不穏な足音。空気を読まない侵入者と、極上『おもてなし』の準備
不穏な足音。空気を読まない侵入者と、極上『おもてなし』の準備
ルナミス帝国とポポロ村の境界線付近に位置する、うらぶれた酒場。
そこでは、帝国で悪名を轟かせるBランク冒険者パーティ『ブラッディ・ファング』の面々が、下品な笑い声を響かせながらエールを煽っていた。
「ギャハハッ! マジかよ、その話」
「ああ、マジだぜ、ギランの旦那。ポポロ村の近くにできた新しいダンジョン……そこのマスターは、戦闘力ゼロのただの小娘らしい」
リーダーである大剣使いの男・ギランは、情報屋の言葉にニヤリと醜い笑みを浮かべた。
「しかも、そのダンジョンには凶悪なトラップは一切なし。SランクやAランクの魔獣がウヨウヨいるらしいが、なぜかみんな牙を抜かれたように大人しくて、カフェの店員や案内係をやらされてるって話だ」
「なんだそりゃ。魔獣をペットにして遊んでるのか? バカな女だぜ」
ギランは卓上のエールを一気に飲み干し、ドンッとジョッキを叩きつけた。
「今、あのダンジョンは三大国の連中がこぞって押し寄せる『金のなる木』だ。温泉だのカフェだので、毎日金貨が湯水のように動いてるらしい」
「へへっ、ってことは……」
「ああ。俺たち『ブラッディ・ファング』がちょっくら出向いて、その小娘を脅してダンジョンのマスター権限を奪い取ってやる。大人しい魔獣どもは売り飛ばせば莫大な金になるしな」
ギランたちは、武器を鳴らしてゲラゲラと下劣な笑いを交わした。
彼らは知らなかった。
そのダンジョンが、なぜ『トラップなし』で成り立っているのか。
そして、その小娘の背後に、いかなる『怪物』が控えているのかを。
「行くぞ野郎ども! ぬるま湯に浸かってるバカな女に、本物の恐怖ってやつを教えてやる!」
彼らは、自分たちがこれから向かう場所が、冒険者の常識が一切通用しない『テーマパーク』であることなど、知る由もなかった。
◆ ◆ ◆
「うん、いい匂い! キャラメルが綺麗に絡まったね!」
同じ頃、ポポロ・ワンダーパークのマスタールームでは、ヒカリが甘い匂いを漂わせながら、新しく導入したポップコーンメーカーを覗き込んでいた。
ニャングルにお願いして仕入れてもらったトウモロコシの魔力種を使い、アトラクション用のおやつを試作しているのだ。
「シンくん、はい、あーん」
「あーん……サクッ。……っ、適度な甘さと塩味。素晴らしいです、マスター。これなら、毒の有無を疑う前に手が伸びてしまう恐ろしい兵器になります」
ソファーに座り、数台のモニター(シンが「お客様の安全管理のため」と言い張って設置した防犯カメラの映像だ)を睨みつけていたシンも、ヒカリからポップコーンを口に入れてもらい、真顔で絶賛している。
「リーザちゃんも食べる?」
「いただきますわ! むぐむぐ……はぁ、甘いお菓子……! パンの耳に砂糖をまぶして食べていたあの頃の私に、この味を教えてあげたいですわ……!」
リーザはポップコーンを両手で抱え込み、幸せそうに頬張っている。
そんな平和な光景が広がっていた、まさにその時。
『ピーッ! ピーッ! ピーッ!』
マスタールームに設置された、防犯アラームが甲高い音を立てた。
「ん? なになに?」
ヒカリがモニターに目を向ける。
入り口のエントランスゲート。そこには、下品な鎧を着込み、武器を剥き出しにした六人の男たちが、ニャングルの屋台を蹴り飛ばしてダンジョン内にズカズカと踏み込んでくる姿が映っていた。
『おい! ここのマスターを出せ! このダンジョンは今日から俺たちブラッディ・ファングが管理してやる!』
『ヒィィッ! や、やめーや! ワイのポポロまんじゅうが潰れてまうやろ!』
モニター越しに、男たちがニャングルを乱暴に突き飛ばすのが見えた。
「……マスター」
ヒカリの隣で、空気が一瞬にして凍りついた。
振り返ると、シンの瞳から先ほどまでの穏やかな光が完全に消え去っていた。
「エントランスに、武装した不審者が六名。うちのテナントに暴行を加え、器物破損を行っています」
チャキッ、と無機質な音が鳴る。
シンは一切の無駄のない動作で、腰のホルスターからGlock19を引き抜き、スライドを引いて薬室に弾を送り込んだ。
その視線は、モニターに映る男たちの『眉間』と『心臓』を、壁越しに正確にロックオンしている。
「これより、害獣駆除のオペレーションに移行します。許可を」
「ストップストップ!」
ヒカリは慌てて、シンの構えた銃身を両手で包み込んで押し下げた。
シンは、ヒカリの手に触れられた瞬間にビクッとして殺気を引込めたが、それでも不満そうに唇を噛んでいる。
「マスター、あいつらはあなたの居場所を汚すゴミです。あんな連中、僕ならコンマ2秒で全員の脳幹を撃ち抜いて――」
「だーかーら、ここは絶対安全領域! 殺しはなし! それに、彼らはあそこで武器を振り回してるつもりだろうけど、ダンジョンのルールで『攻撃の威力』はゼロになってるはずだから、ニャングルさんも怪我はしてないよ」
「ですが……!」
ヒカリは、モニターの中で喚き散らしている男たちをじっと見つめた。
