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打ち切られた俺のラノベ、国民的アイドルに“人生で一番好きな本”と紹介されて大バズりし、アプローチされてしまう  作者: 歩く魚


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7.一晩かけて考えたのに…

 翌朝、まどろみの中でスマホに手を伸ばす。通知が来ている。


『おはようございます! 昨日はありがとうございました!』

『証明する方法、一晩じっくり考えてきました!』


 時刻は朝の七時を回ったところだった。

 アイドルというのは朝が早いものなのか、それとも単に張り切っているだけなのか。

 どうせ一晩寝れば醒めているだろうと踏んでいた熱は、日付をまたいでもまるで衰える気配がない。


「おはようございます。それで、今日はどうやって証明するんですか」

『じゃーん!」

『これです』


 送られてきたのは一枚の画像だった。また自撮りかと身構えたが、写っていたのは手書きのメッセージカードだ。「枯れ尾花先生へ」という書き出しから始まる短い文章の末尾に、丸みを帯びた字でサインが添えられている。


『私の直筆サインです! ファンの方にお渡しするときと同じものなので、これなら本物だって信じてもらえるかなって!』


「あんまり詳しくないんですけど、サインの画像も検索すれば出てくるんじゃないんですか?

 それを見ながら真似して書けば、誰だって同じものが用意できるんじゃ……」


『あっ』


 数秒の沈黙があった。


『またダメでした……』


 あとあと調べてみたが、アイドルのライブで売っているブロマイド的なものを買うと、低確率で直筆サイン入りのものが紛れている事が多いようだ。


 そして、プラネタリアもその制度を利用している。


「というか、その方向だと永遠に証明できないと思いますよ。

 文字も写真も声も、今の時代いくらでもコピーできるので。

 物理的な証拠で本人だと示すのは……たぶん無理です」


『そんな……一晩かけて考えたのに……』


 地面に埋まらんばかりに肩を落としている様子が、文面からでも伝わってくる。

 

 本物かどうかも怪しい相手だが……ここまでの徒労を続ける詐欺師がいるとは思えない。

 この健気な空回りそのものが何よりの証明になりつつある。


「もういいですよ。

 七割くらい信じてます」


『ほんとですか!?』


「昨日からの流れでサインの画像を添えてくる詐欺師は、さすがにいないと思うので」

『よかったぁ……褒められてますよね!』


 全然褒めてないです。

 詐欺師なら、もっとマシな手を考えてくるって事なんだが、伝わっていないらしい。


『安心してちょっと泣きそうです』


 心の底からほっとしているようだ。

 画面の向こうで胸を撫で下ろしているシルエットが目に浮かんだ。


 それを真昼クレアに置き換えてみると……昨日のステージであれだけの数の人間を見下ろしていた人物と同じ相手だと、ちょっと難しいな。


『じゃあ、これからは証明とか抜きで、普通にお話ししてもいいですか!?』

「普通に、ですか?」


『前から、枯れ尾花先生とお話ししてみたかったんです。

 一人の読者として、ファンとして』


 どちらかと言えばファンは俺の方だと思うんだが、寝起きの頭でぼんやりしているせいもあって受け入れてしまった。


「まぁ、いいですけど。期待されても大した話はできませんよ」

『嬉しいです!』

『さっそく聞いちゃいます!』


『日陰くんと二等星って、どうやって思いついたんですか?』


 また本の話か、と思った。

 

 ただ、昨日のような身構える気持ちは不思議と湧いてこない。

 この問いからは、粗探しや詮索の気配がまるでないからだ。

 ただ純粋に知りたがっている。それが文字から伝わってくる。


「思いついたというほど大層なものじゃないです。

 自分が読みたいものを、自分で書いただけなので。

 たまたまそれが、あの二人の話だったというだけで」


『どうして、脇役を主人公にしたんですか?』


「主役になれる人間の物語なら、世の中に掃いて捨てるほどあるじゃないですか。

 同じものをもう一つ増やしたところで、意味がないと思ったんです。

 誰も拾わない側の人間を書いたほうが、まだ自分が書く理由になる気がして」


『わたし、本当に好きなんです』


 俺のことじゃないと分かっているのに、心臓が強く跳ねる。


『主役になれない子が、それでも自分の物語の中では主役なんだって気付く場面。

 あそこを読んだとき、これは自分のことだって本気で思ったんです。

 何度も読み返して、そのたびに泣きました』


『って、番組を見てくださったなら知ってましたよね。

 ごめんなさい!』


「そう言ってもらえるのは、作者としてありがたいです。

 冥利に尽きるってやつですかね」


 スマホの縁を何度も指でなぞる。


『社交辞令で言ってるんじゃないんですよ。

 本当に救われたんですから』


『枯れ尾花先生は文豪ってやつだと思います』


 だめだ、このまま彼女に会話の主導権を渡していたら褒め殺されてしまう。

 なんとか俺が話をコントロールしなくては。

 

「真昼さんは、どうしてアイドルになったんですか?」


 こちらから尋ねてみたが、いきなり過ぎただろうか。

 普段の俺なら、他人の事情にこうして踏み込む真似はしないのに。


『わたしですか?

 目立つのが好きだから……とかじゃないんですよ。

 むしろ正反対です』


『昔から、自分の中身が空っぽな気がしていて。

 何者かになれたら、その不安が消えるんじゃないかって思ったんです。

 だから、人前に立つ仕事を選びました』


「それで、何者かになれましたか?」


『……正直に言うと、まだ分からないです』


 少しの間を置いて、文字が続いた。


『でも、枯れ尾花先生の本を読んでから、空っぽのままでもいいのかなって、少しだけ思えてきたんです。

 主役になれなくても、自分の物語はちゃんとあるって教えてもらったので』


 俺の書いたものは、彼女の中では残り続けていたらしい。


 そこから先、会話は途切れることなく続いた。

 

 好きな作家の話から最近読んだ本の話へ、話題は気の向くままにあちこちへ転がっていく。

 気付けば一時間近く、俺はベッドの上でスマホを握ったまま座り込んでいた。

 

 これほど長く誰かと言葉を交わしたのが、いつ以来のことなのか思い出せない。


『あの、ずっと気になってたことがあるんですけど』

「なんですか?」

 

『あの二人は、最後どうなったんですか?

 本編だと、そこは書かれてなかったので』


 思わぬ角度の問いだった。結末をぼかしたのは意図的だった。


「わざと書かなかったんです。二人がどんな関係性を選んだのかは読んだ人が決めればいいと思って。

 続きを勝手に想像してもらえたら、それが一番いいなと」


『えっ、そうだったんですか!?

 わたし、勝手に続きを考えてノートに書いたりしてました!!』


 二次創作までされていたのか。


『あの、いつか読んでもらえたりしますか?』


 作者本人に自分の妄想を読まれるなんて、俺なら遠慮したい。

 文章力だって遥かに及んでいないし、作者からしたら陳腐な展開なことは間違いないからだ。


 このメンタルの強さもアイドルの証なのかもしれない。


「機会があれば」

『約束ですよ! 絶対ですからね!』


 子供の様なはしゃぎぶりだった。


『あの』

 

 ふいにメッセージの流れが止まった。

 何かを言い出すのを躊躇う沈黙があって、それは送られてきた。


『こんなことをお願いするの、迷惑だったら本当にごめんなさい』


 なんだろう、そろそろ壺を買えって言われるのか?

 少しばかり緊張していると、それは送られてきた。

 

『一度、直接お会いできませんか?』


ついに次回、物語が動き出す…?


星をいただけるととても嬉しいので、お手数ですがよろしくお願いいたします!

作品作りにご協力いただけると幸いです!


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