第36話 ロウの証言
ロウは、うまく話せる男ではない。
言葉は硬い。
礼儀も完璧ではない。
貴族の審議室では、明らかに浮いていた。
だが、その不器用さが逆に強かった。
作られた言葉ではないと分かるからだ。
「俺は、最初レオン様を恨みました」
ロウは言った。
エマの肩が少し動く。
ガルドは黙っている。
審議官たちも顔を上げた。
「兵士を外され、道を直せと言われた。恥だと思った」
正直すぎる。
だが止めない。
ここで綺麗に飾れば、証言の価値が落ちる。
「ですが、北道を直して分かりました」
ロウは手を握る。
「荷が通れば、村に金が落ちる。商人が来れば、仕事ができる。俺たちが道を守ることは、剣を振るうのと同じくらい領地を守ることでした」
老貴族が聞いた。
「実際に護衛はできるのか」
「できます」
「盗賊が出たら?」
「戦闘専任兵と連携します。俺たちは道を知っています。危険な場所も、荷車が詰まる場所も分かります」
「兵としては二流でも、道の守り手としては一流だと?」
少し意地の悪い質問だった。
ロウの顔が赤くなる。
だが彼は逃げなかった。
「はい」
審議室に小さなざわめきが起きた。
自分で二流と認めるのは、勇気がいる。
だが、組織ではそれが強さになる。
自分の向き不向きを認めた人間は、配置を間違えにくい。
グレアム伯が口を開いた。
「美しい話だ」
まただ。
この男は、相手の言葉を美しいと言ってから切る。
「だが、君は領主家にそう言わされているのではないか」
ロウの拳が震えた。
「違います」
「元兵士が貴族に逆らえるかな」
空気が冷える。
ロウは一瞬、言葉に詰まった。
そこでガルドが立ち上がろうとする。
俺は手で止めた。
ロウの言葉で返す場面だ。
「逆らえます」
ロウは低く言った。
「俺は、広場でレオン様に文句を言いました」
審議官の視線が俺に向く。
「その時、レオン様は頭を下げました」
ざわめきが大きくなる。
貴族が民に頭を下げた。
この場では、褒められるとは限らない。
弱さと見られる可能性もある。
グレアム伯はそこを逃さなかった。
「若い貴族が民に頭を下げる。なるほど、民には好かれるかもしれない」
彼は微笑む。
「だが、それは統治ではない。人気取りだ」
痛い。
この切り方は鋭い。
俺は立ち上がった。
「人気取りなら、兵士を減らしません」
グレアム伯の目が細くなる。
「何?」
「領民に好かれたいだけなら、兵士の肩書きを残し、給料も今まで通りにします」
俺は資料を一枚掲げた。
「ですが、それでは三か月で領地が破産する」
行政官が資料を見る。
「私は、嫌われる改革をしました」
声が震えそうになる。
だが押さえる。
「その上で、嫌われた理由を聞き、仕事の意味を作り直した。それが統治でないなら、統治とは何ですか」
沈黙。
グレアム伯はすぐには返さなかった。
初めてだ。
こちらの言葉で、相手の間が空いた。
ロウが深く頭を下げる。
「以上です」
彼が下がる時、ガルドが小さく言った。
「よくやった」
ロウは一瞬、泣きそうな顔をした。
だがすぐに顔を引き締めた。
次の証人は、商人ケイル。
味方ではない男。
嘘をつかせないために逃げ道を用意した男だ。
彼が扉から入ってきた時、グレアム伯の表情がわずかに変わった。
どうやら、来ないと思っていたらしい。
それだけで、こちらの準備は一つ成功していた。




