限界社畜、ついに夢の国をオープンする! ――私、異世界に来て本当によかった
限界社畜、ついに夢の国をオープンする! ――私、異世界に来て本当によかった
雲一つない抜けるような青空。
ポポロ村の境界線に位置する巨大なダンジョン『ポポロ・ワンダーパーク』のエントランス前には、朝から信じられないような光景が広がっていた。
「な、なんだこの大行列は……!」
「ルナミス帝国の兵士に、アバロン魔皇国の視察団!? 獣人王国の連中までいるぞ!」
ダンジョンの噂を聞きつけた三大国の人々が、国境を越えて大挙して押し寄せていたのだ。
本来なら顔を合わせれば一触即発の事態になる彼らだが、ここでは誰一人として武器を抜こうとはしない。なぜなら、事前に「この領域内で争いを起こせば、恐ろしいペナルティ(激辛青汁と金ダライ)が待っている」という噂が、ニャングルの商会ルートを通じて徹底的に周知されていたからだ。
「ええい、押すな押すな! 順番に並ばんかい!」
入り口に設営されたゴルド商会の特設ゲートでは、ニャングルが算盤を弾きながら汗だくで入場料を徴収している。
「入場チケットには、カフェのワンドリンク券と、温泉のタオル貸し出しチケットがついとるで! 回復ポーションと『ポポロまんじゅう』のお得なセットもいかがやーっ!」
飛ぶように売れていくチケットとグッズに、ニャングルの目は完全に金貨の形($)になっていた。
「さあさあ、皆様! こちらが当パーク自慢の『もふもふドッグラン』です!」
ゲートを抜けた先では、村長であるキャルルが、ヤンデレ成分を綺麗に隠した見事な営業スマイルで案内役を務めている。
「ワフッ!」
「クマーッ!」
人工芝のドッグランでは、Sランク魔獣のポチ(ヘルウルフ)やクマ吉が、ルナミス軍の厳つい兵士たちに囲まれ、お腹を出してブラッシングされていた。
「お、おお……! なんてフワフワなんだ……!」
「戦場の過酷な任務でささくれ立った心が……浄化されていく……っ」
屈強な兵士たちが、魔獣の肉球を触りながら次々と涙を流して崩れ落ちていく。
さらに奥の『カフェ&スパエリア』からは、陽気な音楽と美声が響き渡ってきた。
『絶対無敵のスパチャアイドル! 五円が積もれば山となる〜♪』
特設ステージの上で、フリルのエプロンを着たリーザが、完璧なステップを踏みながら新曲を熱唱していた。
「うおおおおっ! リーザちゃーーん!!」
「俺のありったけの給料を持って行ってくれーーっ!」
客席では、アバロン魔皇国の魔族たちや獣人たちが、種族の垣根を越えて肩を組み、ペンライト代わりに光魔法を振り回しながら熱狂している。
ステージ前の『スパチャ箱(お賽銭箱)』には、文字通り金貨と銀貨の雨が降り注いでいた。
「すごい……大盛況だね」
マスタールームのモニターで各エリアの様子を確認しながら、ヒカリはほうっと安堵の息を吐いた。
「……マスターの完璧な動線設計の賜物です。今のところ、不審者もトラブルもゼロ。お客様は全員、完全に『武装解除』され、安全に楽しんでおられます」
ヒカリの背後で、シンが誇らしげに報告する。
彼は今日、黒スーツの上に『STAFF』と書かれた腕章を巻き、表向きはインフォメーション係として、裏では最強のセキュリティ責任者として目を光らせていた。
「みんな、すごくいい顔してる」
モニターに映る人々は、国籍も種族も関係なく、ただ純粋に美味しいものを食べ、温泉で疲れを癒やし、笑顔を浮かべている。
前世でヒカリが作ってきたイベントは、終わればすぐに解体され、後に残るのは疲労と空虚感だけだった。
でも、ここは違う。ヒカリが作った空間が、人々の日常を癒やし、明日を生きるための活力を生み出しているのだ。
「ヒカリさーん! 大変ですわ!」
バンッ! とマスタールームの扉が開き、ライブを終えたばかりのリーザが飛び込んできた。
「カフェのオムライスが飛ぶように売れて、食材が足りませんの! あと、スパのフルーツ牛乳も追加発注をお願いしますわ!」
「了解! 今すぐシステムから補充するね!」
ヒカリはダンジョンクリエイトのパネルを高速でタップし、厨房と脱衣所に直接物資を転送した。
「マスター、ドッグランのポチたちのおやつも補充しておきました。それから、迷子になった子供を一人、無事に保護してキャルルさんに引き継いであります」
シンがタブレットを操作しながら、流れるようにヒカリのサポートに入る。
「ありがとう、シンくん! 本当に助かる!」
忙しい。目が回るほど忙しい。
