第6話 父上それでは領地が死にます
翌朝、父は機嫌が悪かった。
理由は分かっている。
エマの成果が出たからだ。
普通なら喜ぶべきことだ。
だが父にとっては違う。
剣も魔法もない三男が、使用人を使って金を作った。
それは、父が信じてきた価値観を少しだけ揺らした。
「調子に乗るな」
父は言った。
「金貨十三枚で領地が救えると思うな」
「思っていません」
「なら黙っていろ」
「黙っていたら、領地が死にます」
また空気が凍った。
家令が小さく咳払いをする。
父の指が机を叩いた。
「言葉を選べ、レオン」
「選んでいます」
本当はもっと強い言葉を飲み込んでいる。
このままでは家が終わる。
民も飢える。
兵も散る。
父の名誉も、兄たちの未来も、全部沈む。
「軍事費を見直してください」
「兵を減らせと言うのか」
「今のままでは兵に給料も食料も出せません」
「敵が来たらどうする」
「飢えた兵では戦えません」
父が立ち上がった。
大柄な体。
戦場で鍛えた圧。
普通の十五歳なら、それだけで黙る。
だが俺は、前世で何度も見てきた。
潰れかけの会社ほど、過去の成功体験にしがみつく。
売れた時代の営業方法。
強かった頃の組織図。
創業者の勘。
そして、変化を拒む。
「父上は強いです」
俺は言った。
「兵たちも、父上の戦歴を誇りに思っています」
父の目がわずかに揺れた。
「でも、過去の勝利で明日の米は買えません」
「……」
「兵士百二十七人を維持する理由を教えてください」
「辺境だからだ」
「具体的には?」
「魔物、盗賊、隣領への抑え」
「では、今の百二十七人はそれに対応できますか」
父は答えなかった。
俺は続ける。
「剣の数は足りない。馬の飼料費は重い。訓練記録もばらばら。実戦に出せる兵は半分以下です」
家令が顔を伏せた。
数字だけではない。
現場も見た。
今の軍は大きいのではない。
薄い。
広げすぎて、全員が弱くなっている。
「減らすのではありません」
俺は言った。
「残す兵を強くします」
「誰がやる」
「探します」
「また使用人の中からか」
父の皮肉。
俺は首を振った。
「兵を知っている人間の中からです」
◇
その日の午後。
俺は城下へ出た。
護衛はいない。
剣術Fの俺が歩くには危ない場所もある。
それでも、屋敷の中だけでは人は見えない。
市場を抜け、鍛冶場を見て、安酒場の前で足を止めた。
昼間から怒鳴り声が聞こえる。
中に入ると、酒臭い空気が鼻を刺した。
奥の席で、一人の男が寝ていた。
無精髭。
傷だらけの腕。
片足を少し引きずっている。
店主が言う。
「ガルドだよ。元兵士だ。役には立たねえ」
俺は男を見た。
その瞬間。
文字が浮かぶ。
【ガルド・ライゼン】
職業:無職
槍術:A
戦術:SS
教育:S
統率:SSS
推奨職:
軍務教官
俺は笑った。
いた。
二人目だ。




