第3話 メイドの少女が、商業SSだった
翌朝。
エマは異様に緊張していた。
「座って」
「い、いえ! 使用人がレオン様と同じ椅子に座るなど!」
「じゃあ立ったままでいい」
「はい!」
融通が利かない。
俺は机の上へ紙を置いた。
問題は単純だ。
村A。
小麦一袋、銀貨四枚。
村B。
小麦一袋、銀貨七枚。
荷馬車一台で二十袋運べる。
往復費用、銀貨二十枚。
「村Aで買って村Bで売る。利益はいくら?」
エマは紙を見る。
十秒。
「銀貨四十枚です」
即答。
正解。
次。
商品を三種類に増やす。
輸送費を変える。
廃棄率を入れる。
税金を追加する。
全部正解。
最後に少し意地悪な問題を出した。
「じゃあ、どの商品を運ぶ?」
エマは黙った。
数値上もっとも利益率が高いのはリンゴ。
だが腐る。
次がワイン。
利益率は少し低いが保存できる。
「……ワインです」
「理由は?」
「リンゴは途中で傷みます」
俺は笑った。
「正解」
計算だけじゃない。
ちゃんと商売を見ている。
「エマ」
「はい」
「今の給料はいくら?」
「月に銀貨十二枚です」
「明日から二十枚にする」
目を見開いた。
「え」
「ただし仕事内容を変える」
「仕事内容……ですか?」
俺は領地内の在庫一覧を渡した。
羊毛。
皮革。
蜂蜜。
木材。
薬草。
売れ残っている品々。
「これを売ってほしい」
「わ、私が?」
「そう」
「無理です!」
即答だった。
「商人と話したこともありません!」
「だから?」
「だからって……」
「やったことがないことと、できないことは違う」
エマが黙った。
前世でも何度も見た。
能力がない人間より。
自分に能力があることを知らない人間の方が、ずっと多い。
「失敗してもいい」
「……」
「金貨一枚までなら損していい」
エマが俺を見る。
「怒らないのですか?」
「怒らない」
「本当に?」
「ただし、何で失敗したかは教えてくれ」
長い沈黙。
やがて。
「……やります」
小さな声だった。
「やらせてください」
「よし」
俺は立ち上がった。
エマも立つ。
そして恐る恐る尋ねた。
「あの」
「何?」
「私は明日から……侍女ではないのでしょうか」
「そうだな」
彼女の顔が少しだけ曇る。
俺は続けた。
「明日から君は、俺の金庫番だ」
エマは言葉を失った。
その表情を見て、俺は確信した。
この少女は、まだ自分の価値を知らない。
なら、俺が使い方を決める。
才能は、正しい場所に置いて初めて才能になる。




