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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第30話 敵の屋敷で、俺は値段をつけられた

グレアム伯爵家の屋敷は、アルヴェルト家よりずっと豊かだった。


門は高い。


庭は整えられている。


噴水まである。


うちの屋敷では、噴水どころか井戸の修繕費すら悩んでいるというのに。


「腹が立ちますね」


エマが小声で言った。


珍しい。


彼女が感情を先に出すのは、少し前なら考えられなかった。


「顔には出さないで」


「出ていますか」


「少し」


「気をつけます」


ガルドは無言で周囲を見ている。


護衛の数。


門から玄関までの距離。


逃げ道。


完全に戦場を見る目だった。


晩餐室に通されると、グレアム伯はすでに席についていた。


細い男だった。


年齢は四十代後半。


痩せた顔。


白い指。


笑っているのに、目だけが冷たい。


視界に文字が浮かぶ。


【オルデン・グレアム】


職業:伯爵


政治:S


謀略:SS


交渉:S


武勇:D


支配欲:91


推奨職:


宰相補佐


嫌な相手だ。


剣では来ない。


だが、こちらをどう動かすか考えている。


「ようこそ、レオン殿」


グレアム伯は笑った。


「最近、ずいぶん活躍されているようだ」


「まだ領地を潰さないようにもがいているだけです」


「謙遜を」


食事が運ばれる。


肉。


香辛料。


白いパン。


エマの目が一瞬だけ揺れた。


北の村で粥を配った翌日に、この食卓だ。


貴族社会とは、こういうものなのだろう。


「アルヴェルト領は大変だと聞いている」


グレアム伯が言った。


「借金、金貨二万八千四百枚」


俺は表情を変えなかった。


セイルが流した偽情報ではない。


正しい数字だ。


どこかから抜かれている。


「よくご存じで」


「隣人だからね」


「ありがたいことです」


「そこで提案がある」


来た。


グレアム伯は指を組む。


「北の村と北道の管理を、しばらく我が家に預けてはどうか」


エマの手が止まる。


ガルドの気配が鋭くなる。


俺は静かに聞いた。


「理由は?」


「君たちには負担が大きい。こちらが食料支援を行い、橋も直す。通行税の一部も還元しよう」


柔らかい言葉。


だが意味は単純だ。


北道を渡せ。


「条件は?」


「十年間の管理委託。通行税の七割は我が家。三割をアルヴェルト家へ」


エマが紙を握りしめた。


ひどい条件だ。


だが、飢えた村だけを見れば救いにも見える。


今困っている人間にとって、十年後の損より今日の食料の方が重い。


そこを突いている。


「ありがたい提案です」


俺は言った。


「だが、お断りします」


グレアム伯の笑みは崩れない。


「即答か」


「はい」


「君に北の村を救えるのかね」


「救います」


「金も食料も足りないのに?」


「足りないから、作ります」


グレアム伯は小さく笑った。


「若い」


その言い方に、侮りはない。


値踏みだ。


「レオン殿」


彼は言った。


「君は、自分に値段がつくと思うか」


「値段?」


「我が家へ来ないか」


エマが息を呑んだ。


ガルドがわずかに動く。


「アルヴェルト家の借金を、半分肩代わりしよう」


部屋が静かになる。


「さらに、君にはグレアム家の財務顧問の席を用意する。いずれは娘との縁談も考えてよい」


条件としては破格だった。


金貨一万四千二百枚。


借金の半分。


家は一息つける。


俺個人も、立場を得る。


だがその代わり、アルヴェルト領は北道を失い、俺は父と民を売ることになる。


「俺を買うつもりですか」


「人材には価値がある」


グレアム伯は微笑む。


「君もそう考えているのだろう?」


痛いところを突く。


俺は人に適性を見て、配置してきた。


ならば俺自身も、誰かに配置される人材ではないのか。


そう問われている。


俺は水を一口飲んだ。


手が少し震えていた。


怖い。


この男は、俺の欲しいものを分かっている。


金。


権限。


評価。


そして、自分の力を試せる場所。


「お断りします」


俺はもう一度言った。


「理由を聞いても?」


「俺は、買われるために人を見る目を使っているわけではありません」


グレアム伯の目が細くなる。


「では何のために?」


俺はエマを見た。


ガルドを見た。


北の村の子供たちを思い出した。


ロウの言葉を思い出した。


父の言葉を思い出した。


民は数字ではない。


「人が、自分の価値を取り戻す場所を作るためです」


初めて、自分の望みに近い言葉が出た。


グレアム伯は笑った。


「美しい言葉だ」


「ありがとうございます」


「だが、美しい言葉では領地は守れない」


「知っています」


「なら次は、力で話そう」


晩餐はそこで終わった。


屋敷を出る時、グレアム伯は最後に言った。


「十日後、北道の通行権について正式に申し立てを行う」


戦争ではない。


まだ剣は抜かれていない。


だが、俺には分かった。


第1部の本当の敵が、


ようやく正面に立ったのだ。

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