第5話
拳の大きさのアペイロン石は、黒布張りの箱の中に厳封されていた。この箱は特別製で、七重の魔法陣で封じられており、太陽や風の精霊、そして地下の霊力との共鳴など、一切の外部依存エネルギーを遮断するようになっている。要するに、箱の中にあるエネルギーは、無視できるほど小さく、実質的にゼロだったのである。これは、禁止魔法の領域展開により可能である。
一方には、石から出力されるエネルギーを、運動や熱に変換する装置があった。地上には、まず複雑に組み合わされた歯車があった。そして、歯車の先にはさまざまな羽根車がある。また、大量の水が容器に溜められている。そのような装置は、見渡すかぎりの数があり、地表を埋めている。それが第一段階だ。もっとも、上質の魔法石であれば、これくらいのエネルギーは秘めているので、これは小手調べに過ぎなかった。
そして第二段階は、空中浮遊をもたらす塔型の装置だった。その塔は複数基、ずらりと並んでいた。塔には浮遊波を発信する機能がある。その対象は、向かいの風景の中にある山だった。もし魔力がアペイロン石から、装置の中へと無際限に供給されるのであれば、山を地上から百五十メートル浮遊させ、また近くの湖に飛び込ませることなど、容易であるはずだ。これは、たった一つの魔法石では通常、不可能な仕事である。
最後の第三段階は、術式加速砲であった。照準は言うまでもなく、無人の山の方角に向けられている。それは長大な砲身で、その内側の魔術回路は職人の手で、精巧に組まれていた。真っ直ぐに発射されるのは、結界を破壊する弾である。そのような弾が、砲身の中に装填されている。そして、命中すると燃焼符が発動し、そこにある一切のものを焼き尽くすのである。
以上の三段階を完遂するためには、一つの魔法石について、莫大なエネルギーが必要だった。もちろん、永久機関の検証に、永久の時間を費やすのは、本末転倒である。したがって、外部エネルギーが遮断された状態で、これらのプロセスを果たす力があれば、永久的であるとみなして良かった。
しかし、二人はまず、比較をしなければならなかった。そのため、もっとも高い等級の魔法石を、もう一つの箱の中に厳封していた。
二人は合図をした。そして、エネルギーを出力させた。予想通り、第一段階はクリアーした。歯車や、羽根車はさまざまに動き、水は熱せられた。
しかし、そこまでが精一杯であった。第二段階の塔の装置には、一切のエネルギーが供給されていない。比較実験は終わった。アリシアは、その結果を用紙に記録した。
それからが本番であった。あらゆる準備は万端、整った。
二人は、アペイロン石に期待を掛けていた。箱の中の石は、大きな力を秘めながら、隔絶された領域に静かに横たわっている。あたかもそれは、鉱脈の闇の中に似ていた。
エネルギー出力をスタートさせるには、箱に描いた魔法陣を操作すればよい。そうすることで、三つの段階が始まった。
すると、まるで水が注がれるように、回路の一つ一つに、音も立てずに魔力が流れ込み、熱を帯びた。その先にある歯車は、動き始めた。エネルギーは、今にも溢れ出しそうである。そして、その一連の動きは合わさり、多発的な反応へとつながり、こうした連鎖が畳み掛けられた。そして、一つの大きな波になった。地上では、歯車という歯車が活動し、羽根車の回転も始まった。容器に溜められた水は、熱せられて湯気が出ていた。
地表の装置の様子は、一種の壮観だった。たった一つの歯車も、動かずにいることはなかったのである。
小手調べは終わった。次なる段階からが、真骨頂の発揮である。




