第53話 数字で殴る歓迎会
昼。
視察用の席が設けられた。
歓迎会と呼ぶには質素だ。
固焼きパン。
塩豆。
干し肉入りの高級携帯食。
そして、北道の水場を記した簡易地図。
グレアム伯は席につき、パンを割った。
「硬い」
「保存性を優先しています」
サラが答える。
「美味いとは言わん」
「はい。ですが三日は持ちます」
グレアム伯は笑った。
「正直だな」
俺は机の上に帳簿を置いた。
「本日の歓迎品です」
「帳簿が歓迎品か」
「はい」
中身は、北の市の収支だった。
初日から今日まで。
売上、修繕費、材料費、人件費、通行札、苦情件数。
そして、未回収金。
グレアム伯はめくる手を止めた。
「未回収まで載せるのか」
「載せなければ、利益が嘘になります」
隣の番頭が帳簿を覗き込む。
「この市は、まだ大して儲かっていない」
「はい」
俺は頷く。
「ですが、通行量は増えています。備蓄も増えています。修繕の滞留も減っています」
「つまり、利益より機能を優先したと」
「最初はそうです」
前世の企業再生でも、最初から利益だけを追うと壊れる。
顧客が戻る前に値上げする。
現場が整う前に売上目標を積む。
それでは、数字が一瞬よくなっても続かない。
グレアム伯は帳簿を閉じた。
「甘いな」
「そうかもしれません」
「だが、面白い」
またその言葉だ。
面白い。
それは友好ではない。
まだ潰す価値がある、という意味にも聞こえる。
その時、グレアム伯が言った。
「では、私からも歓迎品を出そう」
従者が紙を広げた。
北道の通行税に関する、古い権利書だった。
「この道の税を扱うには、我が家の許可がいる」
広場が凍った。
グレアム伯は笑う。
「さて、無能な三男。お前はどう払う」