前世で、イベント会場で酔っ払って暴れるクレーマーや、理不尽に怒鳴り込んでくる下請けの元請け業者などを腐るほど見てきたヒカリにとって、あの手の『威圧してマウントを取ろうとする輩』の心理は手に取るようにわかった。
「……あいつら、私が女で戦闘力がないって舐めてかかってるね。ダンジョンを奪う気満々みたい」
「ええ。万死に値します」
「なら……ちょっとだけ、『おもてなし』をしてあげようか」
ヒカリの口角が、ニィッと上がった。
それは、天使のように優しいヒカリが時折見せる、徹夜明けのイベントディレクター(ブラック企業仕込み)特有の、冷酷で完璧な『裏の顔』だった。
「マスター……?」
「彼ら、冒険者なんでしょ? ダンジョンを攻略しに来たんだよね? なら、テーマパークの『お客様』として、最新のアトラクションを体験してもらわなきゃ」
ヒカリは、【ダンジョンクリエイト】のマスターパネルを空中に展開した。
「シンくん、銃はしまって。リーザちゃん、ポップコーンのおかわり作ってきて」
「かしこまりましたわ!」
ヒカリはパネルの『エリア設定』を高速でスワイプし、現在男たちがいるエントランスホールの奥の構造を、瞬時に書き換えていく。
「暴力も悪意も無効化されるこのダンジョンで、彼らがどれだけ無力か、たっぷり味わってもらおうじゃない」
タンッ! と、ヒカリが最後に『実行』ボタンをタップした。
◆ ◆ ◆
「おい! 誰もいねえのか! 舐めやがって!」
エントランスで喚いていたギランは、奥へ続く扉を乱暴に蹴り開けた。
しかし、扉の先にあるはずのカフェエリアは消え失せ、代わりに薄暗く、鏡張りの不気味な通路がどこまでも続いていた。
「なんだ、ここは……? 話が違うじゃねえか。トラップはねえって聞いてたぞ」
「へへっ、ギランの旦那。どうせただの脅かしですよ。こんなチンケな迷路、俺たちの力で壁ごとぶっ壊してやりゃあ――」
ギランの部下の一人が、大斧を振り上げ、鏡の壁に向かってフルスイングした。
ガキィィィィンッ!!
「ぐあぁぁっ!?」
大斧は壁に傷一つ付けることなく弾き返され、男は激しい反動で手のひらを破裂させんばかりの衝撃を受け、無様に尻餅をついた。
この空間にあるすべての物質は、ヒカリのマスター権限によって『破壊不能』の属性が付与されているのだ。
「ちぃっ……! なんだこの硬さは! 魔法防御か!?」
ギランが舌打ちした、その時。
『――ウェルカム! ポポロ・ワンダーパークへようこそ!』
天井のスピーカーから、妙に明るい陽気なアナウンスが響き渡った。
『血の気の多い冒険者の皆様! 当ダンジョン最新のアトラクション、【無限ミラーメイズ・地獄のふれあいコース】へようこそ!』
「な、なんだこの声は! どこから聞こえる!」
『ルールは簡単! 制限時間内にこの迷路から抜け出せたら、皆様の勝ち。抜け出せなかったら……可愛い従業員たちから、ペナルティを受けてもらいまーす!』
「ふざけやがって……! 出てこい小娘! ぶっ殺してやる!」
ギランが怒号を上げた瞬間、迷路の奥から、彼らの背後から、ズシン、ズシンと重い足音が響き始めた。
「な、なんだ……?」
暗闇から姿を現したのは――
よだれを垂らしたSランク魔獣『ヘルウルフ(ポチ)』。
爪を研ぐBランク魔獣『シャドウ・リンクス』。
そして、巨大なAランク魔獣『グリズリー・ベア』だった。
「ひぃっ!? S、Sランクだとぉ!?」
「なんでこんな序盤にバケモノがウヨウヨいんだよ!!」
魔獣たちは、ヒカリの『おもてなしの指示』を受け、最高に楽しそうな顔(冒険者たちから見れば残忍な顔)で、彼らを迷路の奥深くへと追い詰め始めた。
「さあ、シンくん。私たちはポップコーンを食べながら、彼らがクリアできるか見学しようか」
「……マスターは、時折悪魔のような笑顔を見せますね。最高です」
絶対安全領域での、流血なき地獄のパーティー(アトラクション)が、今まさに始まろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
平和なダンジョンに、空気を読まないならず者冒険者たちがやってきました。
コンマ2秒で撃ち殺そうとするシンくんをヒカリちゃんが制止し、代わりに『無限ミラーメイズ・地獄のふれあいコース』をオープンさせました!
戦闘力はゼロでも、社畜時代に培ったクレーマー撃退のノウハウと、ダンジョンマスターの権限を使えば、ヒカリちゃんは最強のプロデューサーです(笑)。
次回、武力が一切通じない絶対安全領域で、ならず者たちが『モフモフの従業員たち』に完膚なきまでに遊ばれ(精神を削られ)る、爽快なギャグざまぁ回をお届けします!
「ヒカリちゃんの裏の顔が出た!」「シンくんの『最高です』に笑った」「ならず者たちドンマイ」と思っていただけましたら、
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皆様の星評価が、ダンジョンの新しいアトラクションを生み出す力になります。
次回のスカッとざまぁ展開も、どうぞお楽しみに!




