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打ち切られた俺のラノベ、国民的アイドルに“人生で一番好きな本”と紹介されて大バズりし、アプローチされてしまう  作者: 歩く魚
第1章 打ち切り作家と一等星

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36.最初の一文字

 こういう意味で机に向かうのは久しぶりだった。

 パソコンの前に座って、真新しい原稿を開く。


 一行目の先頭でカーソルが点滅していて、何もない白い行が、下にずっと続いている。


 俺は、その白さをじっと眺めていた。


 心が折れてから、小説を書こうとするたびに、最初の一行が重かった。


 何を書くか決まっていても、真っさらな空間に一文字目を置くまでに時間がかかる。


 それが今日は、いつもより遠く感じなかった。


 窓の外から、舐めるように光が通過する。

 車が一台通り過ぎていった。


 前にクレアに会ってから何日か経っている。

 あの夜のことを、俺は何度も思い返していた。


 そして、思い返すたびに指がそわそわと動く。

 机の上にあっても、スマホを触っていても、キーボードを叩きたがっている。


 書きたいという気持ちが、どこからか湧いてくる。

 この気持ちの出どころを、俺はもう、取材だとは呼ばない。

 

 取材のつもりで彼女に会いに行ったのは確かだ。

 人を観察して、物語の種にする。

 そう自分に念を押して、何度も逢瀬を重ねた。


 けれど、いつからか、拾い集めることより彼女と過ごす時間のほうが目的になっていた。

 認めたくないと思っていたことも、もう誤魔化しようがない。


 彼女がいなければ俺は、きっと今も白い画面の前で固まっていた。


 スマートフォンが机の上で短く震えた。

 手に取ると、MINEに一件のメッセージが届いている。

 差出人の名前を見て、口元がゆるむのを抑えられない。


『律さん、まだ起きてますか?』


 名前で呼ばれるのは、まだ慣れない。

 文字で見ても面映ゆさが先に立つ。


「起きてます。真昼さんこそ、遅くまで起きてて大丈夫なんですか?」

『わたしは明日はお休みなんです』

『だから夜更かししちゃってます』


 彼女の生活は、俺の知らないところで分刻みで動いている。

 テレビ、ライブ、撮影、その他のなにか。


 その合間の僅かな休みに、こうして俺にメッセージを送ってくれる。

 どれほど貴重な時間を割いているのか、俺には想像することしかできない。

 

「そうですか。ゆっくり休んでください」

『はい!』

『あ』

『でもその前に、ひとつ報告があって』


 少し間が空いて、一枚の写真が送られてきた。


 彼女の部屋の棚の一角が写っている。

 本や小物が並ぶ真ん中に、あの置物がちょこんと置かれていた。

 周りの物より、一際いい場所に飾られている気がする。


『特等席なんです』

「光栄ですね」

『宝物なので、当然です!』

 

 俺が渡したものを、そこまで大事にしてくれているのか。


「気に入ってもらえて良かったです」

『はい!』

『すごく気に入りました!』


 俺はありきたりな返事しかできなかったが、彼女は退屈だと言うこともなく、嬉しそうに返事をしてくれる。

 

『それじゃあ、わたし、そろそろ寝ますね』

「おやすみなさい」

『おやすみなさい、律さん』

『また会えるの、楽しみにしてます』


 少し考えて、「こちらこそ」と送った。

 我ながら短すぎる返事だと思うが、彼女はきっと、それでも笑って受け取ってくれる。


 スマートフォンの画面が暗くなった。

 俺は椅子に座り直して、パソコンのほうへ身体を向ける。


 白い原稿は、さっき開いたときと何も変わっていない。

 カーソルが同じ場所で点滅を続けている。


 しかし、俺には書きたいものがある。


 それが一体どういう話になるのか、大まかには決めているが、これから決めることも多い。

 登場人物が突然、命を吹き込まれたように動き出して、全く違う話になるかも。


 ただ、一つだけはっきりしていることがあった。

 俺は、誰かに読んでほしくて、この話を書こうとしている。


 作家を志す多くの人が最初の一行を書けずに、または一万文字も紡がずに諦めてしまう。


 誰だってそうだ。俺だって同じだ。

 でも、今夜は指が止まらないという予感がある。


 俺はキーボードに両手を置いた。

 一度、大きく息を吸う。


「…………よし」


 俺は、最初の一文字を打ち込んだ。

 一万字で止まらない、最初の一文字を。


律の新作はどんな話になるのか、『日陰くん』は? そして、会長に更なる出番があるのか。


三章くらいまでの構想はあるのですが、新しい作品に着手したいため、ここで完結となります。


普段は一章終わりで関係を持ったり、主人公がヒロインの上をいく作品ばかり書いているので新鮮でした。また似たようなのも書きます。


評価ポイントなどで応援してくれた方に感謝しまくりです。本当にありがとうございました!


また、ポイントをたくさんブチ込んでいただけたら続きを書くかもしれませんし、書籍化になれば(出版社の判断になりますが)ほぼ確実に二章に突入します。


そのため、お手数ですがご協力よろしくお願いいたします!


それでは、ありがとうございました!


追記

3話ぐらい番外編を書くかもしれません。

めちゃくちゃどうでもいい話になると思うので、軽い気持ちで待っててもらえると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
ということは、気まぐれで始まる可能性があるってことか。 主人公再起動物語、としてはバッチリの完結ですかねー ひとまず、お疲れ様です。
完結お疲れ様でした。★★★★★です! とても丁寧に描かれていて物語に惹き込まれました。第一章と言う事で、導入部分としてとても良いと思います。これからどうなるんだろうとワクワクしながら読み進めました。 …
完結お疲れ様でした。 以前から告知されていたので、関係がそこまで進展しないというのはわかっていましたので、この結末もそれなりに納得はできます。恋愛物というよりは、boy meets girlの出会いの…
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