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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第40話 北の市、初日

北の市、初日。


朝から問題が起きた。


商人が来ない。


「一組だけです」


ネルが記録板を抱えて言った。


出店予定は七組。


実際に来たのは、ケイル商会だけ。


しかも荷は少ない。


「他は?」


「途中で引き返したそうです」


ロウが険しい顔で報告する。


「道に、グレアム領の兵がいた」


ガルドの目が鋭くなる。


「妨害か」


「直接止めたわけじゃない。ただ、通行証の確認だと言って時間をかけたらしい」


露骨だ。


だが違法とは言い切れない。


こういう嫌がらせが一番面倒だ。


セイルは笑っていた。


「想定内ですね」


「嬉しそうに言うな」


「相手が分かりやすく動いてくれるのは助かります」


市場予定地には、空の屋台が並んでいた。


ミラが作った簡易屋台だ。


木の匂いがする。


村人たちは不安そうに見ている。


初日から失敗。


そう見える。


前世なら、こういう場面で空気が沈む。


新規事業の初日。


広告を出したのに客が来ない。


上司が苛立つ。


現場が萎縮する。


そして、誰も次の改善案を出さなくなる。


だから最初に言う言葉を間違えてはいけない。


「よし」


俺は言った。


「今日は成功だ」


全員が俺を見た。


エマですら、一瞬だけ疑う顔をした。


「レオン様」


「商人が一組来た」


「一組だけです」


「ゼロじゃない」


俺はケイルを見る。


彼は困ったように笑っていた。


「ケイル殿、今日一日ここで売れた分の手数料はゼロ。代わりに、感想を全部ください」


「感想?」


「何が売れそうか。何が足りないか。商人が嫌がる理由は何か」


ケイルは目を瞬かせた。


「私は客ですか、相談役ですか」


「今日だけ相談役です」


「報酬は?」


「次回の優先出店権」


ケイルは少し考えた。


そして笑った。


「悪くありません」


商人が一組しかいないなら、一組から徹底的に学ぶ。


それだけだ。


「村人向けにも売る」


エマが言った。


「商人向けの市では?」


「今日は予定変更です。村人が必要な物を確認しましょう」


切り替えが早い。


いい。


ネルが記録を取り始める。


塩。


針。


縄。


刃物の修理。


布の端切れ。


保存食。


村人が本当に欲しがっているものは、想像と少し違った。


豪華な品ではない。


生活を少しだけ楽にするものだ。


昼過ぎ、ミラが小さな修繕台を出した。


壊れた桶。


椅子。


荷車の車輪。


次々に持ち込まれる。


「修理代は?」


ミラが聞く。


「最初の三件は無料。以降は銅貨」


「無料でいいんですか」


「実績作り」


修理された荷車を見て、ケイルが唸った。


「これは売りになる」


「何が?」


「北の市に寄れば、荷車を直せる。商人には大事です」


俺はネルに言った。


「記録して」


「はい」


夕方。


売上は少なかった。


通行量も増えていない。


だが、得た情報は多い。


商人が来ない理由。


村人が欲しい物。


修繕台の需要。


グレアム側の妨害方法。


失敗ではない。


初回テストだ。


夜、屋敷へ戻る途中、エマが言った。


「レオン様」


「何?」


「今日を成功と言えるのは、少しずるいです」


「そうかな」


「はい。でも、現場は救われました」


それなら十分だ。


翌朝。


ケイルから追加の手紙が届いた。


『次の市に、商人を二組連れて行く。修繕台の話をしたら興味を持った』


小さな一歩。


だが、北道を黒字にする戦いは、


こういう一歩を積み上げるしかない。

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