第66話 思わぬ援軍
ピーターは四人を連れ、戻ってきた。カルロスはその中のひとりに駆け寄った。
「叔父さん!」
アレックスだった。「よう」と、軽い様子で手を上げた。
カルロスは他の三人にも見覚えがあった。イリスを振り振り返る。
「遊牧民の長たちだ」
イリスは馬を降り、長たちの前に立った。長たちはその場に跪いた。
「ルーベンス王国の危機と聞きつけ、馳せ参じました」
イリスは戸惑いを隠せない。遊牧民は国を持たない。
「なぜ……?」
アレックスは日に焼けた顔を上げ、笑みを浮かべた。
「ルーベンス王国は遊牧民に優しい国です。対して、リース王国は風当たりが冷たい。居心地の良い場所を守りたい、ただそれだけですよ」
他の長たちもうなずいている。アレックスは続けて言った。
「ルーベンス王国軍の傘下として、俺たちのやり方で自由にやらせていただきたい」
イリスはピーターに視線を向けると、ピーターは軽くうなずいた。
「わかりました。援軍、感謝いたします」
アレックスはカルロスを見た。
「それから、俺たちの大将にカルロスをいただきたい」
それに驚いたのはカルロスだった。目を丸くしてアレックスを見ている。アレックスは笑った。
「なに、イリス王女殿下と繋がりのあるお前を大将をした方が、俺たちがやりやすいだけだ」
イリスもその方がやりやすいと考え、うなずいた。
「許可します。カルロス、頼んだわよ」
カルロスは少し嫌そうだったが、うなずいた。
長たちと一緒にカルロスは歩き出した。アレックスはカルロスの肩を抱く。
「お前、その制服、なかなか似合っているじゃないか」
カルロスは照れくさそうにオレンジの頭を掻いた。
再開した戦場は、状況が一変した。
リース王国軍とルーベンス王国軍の間を遊牧民がかき回している。機動力がまったくもって違う。リース王国に斬り込んだかと思えば、後退を繰り返し、それにリース王国軍は振り回されている。
後退していたルーベンス王国軍が、リース王国軍を押し戻しはじめたのである。
この日、ルーベンス王国軍は遊牧民参戦のおかげでなんとか持ちこたえた。
夜の会議にはイリス、ピーター、カルロスが参加していた。
ピーターは感心したように言った。
「昼間の戦い、見事だった」
それにカルロスはわずかに口元に笑みを浮かべた。
「俺たち遊牧民は馬上での戦いに慣れている。――俺たちは明日、半数を残し、別行動するがいいか?」
「何を考えているの?」
イリスが尋ねると、カルロスは、
「まぁ、見ていろって。俺たちの本領発揮だ」
そう勝ち誇ったように言った。
翌日。
やはり遊牧民の働きは凄まじく、数では負けていないリース王国軍が、今では押されているのが、高台から見ているイリスでもわかった。
カルロスのオレンジの頭は目立つ。それがルーベンス王国軍から三十人ほど離れ、リース王国軍の脇を駆けだした。
それにリース王国軍は驚き、止めようと陣営が崩れた。しかし、カルロスたちの勢いは止まらない。
ピーターはそれを苦笑した。
「カルロスが言っていたのはこれか。国同士の戦いではルール違反ぎりぎりだぞ……」
イリスは口元に手をやった。
「けれど、正式なルールはないでしょう。危険だから誰もやらないだけ」
ホセは口笛を吹き、フィオナは笑顔を浮かべ、手を振り上げた。
「カルロス、やっちゃえ!」
カルロスは槍を持ち、止めようとするリース王国軍の兵士をものともせず、馬で駆けていく。それに続くのはアレックスと他の長たち含め二十五人。
結局、リース王国軍はそれを止められず、撤退の鐘が鳴ったが、そんなことカルロスたちには関係なかった。
本陣に斬り込んだカルロスたちの前に立ちはだかったのは、リース王国騎士団長のジャック・ヒルだ。体格のいい体を鎧に包み、先陣を切っていたカルロスと対峙した。
「卑怯だぞ、貴様ら」
それをカルロスは笑った。
「俺たちは遊牧民だ。国の戦争のやり方なんて知るか」
ジャックとカルロスはお互い間合いを測りながら、馬の歩みを止めない。
「遊牧民がなぜルーベンスに味方している」
「お前が知るところではないよ」
軽口を止めないカルロスに、ジャックは気分が悪そうに構えた。
「リース王国騎士団長、ジャック・ヒル。参る」
「カルロスだ」
ジャックは口元にわずかに笑みを浮かべた。相手は自分の半分くらいの年の少年だ。騎士団長として腕に覚えもある。負ける気がしなかった。槍でカルロスをつく。その一撃は重い。
カルロスはそれを器用に避けた。槍を回しながら、間合いぎりぎりを保っている。
ジャックは技を繰り出し、カルロスを追い詰めているはずだった。
当のカルロスは飄々とした様子で馬上にあり続ける。顔色一つ変えない。打って変わって、ジャックは息が上がりはじめていた。次で終わりにしようと、ジャックはさらに重い一撃を繰り出した。それをカルロスは馬の手綱から手を離し、躱した。それをジャックは見逃さず、にやりと笑い、そのまま馬から叩き落そうとした。
だが、カルロスは手綱を握らず、馬を操り、槍を振った。
ジャックは何が起きたかわからないまま、気がついたときには地面に仰向けに倒れていた。
カルロスは槍を捨て、勢いよく馬から飛び降り、テントからこそこそと逃げようとしているアンドリューに剣を突きつけた。
「お前が、リース国王だな」
アンドリューは怯えた顔で剣先を見た。
「ち、違う! 国王はわしじゃない。こいつだ」
隣にいた従者を指差したが、それはどう見ても兵士で、カルロスはため息をついた。
「なんだ、小物じゃないか」
それにアレックスは苦笑し、振り返り、勝鬨をあげた。




