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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第31話 北道を奪うための、正しい手続き

グレアム伯の申し立ては、三日後に届いた。


早かった。


いや、早すぎた。


俺たちが屋敷から戻った時には、もう書類は準備されていたのだろう。


『北道および北の村の管理能力について、アルヴェルト家に重大な疑義あり』


そう書かれていた。


理由は三つ。


一つ、北の村で備蓄不足が発生したこと。


二つ、村長が不正を行っていたこと。


三つ、アルヴェルト家が領軍を縮小し、街道防衛能力を失っていること。


どれも、完全な嘘ではない。


だから厄介だった。


「正しい手続きですね」


エマが言った。


「正しい顔をした強奪だ」


俺は書類を机に置いた。


貴族社会では、剣を抜くだけが戦争ではない。


書類。


証言。


慣例。


それらを積み上げて、相手の領地を削る。


前世で言えば、敵対的買収に近い。


しかも相手は、こちらの弱点をよく知っている。


「審議はいつですか」


「十日後。場所は中立都市ラングハルトの行政庁です」


「中立都市?」


「周辺貴族の紛争調停を扱う都市です。王都ほど遠くはありませんが、記録は正式に残ります」


エマの声は落ち着いていた。


だが指先は少し震えている。


無理もない。


これは商人との値段交渉ではない。


領地の一部を奪われるかどうかの審議だ。


「勝てますか」


ネルが小さく聞いた。


部屋には、父、ガルド、エマ、セイル、ネル、そして俺がいた。


父はしばらく書類を見つめていた。


「普通なら、厳しい」


「普通なら?」


「北の村の不正は事実だ。領軍縮小も事実。グレアムはそこを突いてくる」


ガルドが舌打ちした。


「だから兵を減らすのは嫌だったんだ」


「減らさなければ、財政が死んでいました」


エマが即答する。


ガルドは言い返さなかった。


分かっているからだ。


正しい改革が、別の弱点になる。


これも前世でよくあった。


人員削減で赤字は減る。


だが銀行からは「事業継続力に疑義あり」と見られる。


改善策が、新しい攻撃材料になる。


「なら、こちらも数字で返します」


俺は言った。


「北の村の備蓄不足は発見済み。村長は解任。食料配給は開始。井戸修繕、北道整備、布の下処理の仕事も出した」


エマが頷く。


「記録はあります」


「領軍縮小については?」


父が聞いた。


「守備力低下ではなく、再編です。領道守備隊として、街道維持と護衛機能を統合した」


ガルドが腕を組む。


「言葉だけなら弱いぞ」


「だから実績を作る」


「十日でか?」


「十日で作れる実績を作る」


セイルが笑った。


「面白くなってきましたね」


「君には別の仕事がある」


「何でしょう」


「グレアム伯側の証人を調べて」


セイルの目が細くなる。


「買われている者を探せ、と」


「うん」


「得意分野です」


その笑顔は、味方でも少し怖い。


俺は次にネルを見た。


「ネル」


「はい」


「北の村で働いた人の記録をまとめて。誰が何時間働き、何を受け取ったか」


「できます」


即答だった。


以前なら、自信なさげに視線を落としていた少女が。


今は、仕事を任されるのを待っている。


人は変わる。


役割があれば。


「エマは収支表。十日で北道整備がどれだけ通行税を増やす見込みか」


「はい」


「ガルドは領道守備隊の巡回記録を作って」


「作るのは苦手だ」


「ロウに任せて。ガルドは確認」


「それならできる」


父が静かに俺を見ていた。


「お前は何をする」


「民の証言を集めます」


「貴族の審議で、民の声が通ると思うか」


「そのままでは通りません」


俺は書類を指で叩いた。


「だから、数字にします」


困っていた村人が、何人働き始めたか。


飢えた世帯が、何世帯減ったか。


通れる荷車が、一日何台増えたか。


民の生活を、領地経営の成果として示す。


グレアム伯は、俺たちを管理能力なしとして潰しに来た。


ならこちらは、管理能力そのものを見せる。


十日しかない。


だが、十日ある。


前世の再建現場では、初動の十日で組織の空気が決まった。


今回も同じだ。


俺は立ち上がった。


「北道を守ります」


父はしばらく黙っていた。


やがて、小さく頷いた。


「なら、全権を預ける」


その言葉で、部屋の空気が変わった。


領主代理ではない。


今回に限り、領主の名代。


責任の重さが、肩に乗った。


俺はその重さを、逃げずに受けた。

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