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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第22話 黒鷲商会の支店長を、数字で追い詰める

バノンは、最後まで認めなかった。


「下働きの妄言だ」


「そうですか」


「私は何も命じていない」


「では、帳簿を確認しましょう」


エマが一歩前へ出た。


彼女の手には、黒鷲商会の取引記録を写した紙がある。


完全な帳簿ではない。


だが十分だった。


「こちらが、三年前に仕入れた北方材の数量です」


エマは紙を置く。


「こちらが、今年の在庫記録です」


もう一枚。


「そしてこちらが、今回燃えたと申告された木材量です」


三枚目。


数字が並ぶ。


木材。


束数。


仕入れ価格。


保管場所。


損耗率。


黒鷲商会の商人たちの顔が変わった。


分かる者には分かる。


数字が合っていない。


「燃えたと申告された木材量は、実在庫より多いです」


エマの声は震えていなかった。


「つまり、火事の損害を実際より大きく見せています」


「小娘が」


バノンが低く言った。


「商会の帳簿を語るな」


「語ります」


エマは即答した。


「数字が間違っているので」


俺は少しだけ笑いそうになった。


強くなった。


以前の彼女なら、その一言で縮こまっていた。


今は違う。


数字を持っている人間は、机の上で背筋が伸びる。


「さらに」


エマは続ける。


「黒鷲商会様は、今回の火事を理由に、グレアム伯爵家へ補償を求める予定だったのではありませんか」


バノンの頬が引きつる。


セイルが横から口を挟んだ。


「橋の修繕用木材を失った、と」


「……」


「しかし実際には、橋に使えない虫食い材だった」


ガルドが鼻で笑う。


「詐欺師が詐欺師を追い詰めてるな」


「心外ですね」


セイルは楽しそうに答える。


「私は今回は正義の味方です」


「その言い方が一番信用できねえ」


場の空気が少しだけ緩んだ。


だがバノンは笑っていない。


追い詰められた商人は、武人より危ないことがある。


剣を抜く代わりに、噂を流す。


契約を壊す。


人を買う。


だから、逃げ道も用意する。


「バノン殿」


俺は言った。


「こちらは、黒鷲商会全体を潰したいわけではありません」


「……何が言いたい」


「今回の件を、支店長の独断として処理します」


エマが一瞬だけ俺を見た。


セイルはすぐに意味を理解して笑う。


バノンの顔から血の気が引いた。


独断。


つまり、黒鷲商会本店は守る。


その代わり、バノン個人に責任を背負わせる。


「条件は三つ」


俺は指を立てた。


「一つ。アルヴェルト家への放火疑惑を撤回すること」


「……」


「二つ。木材取引を妨害しないこと」


「……」


「三つ。名誉回復協力費として金貨百二十枚」


バノンが机を叩いた。


「ふざけるな!」


「ふざけていません」


「そんな金を払えるか!」


「では黒鷲商会本店へ報告します」


沈黙。


商人にとって怖いのは、敵ではない。


身内から切られることだ。


特に、支店長の失態は本店に嫌われる。


金貨百二十枚。


安くはない。


だが、首を守るには安い。


バノンは歯を食いしばった。


「……分割なら」


「駄目です」


エマが言った。


「全額、三日以内です」


俺は彼女を見た。


強い。


少し強すぎる。


だが今はいい。


ここで緩めれば、また後払いで踏み倒される。


「払えば、今回の件はここで止めます」


俺は言った。


「払わなければ、黒鷲商会本店、商人ギルド、グレアム伯爵家、すべてに記録を提出します」


バノンは黙った。


長い沈黙。


やがて、低い声で言う。


「三日だな」


「はい」


「覚えておけ、レオン・アルヴェルト」


「覚えておきます」


バノンは去った。


勝った。


少なくとも、この場では。


だが俺は、勝利の後の空気が嫌いだった。


人は勝った瞬間に油断する。


組織は、成果が出た瞬間に自分たちを正しいと思い込む。


その夜。


屋敷に戻ると、父が待っていた。


「よくやった」


初めて聞く言葉だった。


俺は一瞬、返事に詰まった。


だが、次の言葉で現実に戻された。


「だが、領内から苦情が来ている」


「苦情?」


「お前の改革で、仕事を変えられた者たちからだ」


商業戦争の外側で、


別の火種が燃え始めていた。

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