だけど、ヒカリの心は嘘みたいに軽く、晴れやかだった。
(……私、会社辞めて、異世界に来て……本当に、本当によかった)
誰かの理不尽な命令で動くのではなく、自分の意志で、自分が大切にしたい人たちのために働くこと。
その結果として、たくさんの人が笑顔になってくれること。
それが、どれほど尊くて、幸せなことなのか。
「あ、そうだ。シンくん、ちょっとこっち来て」
「はい、マスター。何でしょうか?」
ヒカリはモニターから顔を上げ、振り返ってシンを呼んだ。
シンがヒカリの隣に歩み寄ると、ヒカリは自分の首にかけていた『STAFF』のネームプレートを外し、シンの首にかけ直した。
「……マスター?」
「シンくん、今日はお疲れ様。インフォメーション係の仕事はここまで。あとは私がモニターを見てるから、シンくんはお客さんとして、ワンダーパークを楽しんできて」
ヒカリの言葉に、シンの目が丸くなる。
「なっ……ダメです! オープン初日のこんな混雑時に、僕が持ち場を離れるなど……! あなたの護衛はどうするんですか!」
「ここは絶対安全領域だよ。それに、シンくんも昨日までずっと気を張ってたでしょ? たまには羽を伸ばして、温泉に入って、美味しいもの食べておいで」
ヒカリは、シンの背中をぐいっと押して、部屋の出口へと向かわせた。
「でも……」
「これはダンジョンマスターからの命令です! ちゃんと遊んでくること! わかった?」
ヒカリが少しだけ強めの声で言うと、シンはぴたっと動きを止め、それから、困ったような、でも嬉しそうな顔で小さく息を吐いた。
「……わかりました。ですが、1時間だけです。それ以上は、僕があなたと離れていることに耐えられませんので」
「はいはい、わかったから。いってらっしゃい!」
ヒカリに押し出されるようにして、シンはマスタールームを出て行った。
一人になったマスタールーム。
ヒカリは大きく背伸びをして、ふかふかのソファに腰を下ろした。
モニターの中では、ニャングルが商売繁盛に笑い転げ、リーザがアンコールに応えて歌い、キャルルが子供たちと温泉に向かっている。
そして、戸惑いながらもカフェの席につき、美味しそうにオムライスを食べるシンの姿が映っていた。
「……完璧」
ヒカリは、机の上に置かれたマグカップを手に取り、温かい紅茶を一口飲んだ。
理不尽に怯え、終電の窓ガラスに映るボロボロの自分を見て泣いていた『限界社畜の木本ヒカリ』は、もうどこにもいない。
ここにいるのは、世界で一番安全で、世界で一番楽しい夢の国を創り上げた、一人の誇り高き『ダンジョンマスター』だ。
「よしっ! 午後も気合入れていこう!」
ヒカリはパンッ! と両頬を叩き、満面の笑みでモニターに向き直った。
彼女が創り上げた『ポポロ・ワンダーパーク』。
ここはまだ、第1層のカフェ&スパエリアがオープンしたばかりの小さなテーマパークに過ぎない。
これから先、新たな階層を開拓し、新しいアトラクションを作り、もっともっとたくさんの人々を笑顔にしていくことになる。
限界社畜OLが異世界で見つけた『本当の居場所』。
最強で過保護な護衛と、愉快な仲間たちと紡ぐ、誰も傷つかないダンジョン経営の物語は、ここからが本当の始まりなのだ。
皆様、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
『限界社畜OLの絶対安全ダンジョン経営』、これにて第1章完結となります!
前世で理不尽に摩耗し、ボロボロになっていたヒカリちゃん。
異世界で【ダンジョンクリエイト】という力(と、社畜時代のディレクション能力)を使い、ついに自分と仲間たちが心から笑える『本当の居場所』を完成させました!
大国の人々が平和に温泉に浸かり、魔獣がもふられ、シンくんがオムライスを食べる。ヒカリちゃんの「異世界に来てよかった」という心からの笑顔に、少しでも癒やしと爽快感を感じていただけていれば幸いです。
そして、最強だけど不器用で過保護なシンくん。
ヒカリちゃんの隣で完全に武装解除してしまいましたが、今後も彼女を守るため、コンマ2秒のクイックドロウと限界突破の過保護っぷりを発揮してくれることでしょう!
本作をここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
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また次のアトラクション(お話)で、皆様をお迎えできる日を楽しみにしています!




