限界社畜ディレクターの本領発揮! グランドオープン
限界社畜ディレクターの本領発揮! グランドオープン前夜の完璧な『おもてなし』準備
「リーザちゃん! その看板、あと5センチ右! そう、そこ! 導線確保のために通路は絶対に開けておいて!」
「かしこまりましたわ! 右に5センチですのね!」
「ニャングルさん! 明日のポーションの初期在庫、発注書通りに納品されてますか? 不足分があるなら今のうちにダンジョン内で生成して補填します!」
「完璧やでヒカリはん! 予測来場者数の1.5倍は確保してあるわ! まさか前日に『タイムスケジュール』やら『在庫管理表』なんて神がかったモン渡されるとは思わんかったけどな!」
「キャルルちゃん! スパエリアの脱衣所、滑りやすくなってるから、治癒魔法じゃなくて『乾燥の魔法』を薄くかけておいて!」
「はいっ、ヒカリお姉ちゃん! お姉ちゃんのためなら、床でも天井でもピッカピカに乾燥させてみせますっ♡」
ポポロ・ワンダーパーク、グランドオープン前夜。
ダンジョン第1層のエントランスホールでは、ヒカリの冴え渡る指示が、ピンと張った空気の中で的確に飛び交っていた。
前世でのヒカリの職業は、中堅イベント企画会社の『進行管理事務』。
理不尽なクライアントとポンコツな上司に挟まれ、常にトラブル対応に追われながらも、イベントを絶対に破綻させないよう裏で泥をすすってきた『地獄の現場監督』である。
そんな彼女が、自分に全権があり、しかも魔法で物理法則すら無視できる空間を手に入れたらどうなるか。
「ポチ! クマ吉! そこの木箱をカフェの裏に運んで! 終わったら特上ステーキあげるからね!」
「ワフッ!」
「クマーッ!」
Sランク魔獣とAランク魔獣が、喜んで荷物運びの肉体労働に励んでいる。
ヒカリの頭の中には、エントランスからカフェ、ドッグラン、スパエリアへと流れる『完璧な客の動線』が組み上がっていた。どこで人が立ち止まり、どこでゴミ箱が必要になり、どこに休憩用のベンチを置けばいいのか、すべて計算し尽くされている。
「……見事です。まるで、オーケストラの指揮者のようだ」
エントランスの隅で、全体を俯瞰しながら警戒にあたっていたシンは、ヒカリの流れるような采配に息を呑んでいた。
普段はぽやんとしていて、自分に甘えさせてくれる優しいマスター。
だが、今の彼女は違う。背筋をピンと伸ばし、モニターと現場を交互に確認しながら、一切の無駄なくスタッフ(と魔獣)を動かしている。その横顔には、圧倒的な有能さと、プロフェッショナルとしての誇りが輝いていた。
(……かっこいい。普段の可愛いマスターも最高ですが、今の凛々しいお姿も、目が離せなくなるほど美しい……っ)
最強の暗殺者は、ヒカリの『仕事モード』のギャップに完全に射抜かれ、口元を手で覆いながら密かに限界を迎えていた。
「よし、会場のレイアウト、最終確認完了! みんな、本当にお疲れ様!」
ヒカリがパンパンと手を叩くと、リーザもキャルルも、そして魔獣たちも、充実した顔でエントランスに集まってきた。
「ふぅ……。前日の夜に、全部の準備が終わるなんて……」
ヒカリは、ピカピカに磨かれたフロアを見渡し、ほうっと息を吐いた。
前世の記憶。
イベント前日の夜といえば、ヒカリにとっては『絶望』の代名詞だった。
発注ミスで届かない備品。突然仕様を変更してくるクライアント。設営が終わらず、深夜の冷たいパイプ椅子に座りながら、胃薬を水で流し込んで泣きながらマニュアルを修正した夜。
明日の本番が来るのが恐ろしくて、ただただ逃げ出したかった。
でも、今は違う。
「マスター。お疲れ様です。冷たいお茶をどうぞ」
「あ、ありがとうシンくん」
シンがそっと差し出してくれた冷たい麦茶を受け取り、ヒカリは喉を潤した。
「すごいな。明日のオープンが、ちっとも怖くない。むしろ……早く明日になって、お客さんの喜ぶ顔が見たいって、心の底から思ってる」
ヒカリの呟きに、シンは優しく微笑んだ。
「それは、マスターが誰よりもお客さんのことを考え、一切の妥協なくこの空間を作り上げたからです。あなたの努力は、このダンジョンの隅々にまで満ちています。明日、ここを訪れた人々は、間違いなく最高の笑顔を見せるでしょう」
「シンくん……」
「それに」と、シンはヒカリの背後に立つ仲間たちへ視線を向けた。
「ヒカリはんの立てた完璧な計画書のおかげで、ワイらも迷いなく動けたで! 明日はガッツリ儲けさせてもらうわ!」
算盤を弾きながらニヤリと笑うニャングル。
「私、明日はステージで新曲を三曲披露しますの! まかないのお肉パワーで、声の伸びも絶好調ですわ!」
エプロン姿でポーズを決めるリーザ。
「ヒカリお姉ちゃんが作った温泉、ポポロ村のみんなにも早く教えてあげたいです! 絶対にみんな、とろけちゃいますから!」
ウサギ耳をピコピコと揺らすキャルル。
