第7話 酒場にいた酔っ払いの統率力がSSSだった
「起きてください」
俺が声をかけると、男は片目だけ開けた。
「誰だ」
「レオン・アルヴェルトです」
「貴族様か」
男は鼻で笑った。
「帰れ。ここは坊ちゃんが来る場所じゃねえ」
周囲の客が笑う。
俺は椅子に座った。
「仕事を頼みに来ました」
「仕事?」
「兵士を鍛えてほしい」
ガルドはしばらく俺を見ていた。
そして、腹を抱えて笑った。
「俺に? 寝言は寝て言え」
「あなたは元兵士ですね」
「だったら何だ」
「戦術と教育に向いている」
笑いが止まった。
ガルドの目が、少しだけ鋭くなる。
「誰に聞いた」
「見れば分かります」
「嘘つけ」
「嘘ではありません」
俺は続けた。
「槍術A。戦術SS。教育S。統率SSS」
ガルドの手が止まった。
店内の空気が変わる。
「……何者だ、お前」
「領地を潰したくない三男です」
「ふざけるな」
「ふざけていたら、こんな酒場まで来ません」
ガルドは杯を置いた。
「俺は兵を死なせた」
低い声だった。
「北部戦役で、俺の隊は半分死んだ。俺が命令したからだ」
「それで酒を?」
「悪いか」
「悪いとは言っていません」
俺は前世を思い出していた。
失敗した管理職。
部下を潰した上司。
自分の判断で会社に損を出した責任者。
そういう人間は二種類に分かれる。
失敗から何も学ばない人間。
失敗を一生背負いながら、次の失敗を減らせる人間。
ガルドは後者だ。
そうでなければ、教育Sなど出ない。
「兵を死なせたくないなら、教える側に回ってください」
「綺麗事だ」
「ええ」
「貴族の坊ちゃんに何が分かる」
「分かりません」
俺は正直に言った。
「戦場は分からない。でも組織が壊れる音は分かります」
ガルドが黙る。
「今の領軍は、このままでは壊れます。給料も訓練も武器も足りない。人数だけが多い」
「……」
「あなたなら立て直せる」
「俺を買いかぶるな」
「買いかぶっていません。適性を見ています」
ガルドは立ち上がった。
思ったより大きい。
酔っているはずなのに、重心がぶれない。
「条件がある」
「何ですか」
「俺に命令するな。兵を駒みたいに扱う命令なら聞かねえ」
「分かりました」
「あと酒代を払え」
「それは自分で払ってください」
店内が少し笑った。
ガルドも、わずかに口元を歪めた。
「面白え坊ちゃんだ」
「採用でいいですか」
「仮だ。仮採用だ」
◇
屋敷へ戻ると、父は当然怒った。
「酒浸りを軍に入れるだと?」
「教官としてです」
「ふざけるな!」
「ふざけていません」
「あの男は戦場で部下を失い、職務を放棄した」
「だから兵を死なせない訓練ができます」
父の拳が机を叩いた。
「軍は遊びではない」
「だからこそ、人選を間違えてはいけません」
俺は父を見た。
「三日ください」
「また三日か」
「一日では足りません」
「結果が出なければ?」
「俺が責任を取ります」
父は吐き捨てるように言った。
「お前に取れる責任などない」
その通りだ。
俺には地位もない。
剣も魔法もない。
だが、責任が取れないから行動しないなら、何も変わらない。
「それでも、やらせてください」
沈黙。
父は最後に言った。
「三日だ」
その夜。
ガルドは兵舎へ向かった。
兵士たちは笑っていた。
酔っ払いが来た、と。
だが三日後。
笑っていた兵士たちの顔から、笑みは消えることになる。




