第52話 視察の席で、弱点を先に差し出す
グレアム伯の視察は、市の端から始まった。
まず修繕台。
壊れた車輪を外し、軸を削り、鉄輪をはめ直す。
ミラが職人たちに指示を出している。
「女が仕切るのか」
グレアム伯の従者が呟いた。
ミラの肩がわずかに揺れる。
俺は口を挟まなかった。
代わりにミラが顔を上げた。
「仕切っているのは手順です。私は、それを見ています」
静かな声だった。
だが、逃げていない。
グレアム伯は修繕札を一枚手に取った。
「この印は」
「作業遅れです」
ミラが答える。
「隠さないのか」
「隠すと、次も遅れます」
俺は内心で頷いた。
よし。
言えるようになっている。
◇
次に保存食工房。
サラが材料表を広げた。
麦、塩、豆、肉、薪。
在庫と必要量が木札で分けられている。
「まだ粗いな」
黒鷲商会の番頭が言った。
「原価計算が甘い。肉入りは利益を食う」
サラの顔が赤くなる。
エマが前に出ようとした。
俺は手で止めた。
ここはサラの場だ。
「はい、甘いです」
サラは頭を下げた。
番頭が鼻で笑う。
だがサラは続けた。
「だから、肉入りは高く売っています。商人の時間と安全を含めて」
「安全だと?」
「途中で料理をしなくていい。火を起こさず食べられる。夜営の危険が減ります」
番頭が黙った。
グレアム伯は、そのやり取りを見ていた。
「弱点を聞かれて、先に認めるか」
「はい」
俺は答える。
「弱点を認めた人間だけが、改善できます」
グレアム伯は俺を見た。
「では、お前の弱点は何だ」
来た。
俺は一拍置いて答えた。
「俺自身には、剣も魔法もありません」
「知っている」
「だから、一人では何も守れません」
広場が静まる。
俺は続けた。
「その代わり、守れる人間を正しい場所に置きます」




