幸せな夢の続き
おまけです。
3階の一番端の部屋。
その部屋の寝台に無理矢理押し込まれた少女は憮然とした表情のまま、寝台の横に椅子を置いて何かを熱心にメモしている青年と、その青年と熱い議論を繰り広げているオオカミを横になりながら見つめていた。
「取り合えず、服は必要だよねぇ」
「服も必要だが、食糧も必要だろう。昔使っていた畑は、随分放置いていたからな。すぐには使えぬし、当分は調達せねばなるまい」
「そうだね。まぁ、おいおい手入れはするつもりだけど、1年位は買い出しが必要か……そうなると馬車と馬も欲しいよねぇ。乗合馬車、本数少なくてさ」
「……そもそも、まだ出てるのか?」
「……その時は、お前に乗っていくから」
「おい!」
グルルル、という低い唸り声に、少女はため息をついた。
「街への馬車なら、私の居た村から少し行った所から、ちゃんと通ってま……るよ」
「うん。努力が見られるね。その調子で頑張って!」
歯が光りそうな爽やかな笑顔で言われ、少女は頬を膨らませる。
「ジャック、止めろ。怒っているぞ。……馬車は、やはり本数が少ないか?」
「……どう、かな?私も、それほど街に行くことがなかったから……」
「そうか……まぁ、調べてみて、駄目ならば馬車と馬も買えばいい。あとは……そうだな、ある程度家具も必要だろう……差し当たって必要なのは、やはりベッドだろうか」
「あ、ベッドはしばらくいいよ」
「?何故だ?今使えるのは、お前のベッドぐらいで」
「うん。だから、一緒に寝ればんグフッ!」
ナイシュの頭突きがジャックの顎に命中した。舌でも噛んだのか、ジャックは床を転げ回っている。
「この、変態がッ!それでよく私のことを変態などと言えたものだ!貴様のほうがよっぽど重度ではないか!貴様など床で寝ればいいのだ!絶対にベッドに近づくな!近付いてみろ、骨も残さず灰にしてくれるわ!」
魔物も吃驚な剣幕で捲し立て、ナイシュはジャックの首根っこを銜えると窓の外へと放り投げた。結構な力で投げた為、森の方まで行ってしまったようだ。木々を揺らす音が聞こえたが、その後は水をうったように静かになった。
「ふう……やっと静かになったか……安静が必要だというのに、あの馬鹿は」
ぶつぶつと文句を言い、ナイシュは少女の下へと戻って来た。
「私が寝ずの番をするから、安心して休むといい」
そう言って、少女の顔にかかった髪を鼻先でよけたナイシュに、少女はクスクスと笑った。
「どうした?」
何が可笑しかったのか分からず、ナイシュは首を傾げた。
(何だか“お母さん”みたい)
勿論母を覚えていないので、それはあくまで世間一般的は“母親象”なのだけれど、とにかくそんな風に思ったとは口が裂けても言えない少女は「ううん。何でもない」と言うと、笑う口元を隠すように蒲団を引っ張り上げた。
「……おやみなさい、ナイシュ」
ぎこちなく告げられた眠りの挨拶に、ナイシュは目元を緩めて
「お休み、スフィア」
少女の本当の名前で、挨拶を返した。
色々なことが起きて、疲れていた少女はすぐに睡魔に襲われる。それに抵抗はしなかったけれど、眠りに落ちる前に少女は思った。
(幸せだなぁ)
柔らかいベッド。温かい布団。お休みの挨拶。本当の名前。――そして、これが明日も続くんだという、安心。
スラは――スフィアは、幸福感に包まれながら、初めてというくらい深い眠りに就くことが出来た。
読んでいただき、ありがとうございました!
ただスラの本当の名前を出すためだけの話でした(笑)
ちなみに、
ジャックは毎日スフィアの寝所に忍び込みます。
で、ナイシュに見つかって、毎回追い出されるのが3人の日課になる、というどうでもいい設定があったりします。……だんだんジャックがロリコンに……^_^;
それでは、失礼します。




