

シンが絶望に目を閉じかけた、その時だった。

「とりあえず、温かいものでも飲む?」

「……え?」

目を開けると、ヒカリが部屋の隅にある小さなキッチンスペースで、マグカップを二つ並べていた。

「外、寒かったでしょ。お仕事お疲れ様。ココアとホットミルク、どっちがいい? ……あ、甘いのは苦手? じゃあ、コンソメスープにしようか」

「……」

シンは、呆然とヒカリを見つめた。

警戒心。殺気。防衛本能。

シンを形作っていたそれらの冷たい鎧が、彼女が発する、あまりにも無防備で、あまりにも温かい『日常の空気』に触れて、音を立てて崩れていくのを感じた。

「コンソメスープで……お願いします」

「はーい。ちょっと待ってね、今お湯沸かすから。あ、そこのソファ座ってていいよ」

ヒカリは、銃を持って不法侵入してきた男に対し、まるで残業帰りの同僚を労うかのように、ごく自然にスープの準備を始めた。

これが、後に「世界一過保護な暗殺者」と「限界社畜のダンジョンマスター」と呼ばれる二人の、奇妙すぎる出会いだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

不法侵入してきたのに、ヒカリちゃんの『圧倒的社畜目線の気遣い』の前では、最強の護衛官シンくんもタジタジです(笑)

絶対安全なダンジョンルール、最強ですね!

次回、ついにシンくんがヒカリちゃんの作った「温かいスープ」を口にします。

常に毒味を気にしていた彼にとって、この絶対安全領域での食事は一体どんな意味を持つのか……?

「シンくんのクマが心配!」「ヒカリちゃん大物すぎる!」「スープ飲んでゆっくり休んで!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】の評価(星をポチッと押して★★★★★に!)をお願いいたします!

皆様の温かい応援が、ヒカリとシンの居場所を豊かにしていく原動力になります!

次回の更新も楽しみにお待ちくださいませ!

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