第21話 共同調査で、詐欺師が笑った
共同調査の場は、宿場町の焼け跡に設けられた。
黒鷲商会の倉庫は、半分ほど焼け落ちていた。
焦げた柱。
崩れた屋根。
水を含んだ灰。
そして、妙に整った場所に置かれたアルヴェルト家の木材札。
見た瞬間、俺は思った。
雑だ。
だが、雑な罠ほど面倒なことがある。
「証拠はここにあります」
黒鷲商会の支店長、バノンが重々しく言った。
丸い顔から笑みは消えている。
代わりに浮かんでいるのは、被害者の顔だ。
「アルヴェルト家の札が現場から出た。これ以上、何を調べる必要が?」
グレアム伯爵家の使者も腕を組んでいる。
周囲には町の商人たち。
宿場の住民。
それに、うちの兵が数人。
こちらが一つ言葉を間違えれば、噂はすぐに走る。
アルヴェルト家は放火までした。
そう言われれば、商売は終わる。
「調べる必要はあります」
俺は言った。
「火事の原因と、木材札が置かれた経緯は別です」
バノンが鼻で笑う。
「苦しい言い訳ですな」
「そう見えるでしょうね」
俺はセイルを見た。
「説明して」
セイルは一歩前へ出た。
妙に楽しそうだった。
この男は、相手が嘘をついている場面になると生き生きする。
「まず火元ですが、倉庫の奥です」
セイルは焼け跡の一点を指した。
「入口ではありません。外から投げ込まれた火ではない」
バノンの眉が動く。
「それが何だ」
「次に燃えた木材です。これはアルヴェルト領の新材ではありません」
エマが布に包んだ木片を出した。
リーナに確認させたものだ。
木の中に虫食いの跡がある。
乾燥しすぎて割れも多い。
「黒鷲商会様の古い在庫ですね」
エマが言った。
「三年前に北方から仕入れた低質材。帳簿上はまだ売却前になっています」
バノンの顔が初めて強張った。
「なぜ、そんな帳簿を」
「薬師ギルド経由で確認しました」
嘘ではない。
一部はセイルが聞き出した情報だが、裏は取ってある。
商売の場では、言える情報と言えない情報を分ける必要がある。
「つまり」
俺は言った。
「ここで燃えたのは、売れない木材です。そこへ、うちの木材札だけが置かれていた」
ざわめきが広がる。
バノンが声を荒げた。
「言いがかりだ!」
「では共同で保管記録を確認しましょう」
「商会の内部記録を見せられるわけがない!」
「では、こちらも放火疑惑を認めるわけにはいきません」
沈黙。
セイルが小さく笑った。
「バノン殿」
「何だ」
「下働きのトマという男をご存じですね」
バノンの目が揺れた。
一瞬。
本当に一瞬だ。
だが十分だった。
「二日前、彼はアルヴェルト領の材木置き場に入りました」
「知らん」
「そうですか。ではなぜ今朝、あなたの屋敷の裏口から逃げようとしていたのでしょう」
セイルが指を鳴らす。
ガルドの部下が、一人の若い男を連れてきた。
顔色は悪い。
手は震えている。
視界に文字が浮かぶ。
【トマ】
職業:黒鷲商会下働き
運搬:B
隠密:D
嘘:F
恐怖:92
推奨職:
倉庫作業員
嘘が下手な人間を、口封じもせずに使ったのか。
やはり雑だ。
ただし、雑でも権力があれば押し切れる。
だから、ここで折る。
「トマ」
俺は静かに言った。
「君が話せば、アルヴェルト家は君を訴えない」
バノンが叫ぶ。
「勝手なことを言うな!」
「放火を命じた者が別にいるなら、責任はそちらへ向く」
トマの唇が震えた。
バノンが睨む。
ガルドが一歩前に出る。
セイルは笑っている。
エマは帳簿を抱え、真っ直ぐ立っていた。
少し前まで、商人相手に震えていた少女が。
今は、証拠を持って立っている。
トマが膝をついた。
「……札を置けと言われました」
ざわめきが爆発した。
「誰に」
俺が聞く。
トマは泣きそうな顔で答えた。
「バノン様です」
その瞬間、商業戦争の形が変わった。
俺たちは疑われる側ではなくなった。
疑う側になったのだ。




