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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第46話 黒鷲商会本店の監査役

黒鷲商会本店の監査役は、痩せた女だった。


名前はイザベル。


年齢は三十代半ば。


黒い服に、銀の眼鏡。


笑わない。


視界に文字が浮かぶ。


【イザベル・ノートン】


職業:黒鷲商会監査役


会計:SS


調査:S


交渉:A


情:D


推奨職:


監査責任者


会計SS。


これは強い。


しかも、情D。


情に流されにくい。


敵なら面倒。


味方なら頼もしい。


「バノン支店長の件で参りました」


イザベルは淡々と言った。


「本店として、事実確認を行います」


「どうぞ」


俺は彼女を応接室へ通した。


エマが資料を用意する。


セイルは壁際で楽しそうに立っていた。


「まず、放火疑惑の撤回と協力費について」


イザベルが言う。


「こちらの主張は記録にまとめています」


エマが紙を差し出す。


イザベルはそれを受け取り、すぐに目を走らせた。


速い。


そして、一度も表情を変えない。


「証言者トマ。黒鷲商会下働き」


「はい」


「古材の在庫記録」


「写しがあります」


「火災損害の過大申告」


「推定ですが、根拠はあります」


イザベルは数枚の紙を並べた。


その手つきは、まるで剣士が武器を並べるようだった。


「バノンは愚かです」


突然そう言った。


ガルドが眉を上げる。


「身内だろ」


「身内だからこそです。雑な不正は商会の信用を傷つけます」


彼女の目は冷たい。


怒っている。


ただし、感情ではない。


損失に怒っている。


「黒鷲商会本店として、バノン支店長の処分を検討します」


「協力費は?」


エマが聞く。


「支払われます。すでに準備中です」


部屋の空気が少し緩んだ。


だが、イザベルは続けた。


「ただし、木材取引については別です」


やはり。


「北道市場が伸びていると聞きました」


「まだ始まったばかりです」


「商人が動き始めています」


「ええ」


「黒鷲商会は、北道から完全に退くつもりはありません」


敵意ではない。


事実の提示だった。


「グレアム伯とは?」


俺が聞くと、イザベルは一瞬だけ目を細めた。


「取引先です」


「主従ではない?」


「商会は貴族の家臣ではありません」


いい答えだ。


つまり、切り離せる。


「では提案があります」


エマが俺を見た。


少し驚いている。


予定にはなかったからだ。


「北の市に、黒鷲商会本店として出店しませんか」


ガルドが小さく唸った。


イザベルの表情が初めて動いた。


「我々を招くと?」


「支店ではなく、本店を」


「バノンの件があったにもかかわらず」


「だからです」


俺は言った。


「支店の不正と、本店の商売を分けたい」


これは賭けだ。


黒鷲商会を完全な敵にすれば、北道市場は潰される。


だが、本店に利益を見せれば、グレアム伯との関係にひびを入れられる。


「条件は?」


イザベルが聞く。


「取引記録の公開。価格操作の禁止。北道での妨害行為をしないこと」


「厳しいですね」


「信用を戻すためです」


イザベルはしばらく黙った。


視線が俺ではなく、エマの資料へ向いている。


数字を見ている。


利益が出るか。


損をするか。


感情では動かない相手だ。


だからこそ、数字で動かせる。


「検討します」


彼女は立ち上がった。


「ただし、レオン様」


「はい」


「あなたは人を使うのが上手い。ですが、商会を使うにはまだ甘い」


「忠告ですか」


「警告です」


イザベルは礼をした。


「商人は、利益が出なくなれば昨日の味方を今日売ります」


彼女が去った後、セイルが笑った。


「いい人材ですね」


「うん」


「欲しいですか」


「欲しい」


即答だった。


だが、あの手の人材は簡単には来ない。


まずは敵でも味方でもない相手として、北道に引き込む。


商業戦争の盤面が、また一つ変わった。

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