非常識な侵入者たちと、恐怖のアトラクション
非常識な侵入者たちと、恐怖のアトラクション
「クソッ!! なんで道が繋がってねえんだよ!!」
ポポロ・ワンダーパークの特設アトラクション『無限ミラーメイズ・地獄のふれあいコース』。
その内部では、Bランク冒険者パーティ『ブラッディ・ファング』のリーダー・ギランが、鏡の壁に向かって怒号を上げていた。
右も左も、前も後ろも、自分たちの間抜けな顔を映し出す鏡ばかり。
進んでも進んでも元の場所に戻ってくるような感覚に陥り、方向感覚は完全に狂っていた。
「ギ、ギランの旦那! 後ろから足音が!」
「チィッ! 魔法で壁ごとぶっ飛ばして出口を作るぞ! 魔法使い、やれ!」
ギランの怒声を受け、後衛の魔術師が杖を構えた。
「燃え盛れ、紅蓮の炎! 『ファイア・バースト』!!」
高密度の魔力が込められた炎の弾が、鏡の壁に向かって放たれる。
Bランク魔術師の全力の魔法だ。分厚い鉄板すら熔かす威力があるはずだった。
――ポンッ! パラパラパラ……。
「……は?」
炎の弾が壁に激突した瞬間。
爆発音の代わりに気の抜けたような破裂音が鳴り、炎は一瞬にして『色とりどりの紙吹雪』と『キラキラ光る星型のシール』に変わって、冒険者たちの頭上にヒラヒラと降り注いだ。
「な、なんだこれは……! 俺の魔法が、ただの宴会グッズに……!?」
「バ、バカな! なら俺の剣で――うりゃぁっ!」
別の剣士が、ミスリル製の長剣を思い切り壁に叩きつける。
だが、刃が壁に触れた瞬間、剣先が『ぐにゃり』とゴムのように曲がり、ビヨンッ! と間抜けな音を立てて剣士の顔面を打ち据えた。
「痛ぇっ!? な、なんだこの剣! 柔らかくなってるぞ!?」
彼らは理解していなかった。
このダンジョンが『絶対安全領域』であることの意味を。
ここでは、空間や他者を傷つけようとする『悪意のある攻撃』はすべて強制的にシステムによって無効化され、無害なジョークグッズやパーティ演出に変換されてしまうのだ。
「ひぃぃっ! だ、旦那ぁ! 来ます! 化け物どもが来ます!!」
振り返った彼らの目に映ったのは、暗闇から飛び出してきたSランク魔獣『ヘルウルフ』――ヒカリが命名した『ポチ』の、赤黒い雷を纏った(ように見える)巨体だった。
「グルルォォォォォッ!!」
「うぎゃぁぁぁっ! 食われるぅぅ!!」
ギランたちは悲鳴を上げて頭を抱え、その場にうずくまった。
Sランク魔獣の恐ろしい牙が、自分たちの首筋を噛み砕く――そう覚悟した、次の瞬間。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」
「……え?」
「ペロペロペロペロペロペロ!!」
「うわぁぁっ!? な、なんだ!? 舐められてる!?」
ヘルウルフのポチは、ギランにのしかかると、その巨大な舌で彼の顔面を嬉しそうに舐め回し始めた。
ポチにとっては、「ご主人様のお客様が、床に転がって遊んでくれている」という認識なのだ。
「や、やめろ! 離れろバケモノ!! うおぉぉ、よだれがすげえ! 息がくせえ!!」
牙によるダメージは一切ない。
しかし、大の大人がSランク魔獣に押し倒され、全身をよだれまみれにされるという、極限の恐怖と凄まじい不快感がギランの精神をゴリゴリと削っていく。
さらにその後方からは、Aランク魔獣のグリズリー・ベア(ヒカリ命名『クマ吉』)がのっしのっしと歩み寄り、逃げようとした魔法使いを背後からガバッと抱きしめた。
「ひぎぃっ!? 骨が、骨が砕け……砕け……ない?」
強烈なベアハッグ。しかし、グリズリーの腕はまるで高級羽毛布団のようにフカフカで柔らかく、魔法使いの体を優しくホールドしているだけだった。
だが、身動きが全く取れないため、魔法使いは「いつでも首をへし折られる」という恐怖に震え続けるしかない。
「あわわわ……た、助けてくれぇ……!」
誇り高きBランク冒険者たちは、一切の流血がないまま、モフモフの魔獣たちによる『恐怖のふれあいタイム』によって完全に心を折られようとしていた。
◆ ◆ ◆
「あはははっ! クマ吉、ナイスハグ!」
マスタールームのモニターの前では、ヒカリがキャラメルポップコーンを口に放り込みながら、ゲラゲラと笑い声を上げていた。
「ヒカリさん、ポップコーンのおかわりをお持ちしましたわ!」
「ありがとうリーザちゃん。ほら、見て見て。あのおじさん、ポチのよだれで顔がテッカテカになってるよ」
「まぁ! アイドルの握手会に時々来る、やばいオタクみたいにドロドロですわね!」
ヒカリとリーザは、モニターの中で半泣きになっているならず者たちを指差して、無邪気に楽しんでいる。
その背後で、シンは腕を組み、モニターを真剣な目で見つめていた。
「……見事です、マスター」
