第17話
「なるほど。鳥や犬などに比べると、美しさには欠けますが、これなら秘匿結界をも破ることができるのですね」
「私はそのような虫の眼によって、法廷の中に入り込み、その場を観察していました。そして、前々から半信半疑だった情報の裏取りをしたのです」
「まさかそれが——すでに失われたはずでは」
「そうです。アペイロン石です」
「永久機関ですか。もし本当だとしたら、私たちは無事では済まないでしょう」
「しかし、私たちが今、無事でいる以上、ケント・アーヴィングの計画は失敗したのです」
「クーデターと世界制覇の計画。本当だったのですね」
「アペイロン石との契約が仮に成功していたら、世界は今ごろ、エルノール国の覇権主義の下に入ってしまっていたでしょう。しかし、私たちの国は独立を維持し続けました。そして、石は幸運なことに、世界の方々に四散したのです。もちろん、よくよく探し当てれば、その欠片は私たちの国の領土にもあるでしょう。原理的には、あらゆる欠片を集めれば良いことになります。したがって、やるべきことはただ一つです」
「つまり、石の復活ですか」
「ただし、その契約者は依然、ケント・アーヴィングのままです。それを承知で、エルノールの王は国外追放という名目で、彼を温存し、アペイロンの探索へ送り出したのです。むろん、そちらの方が利用価値が高いと思ったからでしょう。しかし、王はなかなか、お人好しなのですね。そこで、私はあなたに別の方法を提案します」
「いずれにせよ、契約内容を変更しなければ、敵に塩を送ることになりかねません」
「その通りです。単なる復活では意味がありません。我々は所有権を獲得しなければならないのです。そこで、私はケント・アーヴィングの心臓を利用することにします」
セレナは、穏やかな表情でそう言った。
「生きたままですか」
「まさか。その肉を抉り出して、利用するのです。彼の心臓さえあれば、全てが上手くいくでしょう。なぜなら、そこには契約の証が魔術回路として刻み込まれているからです。その魔力の痕跡を増幅させれば、それを探索機として利用し、世界に四散した欠片の場所を探り当てることができる。心臓は生命の根源だからです。そのように私は考えます」
「上手くいかなかったら、どうしますか」
「仮に彼の心臓が機能しなくても、問題はありません。恐らく、契約者が死亡した場合は、その主体が宙に浮くことになるので、石の所有権はリセットされることになるでしょう。そこから、ノーヒントで石の欠片を奪い合うことになります。しかし、私はその争いに勝利し、マルク王の御稜威を輝かせることができるでしょう。私にはそういう自信があるのです」
「ぜひその際には、一国だけで栄光を独占するのではなく、我が国もその傍らに入れていただければ、と思います」
「もちろんです。私たちの友情は堅固ですから」
このように、二人の話がまとまってから、セレナは次のように言った。
「私たちは軍事同盟に加えて、次の命題で一致したようですね」
「はい」
「すなわち、『アペイロン石の契約者、ケント・アーヴィングを討て』」
セレナは、国威の象徴である杖を手にして、凛乎として言い放った。




