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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第29話 グレアム伯からの招待状

グレアム伯爵家の紋章が入った紙は、ただの領収書ではなかった。


借用書だった。


村長モリスは、個人名義でグレアム領の商人から金を借りていた。


担保は、北の村の収穫。


つまり、今年の麦が不作だった時点で、村はすでに半分奪われていた。


「領主の許可なく、村の収穫を担保にすることはできません」


エマが言った。


「普通はね」


「無効にできますか」


「できる。ただし相手が認めれば」


「認めないでしょうね」


「うん」


セイルが紙を眺める。


「よくできています。違法と合法の隙間です」


「どういう意味だ」


ガルドが聞く。


「村長個人への貸付です。担保表記も曖昧。収穫物の優先購入権とも読める」


「つまり?」


「裁けば揉める。揉めれば時間がかかる。時間がかかれば、村は飢える」


嫌なやり方だ。


正面から奪うのではない。


困っている者に金を貸し、返せなくなったところで押さえる。


前世でも見た。


資金繰りに詰まった会社が、最悪の条件で金を借りる。


その瞬間、再建の選択肢は狭くなる。


「グレアム伯の狙いは北の村ですか」


エマが聞く。


「村だけじゃない」


俺は地図を見る。


北の村。


宿場町。


橋。


木材。


街道。


点が線になる。


「北道を押さえたいんだ」


ガルドが地図を覗き込む。


「北道?」


「王都へ向かう商人の抜け道。ここを整備すれば、うちの通行税が増える」


「逆に取られれば?」


「グレアム領が通行税を取る」


エマの顔が引き締まる。


「だから木材が必要だった」


「橋を直して、北道を自分たちの物流に組み込むつもりだったんだと思う」


黒鷲商会。


村長モリス。


木材取引。


放火疑惑。


全部が一つにつながる。


ただの商業戦争ではない。


領地の境界をめぐる戦いだ。


その日の夕方。


グレアム伯爵家から使者が来た。


今度は抗議文ではない。


招待状だった。


『レオン・アルヴェルト殿を、グレアム伯爵家の晩餐へ招待する』


エマが読む手を止めた。


「罠です」


「だろうね」


ガルドが即答する。


「行くな」


セイルは逆に笑っていた。


「行きましょう」


「お前は黙ってろ」


「敵の屋敷ほど情報が多い場所はありません」


「首を取られたら情報も何もねえ」


ガルドの言うことは正しい。


だが、行かない選択も弱い。


招待を断れば、こちらは恐れたことになる。


向こうはそれを噂にする。


アルヴェルト家の三男は、商売では威勢がいいが貴族の場には出られない。


そう言われれば、次の交渉で効く。


「行く」


俺は言った。


エマが息を呑む。


「レオン様」


「ただし準備して行く」


「準備?」


「持っていくものは三つ」


俺は指を立てた。


「木材契約の控え。モリスの借用書。北道の整備計画」


セイルが目を細める。


「交渉材料ですね」


「うん」


「護衛は?」


ガルドが聞く。


「ガルドに頼む」


「当たり前だ」


「エマも来て」


彼女は驚いた。


「私もですか」


「数字の話になる」


「でも、伯爵家の晩餐など」


「君が必要だ」


その一言で、エマは黙った。


やがて、小さく頷く。


「行きます」


セイルが手を上げた。


「私は?」


「来るな」


「ひどい」


「君は別で動いて」


セイルの笑顔が戻った。


「何を?」


「グレアム伯の評判を調べて」


「喜んで」


◇


夜。


父に報告すると、父は短く言った。


「気をつけろ」


「はい」


「あの男は、剣を抜かずに人を殺す」


その言葉で、背筋が冷えた。


翌日。


俺は初めて、敵の屋敷へ向かうことになった。


剣術F。


魔力F。


領主代理になって初めての外交戦。


相手は、アルヴェルト領を買い叩こうとしている伯爵だった。

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