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異世界転生した元・企業再生屋、無能扱いされた人材を集めて滅亡寸前の辺境領を立て直す  作者: 渋谷 爽月
第1部 滅亡寸前の辺境領、再生開始

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第15話 エマ・ローデル、初めて負ける

勝った。


そう思った翌日、俺たちは負けた。


朝一番に倉庫へ向かったエマが、真っ青な顔で戻ってきた。


「レオン様」


「何があった」


「羊毛の買い手が、全員取り消しを申し出ています」


俺は手を止めた。


「全員?」


「はい。ロイド商会も、競りに参加予定だった商人も」


理由はすぐに分かった。


黒鷲商会だ。


バノンが裏で圧力をかけた。


アルヴェルト家の商品を買う商人には、グレアム領内での取引を制限する。


そう脅したのだろう。


エマは唇を噛んでいた。


「私の判断ミスです」


「違う」


「いえ。分割すれば価格決定権を握れると思いました。でも相手の影響力を読み違えました」


俺は黙った。


その分析は正しい。


だからこそ、安易に否定できない。


「蜂蜜は?」


「メリッサ様だけは買うと言ってくれています。ただし量は半分にしてほしいと」


「薬師ギルドにも圧力が?」


「おそらく」


セイルが窓際で笑っていた。


「やりますね、バノン殿」


エマが睨む。


「笑い事ではありません」


「笑い事ではありませんが、商売ではよくあることです」


「……」


「相手は価格で負けそうになった。だから市場そのものを閉じた」


セイルは肩をすくめる。


「正しい手です」


正しい。


腹立たしいが、正しい。


商売は、良い商品を適正価格で売れば勝てるほど甘くない。


売り場。


流通。


信用。


人間関係。


そのすべてが戦場になる。


エマは小さく言った。


「私、昨日少し浮かれていました」


「うん」


「商人ギルドで言い返せたから、勝てる気になっていました」


「うん」


「でも、何も分かっていませんでした」


俺は立ち上がった。


「それが分かったなら、負けた意味はある」


「ですが、商品は売れません」


「まだね」


「まだ?」


「売り先を変える」


エマは顔を上げた。


「グレアム領内の商人が買えないなら、領外へ売る」


「輸送費がかかります」


「だから、軽くて高く売れる形にする」


俺は羊毛を一束手に取った。


原毛のまま売れば安い。


洗って、選別して、糸にして、布に近づければ価値が上がる。


加工だ。


「村に織り手はいる?」


エマがすぐに答える。


「います。冬の副業として布を織る家が二十ほど」


「なら仕事を出す」


「でも今は農繁期です」


「夜の短時間でいい。出来高払いにする」


「品質が揃いません」


「揃える係を置く」


「誰を?」


俺は名簿をめくる。


視界に浮かぶ文字を探す。


料理人。


洗濯係。


元針子。


いた。


【リーナ・フォル】


職業:洗濯係


縫製:A


品質管理:S


集中力:S


推奨職:


織物工房長


「リーナを呼んで」


エマが目を見開く。


「また使用人ですか」


「うん」


「レオン様は、使用人を何だと思っているのですか」


その声には、少しだけ棘があった。


俺は彼女を見る。


「人材」


「……」


「身分ではなく、仕事を任せる相手」


エマは黙った。


自分がそうされたから、分かる。


だが同時に、怖いのだろう。


別の誰かが抜擢されること。


自分の場所が奪われること。


組織が大きくなる時、最初に抜擢された人間は必ず不安になる。


「エマ」


「はい」


「君の仕事は、全部を自分でやることじゃない」


「……」


「人を使う側へ回ることだ」


エマは息を呑んだ。


「私が、ですか」


「そう」


「できるでしょうか」


「できるかどうかじゃない。やる必要がある」


きつい言い方だった。


でも、今の彼女には必要だった。


商業SSの才能を、ただの優秀な販売係で終わらせるわけにはいかない。


その日の夕方。


羊毛は売れなかった。


蜂蜜も半分しか売れなかった。


帳簿上は、明確な敗北。


だが夜。


城下の家々に、小さな仕事が配られた。


羊毛を洗う者。


糸を紡ぐ者。


布を織る者。


品質を見分ける者。


エマは泥のついた靴で、家々を回っていた。


負けた人間の顔ではなかった。


次に勝つ準備をしている人間の顔だった。

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