第9話 兵士を減らしたら軍が強くなった
「俺たちは捨てられるのか!」
兵士の一人が叫んだ。
当然の反応だった。
兵士でなくなる。
それは給料を失うことだ。
誇りを失うことだ。
家族に顔向けできない者もいる。
俺は壇上に立ち、百二十七人を見る。
怖くないと言えば嘘になる。
剣術F。
魔力F。
この場の誰か一人が本気で殴れば、俺は簡単に倒れる。
それでも言うしかない。
「捨てません」
ざわめきが広がる。
「戦闘部隊から外れる者にも仕事を用意します。街道整備、倉庫管理、農地警備、輸送隊。給料は下がる者もいます。ただし、家族が飢えない形にします」
「それで納得しろと?」
「納得しなくていい」
空気が止まった。
「ただ、選んでください」
俺は続ける。
「今のまま三か月後に全員で沈むか。役割を変えて、領地を生かすか」
兵士たちは黙った。
正論だけでは足りない。
だから俺はガルドへ視線を送った。
ガルドが前へ出る。
「残る五十人は地獄を見る」
兵士たちの顔が変わる。
「俺は甘くしねえ。走らせる。食わせる。寝かせる。もう一度走らせる。武器も隊列も全部やり直す」
「それで強くなるのか」
「なる」
ガルドは即答した。
「ただし、強くなりたい奴だけ残れ」
◇
一週間後。
訓練場の空気は変わっていた。
人数は五十。
少ない。
だが動きが揃っている。
槍を構える。
盾を上げる。
引く。
詰める。
号令のたびに、五十人が一つの生き物のように動いた。
父も見に来ていた。
腕を組んだまま、何も言わない。
ガルドが短く叫ぶ。
「左翼、崩れろ!」
左側の十人がわざと後退する。
敵がそこへ食いついた想定。
中央が受ける。
右翼が回る。
挟む。
単純だ。
だが、以前の領軍にはできなかった。
「……誰が教えた」
父が呟いた。
「ガルドです」
「あの男が」
「はい」
父は悔しそうな、少しだけ嬉しそうな顔をした。
兵が強くなること自体は、嫌なはずがない。
問題は、それを自分ではなく、酒場にいた元兵士がやったことだ。
「費用は?」
エマが横から答えた。
「食費は減りました。馬の飼料も一部削減できます。街道整備班を商人の通る道へ回したため、通行税も増える見込みです」
父がエマを見る。
以前なら、侍女の言葉など聞かなかっただろう。
だが今は違う。
彼女は金貨十三枚を稼いだ人間だ。
実績が、身分より先に届き始めている。
訓練が終わると、兵士の一人が俺の前に来た。
戦闘部隊から外れ、輸送隊へ回した男だ。
「レオン様」
「何?」
「俺、最初は恨みました」
「だろうね」
「でも、昨日初めて家に早く帰れました。女房が、顔色が良くなったって言いました」
男は頭を下げた。
「ありがとうございます」
俺は少しだけ返事に困った。
人事は、誰かを救う。
同時に、誰かの誇りを傷つける。
だから、簡単に正義面してはいけない。
その夜、帳簿に新しい数字が入った。
軍事費、月あたり金貨百四十枚削減見込み。
街道通行税、増加見込み。
戦闘部隊、練度向上。
数字だけなら、成功。
だが俺は知っている。
組織改革で一番怖いのは、成果が出た直後だ。
変化に乗れた者は笑う。
乗れなかった者は、静かに不満を溜める。
そして、その不満に近づく人間がいる。
翌朝。
城下の門で一人の男が捕まった。
王都から逃げてきたという、詐欺師だった。




