第25話
ケントとアリシアは、アインハルと他の一人の青年を交えて、ボードゲームで時間を過ごしていた。それは兵のコマを用いた戦略ゲームで、四人で行うのが正式なルールである。盤の形は広い正方形で、その中央の特定マスを「聖域」と呼ぶ。勝利条件は、王が最後の一人になるまで戦うだけでなく、自分の王をその聖域に一定手数留め、支配することでも達成された。
他にも、カードゲームやテーブルゲームなど、遊びのバリエーションは存在していた。このようなことでなくとも、伝えられた文献を静かに読む者もいれば、編み物を行う女性もいた。悪天候の時には、天幕の中で時を過ごす術がなければ、生活の質は著しく下がるからである。
むろん、外出が難しい日にもやるべき仕事は無数にあった。乾燥肉の加工、革なめし、天幕布の繕い、交易品の目録作り、炊事洗濯、病人の看病——しかし、ケントたちは客人ゆえに、こうした仕事をせよとは言われなかった。また、アインハルたちはその相手をするように指示されていたのである。
結果として、四人で場を囲む中で、大いに交友は深まった。
「本当にこのゲームは初めてなんですか」とアインハルは言った。「なかなか強いですね」
「エルノール国に似たものがあって、それをやったことがあるからかもしれない。しかし、二手三手先を読むことなら、アリシアもなかなかのものだよ。何せ、彼女は国家魔術師で、しかも史上最年少の十六歳で合格したのだからね」
「難しいのですか、その試験って」
「はたして、難しいのだろうか?」とアリシアは首をひねった。「私はまぐれで受かったようなものだから、よく分からない。かなり前から、年齢制限が廃止されただけでなく、どんな身分の者も受けられるようになったのが、幸運だっただけ」
「アインハル君」とケントは言った。「アリシアは謙虚だから、こう言っているだけなんだ。普通は、三十代、四十代以上になって、学識と熟練を積まないと受からない試験だよ」
「じゃあ、こう見えてすごい人なんですね」
アインハルの「こう見えて」という一言が、アリシアを笑わせた。
「じゃあ、どう見えたらすごくないのかしら」
「さあ」
アインハルは、つられて笑った。そして、
「それなら、ケントさんはアリシアさんのパートナーなのだから、もっともっとすごい人なんですね」
「パートナーというより、旅の仲間かな。まあ、ともかくエルノール国の下で働いてはいた」
「確か、騎士とか何とか」
「そう。ギルバート王の下で、騎士団の一人として、働いていたんだ。もっとも、それもこれも身分であり、役割分担だからね。すごいと言えるかは疑問だ」
「そして、騎士が学術研究もやっているのですね」
「まあね」とケントは目的を伏せて言った。「だからここに来たのだし、ネム・アディラの遺跡のことも知りたいんだ」
すると、向こうでアインハルの親戚が言った。
「さっき、外を見てきたんだが、天候はこれから良くなりそうだ。だが、あいにく皆、色んな仕事で手一杯で、十分にもてなしきれない。だから、明日もお前が案内できないか?」
「遺跡のことですか」
「そうだ。道は分かるだろう? もし分からなければ長老に聞きなさい。また、内部も迷うようなところはないはずだ」
「分かりました」とアインハルは言い、ケントたちを見た。「そういうことで良いですか?」
「もちろんです。お忙しいところ、大変お世話になります」
ケントとアリシアは、丁重にお礼を言い、明日に備えるのであった。
◇
一行は、アインハルを先頭にして、イシュ・カラドの大地を北へと向かった。しばらくの間は、茫々とした砂の風景が単調に広がっていた。しかし、しばらくすると、左右には岩山が聳えるようになり、一行は谷をくぐり抜けるようにして進んだ。そしてその谷も途切れて終わりになる頃、目の前には思いもかけないものが見えてきた。
「あれですよ」とアインハルは言った。
それは巨大な石像であった。人間の形をしているが、雰囲気を見るに、神々の一種であるらしい。その証拠に、額には第三の眼が刻まれており、頭飾りには神獣の姿がある。ただし、露見しているのは上半身だけで、そうでない箇所は大地に埋もれている。また、右腕の半分は湮滅しており、それが歴史の経過を感じさせる。
「発掘などはしないのですか」とケントが聞いた。「もしそうすれば、ずいぶん興味深いことが分かりそうですが」
「そこにハサルの民の考えがあるのです。私たちはこの場所の歴史を重んじているので、あくまでも現況を尊重したいのです。砂から出来たものは砂へと還る——それがもっとも神聖なことなのです。砂絵と同じですね。それに、ここに来ようと思えば、いつでも来られますので」
「なるほど。博物館のケースの中ではいけないのですね」
「もっとも、こうしたことは全部、長老の受け売りです」
一行は馬を降りて歩きながら、石像の裏手へと回った。
その一帯には列柱が立ち並んでいた。古いものである割には欠けが少なく、無事に立っており、それが何であるかはすぐに分かった。ただ、その土台の部分はやはり見えなかった。
「全体的に、この辺りは埋もれているのですね」とアリシア。
「時の流れはすごいものです。かつてのネム・アディラは、神殿センターだったのですよ」
「それも埋もれているのですか」
「ほら、あそこに見えてきたでしょう」
一行が進んでいく中で見えてきたのは、砂の下から突き出した一つの門であった。あたかもそれは、経年の砂の斜面が巨大な門の空間を埋めようとしているように見える。しかし、その空間は三階ほどの高さがあったので、埋もれていても入ることは難しくない。
「内部構造は僕でも分かるくらいですから、難しくありません。ここまで来たのですから、一通り案内しましょう」
このようにして、一行は神殿の中に入り込んだ。




