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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第32話 十日で作る実績

十日で実績を作る。


言葉にすると簡単だ。


だが現場は、そんなに優しくない。


北道はぬかるんでいた。


荷車が通るたび、車輪が泥に沈む。


橋はまだ仮修繕。


井戸も半分壊れたまま。


村人たちは働く気になっているが、道具が足りない。


食料も足りない。


時間も足りない。


足りないものだらけだ。


「全部は無理です」


エマが言った。


北の村の広場に、簡易の作業机を置いた。


紙を広げ、必要な作業を並べる。


井戸修繕。


北道の水抜き。


橋の補強。


羊毛の下処理。


配給記録。


巡回記録。


一つ一つは小さい。


だが全部やれば、人手が足りない。


「全部やらない」


俺は言った。


「え?」


「審議で必要なのは、完成ではなく改善の証拠だ」


前世で再建計画を出す時もそうだった。


一か月で黒字化などできない。


だが、赤字が止まり始めた証拠は作れる。


在庫が減った。


解約率が下がった。


入金遅延が減った。


小さな変化を、数字で見せる。


「まず北道の水抜き」


俺は地図に線を引いた。


「ここを通れるようにする。荷車の通過数を記録する」


ロウが頷く。


「三日で形にする」


「できる?」


「完璧には無理だ。だが通すだけならできる」


頼もしい答えだった。


「井戸は?」


ガルドが聞く。


「完全修理は後。今は飲み水の確保だけ」


「仮水路か」


「うん」


村の職人に目を向ける。


視界に文字が浮かんだ。


【ミラ・コーネル】


職業:村の木工職人


木工:A


設計:B


交渉:D


自信:24


推奨職:


工作班長


自信が低い。


だが腕はある。


「ミラ」


俺が呼ぶと、彼女は驚いて肩を跳ねさせた。


「は、はい」


「井戸の仮補強を任せたい」


「私がですか」


「できる?」


ミラは一度口を開き、閉じた。


周囲の男たちが見ている。


木工職人とはいえ、村では女が作業班を率いることは少ないらしい。


「できません」と言いそうな顔だった。


だから先に言った。


「必要な木材と人数を言って。判断は俺がする」


責任を一人に背負わせない。


だが役割は渡す。


ミラは唇を結んだ。


「……木材は細い梁が八本。縄が二十本。手伝いは六人いれば」


「ロウ、出せる?」


「出せる」


「なら頼む」


ミラの目が揺れた。


「本当に、私で」


「君が一番向いている」


その一言で、人の背筋が伸びる瞬間がある。


ミラは小さく頷いた。


「やります」


◇


初日は混乱した。


道具を取り合う。


配給の順番で揉める。


元村長モリスの親族が文句を言う。


「こんなやり方は続かない」


「領主の気まぐれだ」


「働けない者は見捨てられる」


そのたびに、ネルが記録を取り、エマが支払い予定を確認し、ガルドが騒ぎを抑えた。


セイルはいない。


彼はグレアム側の証人を調べに行っている。


夕方、最初の数字が出た。


北道通過荷車、昨日二台。


今日、七台。


井戸の水くみ待ち、昨日二刻。


今日、一刻弱。


羊毛下処理に参加した世帯、二十三。


配給対象の老人と子供、四十八人。


まだ小さい。


だが、変化はある。


「これで勝てますか」


ネルが聞いた。


「まだ勝てない」


俺は正直に答えた。


「でも、負け方は変えられる」


「負け方?」


「何もしていない領地ではなく、立て直し途中の領地になる」


それだけで審議の見え方は違う。


奪われるべき土地か。


支援すべき土地か。


同じ弱さでも、意味が変わる。


夜。


ミラが井戸の前で座り込んでいた。


手は傷だらけだ。


だが井戸は、倒れずに立っている。


「水が出ました」


彼女はそう言って笑った。


その笑顔を見た時、俺は思った。


十日で領地は変わらない。


だが、一人の顔つきは変わる。


そして組織は、そういう顔が増えた時にだけ変わる。

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