第54話 古い権利書と、新しい通行札
グレアム伯が出した権利書は、古い羊皮紙だった。
端は焼け、文字は少しかすれている。
だが封蝋は本物に見えた。
北道の通行税。
その一部をグレアム家が徴収できる。
そう書かれている。
周囲の商人たちがざわついた。
税が増えれば、通行量は落ちる。
通行量が落ちれば、市も痩せる。
せっかく戻ってきた商人が、また逃げる。
「どうした」
グレアム伯が言う。
「帳簿は得意なのだろう」
俺は羊皮紙を見た。
古い。
だが、問題はそこではない。
「確認させてください」
「好きにしろ」
セイルが横から覗く。
目が楽しそうだ。
「本物っぽいですね」
「嫌な言い方をするな」
「本物っぽい偽物か、本物だけど使えない紙か、どちらかです」
グレアム伯の従者が睨んだ。
俺は権利書の文面を追った。
徴収できるのは、北道を通る荷馬車。
ただし、橋、井戸、夜営地の維持を行うこと。
「伯爵閣下」
俺は顔を上げた。
「この権利には、義務が付いています」
グレアム伯は目を細めた。
「維持管理か」
「はい。橋、井戸、夜営地。過去一年、どこを整備しましたか」
従者が口を開きかける。
グレアム伯が手で制した。
「面白い。では、お前は整備したのか」
俺は掲示板を指した。
修繕八十一件。
水場三か所の清掃。
夜営地の薪置き場。
通行札による巡回記録。
「まだ十分ではありません」
俺は言う。
「ですが、実績はあります」
グレアム伯は笑った。
「では、私の権利を否定するか」
「いいえ」
否定すれば争いになる。
だが丸呑みすれば、市が死ぬ。
「共同管理を提案します」
グレアム伯の笑みが止まった。
俺は続けた。
「徴収ではなく、維持費として。使途を公開し、成果を掲示する。それなら商人も納得します」
セイルが小さく吹き出した。
「税を、広告に変える気ですか」
そうだ。
奪われる金ではなく、通る理由に変える。




