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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第2部 北道共同管理編

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第56話 人質ではなく、監査役を送る

帳簿責任者を一人、グレアム伯の屋敷に送れ。


その条件は、広場の空気を重くした。


エマは唇を結んでいる。


ネルは指先を握りしめている。


誰を出しても危険だ。


こちらの帳簿を知る人間を敵の屋敷に置く。


相手の圧力を受ける。


情報も抜かれる。


普通なら断る。


だが断れば、共同管理の話は潰れる。


俺は息を吐いた。


「分かりました」


「レオン様」


エマが止める。


俺はグレアム伯を見たまま言った。


「ただし、こちらから送る者の肩書きは、帳簿責任者ではありません」


「ほう」


「共同管理監査役です」


伯爵の目がわずかに動く。


「監査役」


「はい。そちらの帳簿も確認し、こちらの帳簿も確認する。双方の数字を合わせる役です」


人質ではない。


役目を持たせる。


役目があれば、相手も雑には扱えない。


「生意気な肩書きだ」


「肩書きは、仕事を守ります」


前世でも同じだった。


曖昧な立場の人間は潰される。


権限のない責任者は、責任だけ負わされる。


だから、肩書きと権限を先に作る。


「誰を送る」


グレアム伯が聞いた。


エマが前へ出ようとした。


俺は止めた。


「ネルを送ります」


「私、ですか」


ネルの声が震えた。


だが俺は彼女を見る。


適性は記録A。


観察S。


そして、今の彼女は弱い立場の人間の声を拾える。


それは、監査に必要な才能だ。


「一人では行かせない」


俺は続けた。


「護衛にロウ。補佐にセイル。三人で行く」


セイルが笑った。


「私もですか」


「君は向こうの嘘を見つける」


「信用されていますね」


「信用はしていない。能力を使う」


セイルは楽しそうに礼をした。


グレアム伯はその布陣を見て、低く笑った。


「よかろう。三日後、屋敷へ来い」


こうして、北道の戦いは市場から屋敷へ移った。

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