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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第23話 敵は商人だけではなかった

苦情を出したのは、元兵士たちだった。


戦闘部隊から外され、街道整備や倉庫管理へ回された者たち。


その代表として屋敷へ来たのは、ロウという男だった。


年齢は三十前後。


肩幅が広く、顔には古い傷がある。


視界に文字が浮かぶ。


【ロウ・ハイン】


職業:街道整備員


剣術:C


土木:B


責任感:A


不満:88


推奨職:


現場監督


不満、八十八。


分かりやすい。


だが、敵ではない。


「俺たちは兵士でした」


ロウは言った。


「それを急に道普請へ回された」


「必要な配置転換です」


「分かっています」


意外な返事だった。


ロウは怒鳴らなかった。


むしろ、必死に怒りを抑えていた。


「分かっているんです。給料も下がりすぎないようにしてくれた。家族が食えるようにもしてくれた」


「なら何が不満ですか」


「顔です」


俺は黙った。


「城下で言われました。兵士を落とされたのか、と」


ロウの拳が震える。


「子供に聞かれました。父さんはもう兵士じゃないのか、と」


金ではない。


誇りだ。


俺は心の中で舌打ちした。


見落としていた。


前世でも何度か失敗した。


配置転換は、給与と仕事内容だけでは終わらない。


名刺。


肩書き。


制服。


周囲の目。


人は、仕事で飯を食う。


だが、仕事で自分を保ってもいる。


「すみません」


俺は頭を下げた。


部屋の空気が止まった。


ロウも驚いた顔をする。


貴族が元兵士に頭を下げたのだ。


父がいたら怒ったかもしれない。


だが、ここは俺の判断だ。


「俺は、あなたたちの誇りを軽く見ていました」


ロウは何も言わない。


「仕事を用意すれば十分だと思っていた。でも違った」


エマが隣で静かに聞いている。


ガルドは腕を組んだまま、珍しく口を挟まない。


「街道整備班の呼び方を変えます」


「呼び方?」


「領道守備隊」


ロウの目が動く。


「道を直すだけではありません。商人を通し、荷を守り、村と市場をつなぐ仕事です」


俺は続けた。


「制服も変えます。剣ではなく、麦穂と車輪の印を入れる。兵士ではない。でも領地を守る仕事だと分かるようにします」


ロウの顔が少しずつ変わっていく。


「そんなことで」


「そんなことが大事なんです」


前世なら笑われたかもしれない。


だが、組織は名前で動く。


部署名。


役職名。


プロジェクト名。


人は、自分の仕事に意味があると感じた時、もう一歩踏ん張れる。


「ロウ」


俺は言った。


「あなたを領道守備隊の現場監督に任命します」


「俺が?」


「土木に向いています。責任感もある」


「兵士としては落とされた俺が?」


「兵士としてではなく、別の場所で必要です」


ロウは唇を噛んだ。


その目に怒りは残っている。


だが、少しだけ違うものも混ざっていた。


「……考えさせてください」


「もちろん」


ロウが去った後、ガルドが低く言った。


「俺の失敗でもある」


「ガルドの?」


「俺は兵として見すぎた。残すか外すかだけで考えた」


「俺も同じです」


「違うな」


ガルドは俺を見る。


「お前は頭を下げた。俺はまだできねえ」


その言葉に、俺は少しだけ救われた。


だが、問題は終わっていない。


領内には、ロウのような人間がまだいる。


改革は数字を良くする。


同時に、誰かの心を置き去りにする。


翌日。


城下町に噂が流れた。


レオン様は兵士を捨てた。


元兵士は、貴族の金儲けに使われている。


出どころは分からない。


だが、俺には分かった。


黒鷲商会ではない。


グレアム伯でもない。


敵は、外だけではなかった。

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