そして、ヒカリの足元にすり寄ってくる、ポチやクマ吉といったもふもふの従業員たち。
「……うん。みんな、本当にありがとう」
ヒカリの目頭が、ツンと熱くなった。
前世では、一人ぼっちで泣きながら裏方の仕事をしていた。
でも今は、こんなにも頼もしくて、温かくて、自分を認めてくれる仲間たちがいる。
自分が一生懸命に作った空間を、一緒に守り、一緒に盛り上げてくれる家族がいるのだ。
ヒカリは、ダンジョンクリエイトのパネルを操作した。
パァン! と、エントランスの天井に可愛らしいくす玉が出現し、キラキラと紙吹雪が舞い散る。
同時に、カフェのテーブルには、ヒカリが腕によりをかけて作った豪華なオードブルと、ニャングルが差し入れてくれた最高級のフルーツジュース(と大人用のシャンパン)がズラリと並んだ。
「えへへ、明日のグランドオープンに向けた、前夜祭だよ! みんなで乾杯しよ!」
「「「わぁぁっ!!」」」
歓声が上がり、一気にパーティー会場へと早変わりする。
リーザが唐揚げの山に飛びつき、キャルルがヒカリの隣を死守し、ニャングルが商売繁盛を祈ってシャンパンのコルクを抜く。
ヒカリはグラスを手に持ち、皆の前に立った。
「えっと……このポポロ・ワンダーパークは、最初は私がただ『安全に引きこもって眠りたい』って思って作った、ただのログハウスでした」
ヒカリの言葉に、みんなが静かに耳を傾ける。シンは、まっすぐにヒカリの瞳を見つめていた。
「でも、みんなが来てくれて、ご飯を食べてくれて、笑ってくれて……。私、自分の作った場所でみんなが笑顔になってくれるのが、何より嬉しいんだって気づいたの」
ヒカリは、グラスを高く掲げた。
「明日は、いよいよグランドオープンです。三大国のお客さんたちに、この世界で一番安全で、一番楽しい時間をプレゼントしましょう! ――乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
グラスが重なり合う澄んだ音が、ダンジョン内に響き渡る。
美味しい料理に舌鼓を打ち、明日の成功を誓い合う仲間たちの笑顔。
「マスター」
パーティーの喧騒の中、シンがヒカリの隣にそっと歩み寄ってきた。
彼の手には、グラスではなく、いつものように周囲を警戒するためのタブレットが握られている。
「シンくん、飲まないの? 美味しいオレンジジュースあるよ?」
「いえ、僕は任務中ですので。……マスター、一つだけご報告があります」
シンは、少しだけかしこまった表情で、ヒカリを見つめた。
「明日のグランドオープン。予測をはるかに超える来場者が見込まれます。ポポロ村の住人だけでなく、ルナミス帝国軍の非番兵士たち、さらにはアバロン魔皇国からも視察(という名の遊び)部隊が国境を越えて向かっているという情報が入りました」
「えっ、大国の軍人さんたちがこぞって来るの!? 喧嘩にならないかな……」
「ご安心ください」
シンは、タブレットをしまい、ヒカリに向かって恭しく一礼した。
「この絶対安全領域で、マスターの創り上げた夢の国を汚す不届き者がいれば、僕がコンマ2秒で排除します。あなたはただ、最高の笑顔でお客様を迎えてください。……僕が、あなたのすべてを守り抜きますから」
その頼もしすぎる(そして少し物騒な)誓いの言葉に、ヒカリはふわりと花が咲くような笑顔を見せた。
「うん。よろしくね、シンくん」
限界社畜OLが創り上げた、世界一安全で、誰もが笑顔になるダンジョン。
その真の力を世界に示す『グランドオープン』の朝が、すぐそこまで迫っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ヒカリちゃんの前世のスキル『ブラック企業仕込みのイベントディレクター能力』が完全に火を噴きました!
ダンジョンクリエイトの魔法と合わさることで、一切のトラブルのない完璧な会場設営が完了です。
そして、有能に立ち回るヒカリちゃんの姿に、シンくんの好感度(溺愛度)がさらにカンストしてしまいました(笑)。
一人ぼっちで泣いていた前世とは違い、今は頼もしい仲間たちと笑い合いながら迎えるオープン前夜。ヒカリちゃんの努力が報われる瞬間ですね。
次回、いよいよ第1章最終話!
ポポロ・ワンダーパークがグランドオープンし、三大国の人々が押し寄せます。
ヒカリちゃんがこの異世界で見つけた『本当の居場所』とは――。
「ディレクターヒカリちゃんカッコいい!」「シンくん完全に惚れ直してる(笑)」「前夜祭最高!」と思っていただけましたら、
ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】の評価(星をポチッと押して★★★★★に!)をお願いいたします!
皆様の温かい応援が、明日のグランドオープンを大成功に導きます!
第1章クライマックスも、どうぞよろしくお願いいたします!




