表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/9

第4話

 研究室の中に入る。


 部屋を照らすランプから絨毯まで、そこでは調度の一つ一つが重厚であった。暖炉には炎が燃えており、冷たい外気は窓の外に封じ込められていた。壁面の本棚は天井まで届いている。その中には、流派に偏ることなく、多様な分野の書が並べられていた。魔獣解剖図譜、薬草誌、鎖で留められた禁書。あるいは、専門的な鉱石を並べた硝子棚も、壁面の多くを占めていた。


「アリシア、これは何だろうか?」

 ケントは、硝子棚の一角を指差した。アリシアは笑って、

「それについて蘊蓄を語り始めると、海を飲み干す時間があっても足りなくなるわ」

 と言った。


 アリシアはテーブルの上を片付け、椅子を並べた。すると、部屋の中には助手が入ってきて、どこからともなく飲み物や茶菓子を用意した。そして、二人はしばらくの間、談笑した。


 一服しているケントの姿を見つめながら、アリシアは本題に入った。


「さて、例の品物を見せて欲しいのだけれど」

 ケントは、荷袋の中の封印を解いた。そして、テーブルの上に一つの石を置いた。つい二ヶ月前まで、最果ての山の地下深くに眠っていた石だ。


 それを一目見ると、アリシアの表情が変わった。


「アペイロン、ね。はっきりと言うと、これはただものではないわ」

「やはり、そうか」

「理論的には解としてあり得るのだけれど、実在するとは思わなかった」

「じゃあ、無からでも生まれたのかな」

「それは神のみぞ知ることよ」

「神か。至高の存在も、気まぐれなさいころを振るものだ」


「アペイロンは、理論の上では、自由自在にいかなる大きさも取りうる。しかし、実際にはそうではなく、魔法粒子の一粒よりもはるかに小さい形でしか、そもそも存在しえないわ。また、存在が可能になっても、その観測は難しく、刹那の間に崩壊・消滅してしまう。それに例外はない。だからこそ、すべてのエネルギーは均衡を保っている。だとすると——」


「じゃあ、こんなに大きい石が、本物である理由がどこにあるのだろう?」

「それにもかかわらず、私の眼には、本物の条件をクリアーしている。綺麗なものよ。ただし、私とて人間だから、百パーセントではない。ところで、東方の採掘地では、検査はされたのでしょう?」

「そう聞いている。その堅牢さもさることながら、どんな検査も受け付けないほど、封じ込められたエネルギーが大きく、現場の手に負えないとのことだった」

「それなら、改めてその手続きをやってみるしかないわね。そのためにあなたは、ここに来たのでしょう?」


「単に石だけでいいのなら、わざわざリスクを冒して、ここまで持って来る必要はない。にもかかわらず、苦労をいとわなかったのは、他でもない。暁の大塔でなければ、アペイロンが本当に、無限運動の価値を秘めているか、実験で判明しないからだ」

「わかったわ。やってみましょう」


 このようにして、二人は一連の検証作業を開始したのだった。


 ケントが思い返すに、その実験はきわめて大掛かりなものだった。空いている土地を大規模に利用するから、決して王都などではできなかっただろう。また、人里離れた場所でなければ、機密性に問題があった。したがって、センターである暁の大塔の近辺が、その実験場所として最適解だったのである。


 ケントとアリシアは、銀の山脈の手前にある、山々が見える場所にいた。それは大塔から北西の方向にある。その土地は荒れ果てており、再開発は不可能であった。そのため、どんな実験をしようと差し支えなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