「ん? シンくん、どうしたの?」
「物理的なダメージを一切与えず、対象の武器を無効化し、魔獣の圧倒的な質量と威圧感だけで、相手の『精神とプライド』のみを的確に破壊していく……。これは、USSSの非致死性制圧マニュアルの究極形です。僕の銃弾などよりも、はるかに残酷で効果的な制圧戦術だ」
シンは、ヒカリの『遊園地プロデュース』を、高度な心理戦・拷問戦術だと勘違いして深く感動していた。
「いや、ただの迷路と動物ふれあいコーナーなんだけどね……」
ヒカリが苦笑いしていると、ニャングルが算盤を片手にヒカリの隣からモニターを覗き込んできた。
「いやぁ、ヒカリはん、あんたホンマにえげつないで。冒険者っちゅうのは、死ぬことより『無様に遊ばれること』を嫌う生き物や。あいつら、一生のトラウマになるで、これ」
ニャングルは冷や汗をかきながら、ヒカリの手腕に恐れおののいていた。
「でも、まだ反省の色が足りないみたいだよ。ほら」
ヒカリがモニターを指差す。
迷路の中で、なんとかポチのよだれ地獄から這い出したギランが、再び剣を取り出し、八つ当たりのように壁の鏡をガンガンと柄で殴っていた。
「クソッ! クソッ! 開け! 開けやがれ!!」
「あーあ。うちの大事な備品を叩いちゃダメでしょ。はい、マナー違反のペナルティね」
ヒカリは、マスターパネルの『アトラクション・ギミック』のボタンを、ポンッと軽快にタップした。
迷路の中。
壁を叩いていたギランの頭上に、突如として空間の歪みが出現した。
「あ? なんだ……?」
ギランが見上げた瞬間。
ガァァァァァァンッ!!
「ぐべぇっ!!?」
虚空から落下してきた『巨大な金ダライ』が、ギランの脳天をクリーンヒットした。
ダメージこそ『たんこぶ』程度に抑えられているが、その間抜けすぎる金属音と衝撃に、ギランは目を回してフラフラとよろめいた。
「だ、旦那ぁっ!? しっかりしてくだせぇ!」
「あ……あへぇ……」
さらに、追い打ちをかけるように、シャドウ・リンクス(Bランク巨大山猫)が、首から『ペナルティ係』と書かれた札を下げて、小さなワゴンを押しながら近寄ってきた。
ワゴンの上には、ドロドロとした深緑色の液体が入ったジョッキが並んでいる。
「ニャァ」
シャドウ・リンクスは、ギランの部下たちの前へジョッキを差し出した。
「な、なんだこの臭え汁は……!」
それは、ヒカリが農園で育てた『陽薬草』に、キャルルのウサギ耳から抽出した健康エキスを混ぜ合わせ、さらにゴーヤとセンブリを致死量レベルでブレンドした、特製『激辛健康青汁』だった。
「ニャァ!!(飲め!!)」
シャドウ・リンクスがシャーッと威嚇する。
「ひぃっ!! の、飲みます! 飲みますから!!」
部下たちは泣く泣くジョッキを手に取り、一気に喉に流し込んだ。
「――――ッ!!?!?!」
数秒後。
部下たちはあまりの苦さと辛さ、そして青臭さに白目を剥き、声にならない絶叫を上げてその場にバタバタと倒れ込んだ。
※ただし、超強力な健康飲料であるため、彼らの日頃の不摂生と内臓疲労はみるみるうちに回復していくという、無駄に有益な効果付きである。
「よしよし、これで少しは大人しくなったかな」
ヒカリはポップコーンの最後の一粒を食べ終え、パンパンと手を払った。
「そろそろ、ゴールに案内してあげようか。シンくん、出番だよ」
「……イエス、マスター。彼らに、身の程というものを教えて差し上げましょう」
シンは深く一礼すると、冷酷な暗殺者の顔に戻り、黒いスーツを翻してマスタールームの出口へと向かった。
流血なき地獄のパーティーは、いよいよクライマックスを迎えようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ならず者冒険者たち、物理攻撃が効かない『絶対安全領域』で、モフモフたちに遊ばれ(精神を破壊され)て大パニックです!
魔法は紙吹雪に、剣はゴムになり、金ダライが落ちてきて激辛青汁を飲まされるという、完全にバラエティ番組の罰ゲーム状態(笑)。
ヒカリちゃんの「おもてなし(物理ダメージゼロの精神攻撃)」に、シンくんもニャングルも震え上がっています。
次回、ついに迷路を抜けたならず者たちの前に、我らが最強過保護ガードマン・シンくんが立ちはだかります。
暴力が無効化されているはずの空間で、シンくんがコンマ2秒で魅せる「最強の制圧劇」とは!? スカッとざまぁ編、堂々の決着です!
「金ダライ笑った!」「モフモフのよだれ地獄(笑)」「ヒカリちゃんえげつない!」と思っていただけましたら、
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次回のスカッと展開も、どうぞお楽しみに!




