第41話 失敗した市ほど、宝の山だった
北の市の初日は、売上だけを見れば失敗だった。
出店は一組。
来客は村人中心。
通行税の増加もほとんどなし。
普通なら、計画を見直すべき数字だ。
だが俺は、ネルの記録板を見て笑っていた。
「レオン様、笑うところですか?」
エマが呆れた声を出す。
「笑うところだよ」
「売上は銅貨三十七枚です」
「でも、欲しい物の記録は七十件ある」
俺はネルの記録を見る。
塩。
針。
縄。
鍋の修理。
荷車の車輪。
薬草。
保存食。
村人が何を必要としているか。
商人が何を嫌がっているか。
グレアム側がどこで妨害しているか。
初日は、それを全部教えてくれた。
前世で新規事業を立ち上げた時も同じだった。
初回の売上だけ見て撤退する会社は多い。
だが、本当に見るべきは売れなかった理由だ。
売れなかったのは、需要がないからか。
商品が違うからか。
場所が悪いからか。
信用がないからか。
今回は違う。
需要はある。
信用はまだ弱い。
通行の不安が強い。
なら、やることは決まる。
「次の市は、修繕市にする」
俺が言うと、ミラが顔を上げた。
「修繕市、ですか」
「荷車、桶、農具、椅子。直せるものを全部持ってきてもらう」
ガルドが腕を組む。
「商人向けじゃなかったのか」
「商人も荷車を直したい。村人も道具を直したい」
「なるほどな」
「売る物が少ないなら、直す物を集める」
エマがすぐに紙へ書き込む。
「修繕代を安くしすぎると赤字です」
「最初の二回は実績作り。三回目から標準料金」
「職人への支払いは?」
「出来高。材料費は領が一部負担」
ミラが不安そうに言った。
「私一人では無理です」
「一人でやらなくていい」
俺は視界に浮かぶ村人たちの適性を見た。
木工C。
裁縫B。
金属加工D。
運搬B。
手先の器用さA。
完璧な職人でなくても、補助ならできる。
「ミラを修繕班長にする。補助を六人つける」
ミラの目が大きくなる。
「班長、ですか」
「嫌?」
「嫌ではありません。でも」
「不安?」
「はい」
「なら向いてる」
ミラは首を傾げた。
「不安な人間は、確認を怠らない」
前世で、やたら自信満々な管理職ほど現場を壊した。
逆に、不安を持ちながらも一つずつ確認する人間は強い。
自信がないことと、能力がないことは違う。
その夜、北の村に告知を出した。
『次回の北の市では、荷車・農具・桶・椅子の修繕を受け付ける』
『商人の荷車は優先対応』
『修繕記録を残し、次回以降の料金を明示する』
派手さはない。
だが、生活に刺さる。
翌朝、ケイルから返事が届いた。
『修繕が本当なら、商人は来る』
短い手紙だった。
俺はその一文を見て、確信した。
北の市は、物を売る市場では足りない。
困りごとを解決する場所にする。
それが、この弱い領地が強い商会に勝つための入口だった。




