第39話 三か月で、北道を黒字化しろ
審議の結論は、即日出た。
北道および北の村の管理権は、ひとまずアルヴェルト家に残る。
ただし三か月後、改善状況を再審査する。
条件は二つ。
北の村の食料備蓄を一か月分まで戻すこと。
北道の通行量を現在の倍にすること。
達成できなければ、グレアム伯爵家との共同監督を検討する。
共同監督。
聞こえは穏やかだ。
だが実質的には、北道を半分取られる。
「無茶です」
帰りの馬車で、エマが言った。
声は抑えている。
だが怒っている。
「三か月で備蓄一か月分、通行量倍。しかも食料も資金も不足しています」
「うん」
「なぜ受けたんですか」
「受けなければ、今日取られていた」
エマは黙った。
分かっている。
分かっているから、怒っている。
理屈で納得できても、感情がついてこないことはある。
「すみません」
俺は言った。
「君にまた重い仕事を振る」
「謝らないでください」
エマは少し強い声で言った。
「謝られると、私が怒れなくなります」
その返しに、俺は少し笑ってしまった。
「怒っていい」
「怒っています」
「うん」
「でも、やります」
頼もしい。
そして危ない。
こういう人材ほど、期待に応えようとして自分を削る。
◇
屋敷に戻ると、すぐに会議を開いた。
父は結論を聞いて、深く息を吐いた。
「よく残した」
褒め言葉だった。
だが顔は厳しい。
「だが、三か月か」
「はい」
「失敗すれば、北道は取られる」
「分かっています」
ガルドが腕を組む。
「通行量倍は、警備だけじゃ無理だ」
「商人を増やす必要があります」
エマが言う。
「そのためには、北道を通る理由が必要です」
セイルが椅子にもたれた。
「安くするだけでは駄目ですね」
「うん」
安売りは弱者の罠だ。
一度安さで集めた客は、さらに安い方へ流れる。
北道を使う理由を作る。
早い。
安全。
荷が売れる。
この三つを揃える必要がある。
「北道市場を作る」
俺は言った。
全員がこちらを見た。
「市場?」
「北の村の近くに、週二回の市を開く。布、木材、保存食、修繕道具を扱う」
エマがすぐに計算を始める。
「商人を呼ぶには手数料を下げる必要があります」
「最初の一か月は出店料無料」
「収入が減ります」
「通行税で取る」
「通行量が増えなければ赤字です」
「だから増やす」
ガルドが笑った。
「雑だな」
「方向性は雑でいい。運用は細かくやる」
ロウには警備と誘導。
ミラには市の屋台と修繕台。
ネルには出店記録。
ダリオには配給と在庫管理。
エマには収支管理。
セイルには商人集め。
役割が並ぶ。
組織の形が見え始める。
「問題は食料備蓄です」
エマが言った。
「通行税だけでは一か月分に届きません」
「村に仕事を増やす」
「布の下処理だけでは足りません」
「保存食を作る」
エマが顔を上げた。
「保存食?」
「北道を通る商人向けに、携帯食を売る」
前世のサービス業でも同じだ。
人が通る場所には、必ず周辺需要が生まれる。
荷車が増えれば、食べ物、修理、宿、情報が必要になる。
北道市場は、その受け皿になる。
「名前をつけよう」
ネルが小さく聞いた。
「名前ですか」
「名前がある方が、人は動きやすい」
少し考えてから言った。
「北道再生計画」
ガルドが眉をひそめる。
「固い」
エマも小さく頷いた。
珍しく全員に不評だった。
「では、北の市」
ロウが言った。
短い。
分かりやすい。
「それでいこう」
こうして、三か月の戦いが始まった。
剣ではない。
魔法でもない。
通行量と備蓄量で殴り合う戦争だ。




