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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第28話 飢える村に、麦ではなく仕事を配る

北の村は、静かすぎた。


子供の声が少ない。


家畜の鳴き声も弱い。


畑には人がいるのに、活気がない。


飢えは、人から音を奪う。


村長モリスは、俺たちを見るなり慌てて頭を下げた。


「レオン様、ようこそおいでくださいました」


「備蓄は二か月分あると報告されていますね」


「はい。もちろんでございます」


俺は村の倉庫を指した。


「開けてください」


モリスの顔が固まった。


「今は鍵が」


「開けてください」


ガルドが一歩前に出る。


それだけで十分だった。


倉庫は空だった。


完全に空ではない。


だが、二か月分どころか十日分もない。


エマが帳簿を確認する。


「報告と違います」


モリスは汗をかいていた。


「今年は、予想以上に消費が」


「嘘ですね」


セイルが楽しそうに言う。


「言い訳を考えるなら、もう少し時間を差し上げましょうか」


モリスは黙った。


責めるのは簡単だ。


だが、村人は今も腹を空かせている。


「モリスを村長から解任します」


俺は言った。


村人たちがざわめく。


「後任は、今日決めません」


「え?」


「まず村の実態を確認する」


エマが村人から聞き取りを始める。


ネルが倉庫を確認する。


ダリオは配給に必要な量を計算する。


ガルドは井戸と道を見る。


セイルは、モリスが誰と取引していたかを探る。


俺は村を歩いた。


視界に、何人もの能力が浮かぶ。


農業B。


木工A。


荷運びB。


料理C。


裁縫A。


この村には、人がいる。


食料は足りない。


だが、手はある。


「麦を配るだけでは駄目です」


エマが言った。


「分かってる」


ただ配れば、数週間は生き延びる。


だが次も同じことが起きる。


必要なのは、配給と仕事を同時に作ることだ。


「村に三つの仕事を出す」


俺は村人たちの前で言った。


「一つ。井戸の修繕」


壊れた井戸を指す。


「二つ。領道守備隊の補助として、北道の整備」


ロウの隊とつなげる。


「三つ。アルヴェルト布の下処理」


羊毛を洗い、乾かし、糸にする。


村の女性たちが顔を上げた。


「働ける者には賃金を払います。働けない老人と子供には配給を出します」


一人の男が聞いた。


「今、腹を空かせている者は?」


「今日、食料を出します」


ダリオが小麦袋を運ばせる。


無断で出した麦ではない。


領主代理として、正式に出す麦だ。


「ただし」


俺は続けた。


「次からは、仕事の記録と配給の記録を残します」


「字が書けない者は?」


「ネルが教えます。書ける者を記録係にします」


ネルが驚いた顔をした。


だが、すぐに頷いた。


「やります」


この返事が出るようになっただけで、組織は変わっている。


◇


夕方。


村の広場に火が灯った。


薄い粥が配られる。


豪華ではない。


だが、子供たちの声が少し戻った。


エマが俺の横に立つ。


「麦だけを配る方が、早かったかもしれません」


「そうだね」


「でも、それでは村は変わりません」


「うん」


「仕事を配るのは、難しいです」


「難しい」


前世でも、補助金だけでは会社は変わらなかった。


現金を入れても、仕組みが腐っていればまた赤字になる。


人に役割を戻す。


それが一番難しい。


その夜、モリスの家から隠された麦と銀貨が見つかった。


村人たちは怒った。


当然だ。


だが俺は、すぐに罰を決めなかった。


なぜなら、モリスの取引記録の中に、


グレアム伯爵家の紋章が入った紙があったからだ。


飢えた村の奥にも、


隣領の手が伸びていた。

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