第15話
ケントは、そうしたことを思いながら、馬を進ませていた。その道のりは、当て所がなく、また憂鬱であった。
死罪こそ免れたものの、これは実質的な国外追放処分である。
この零落は、ケントの初めての人生の挫折であった。
勅命を帯びて、意気軒昂と暁の大塔に向かい、石を運んでいたあの頃。そこから、いかなる巡り合わせで、このように転落するに至ったのであろうか。
思いは乱れて渦をなし、明瞭な像を結ばなかった。
そして、さらに道を進んでいると、何かの気配を感じた。方角は後ろ側である。
ケントは、もし魔物が来るのならば、自分自身を食らうがよいと思った。そのため、腰の剣を抜くことをしなかった。
その気配は、速い移動速度で、ますます近づいて来る。ケントはとうとう、半ば自棄になって振り向いた。
すると、信じられないものがそこにあった。
そこには、アリシア・グレイがいた。
「ケント!」
アリシアの声は、無人の荒野に響きわたった。馬を全力で駆けさせて、やっとのことで、追い付いて来たのである。
「アリシア、なぜここに?」
「なぜって。全部秘密にするなんて、悪い人。教主さんが、秘書を通じて教えてくれたのよ」
「教主さんが!」
「そう。ケントにアペイロン石を完成させて欲しいからって」
「そうなのか」
「でも、もう身の程知らずの野望なんか、持ってはいけないよ」
「もう十分懲りたよ」
「教主さんは、永遠の平和のためにこそ、石があるとよいとおっしゃった。だから、ケントにはそういう望みを起こして欲しいの」
「うん」
「本当に分かった?」
「彼は僕の大恩人だ。もはや、足を向けて眠ることができないだろう」
「あと、いいものを持って来たわ」
アリシアは、荷物の中から何かを取り出した。
それは一つのペンダントだった。デザインはシンプルで、凝った作りのものではない。埋め込まれた宝石の部分が、きらきらと光っている。
「これがどうしたの?」
「教主さんがこれをあなたへ、と言ったの」
「ありがとう」
「しかも、これはただのペンダントではないわ。『存在剥離症候群』の進行を食い止めるの」
「いくら教主さんでも、そんなことができるのか」
「宝物庫の奥に代々しまってあったものだけど、さまざまな呪いに効力を及ぼすとのこと」
「では、治るのか」
「完全ではないけれど、遅らせることは可能よ」
「ならば、アペイロンを腰を据えて探索できる」
「あと、聖なる水など、回復薬があるわ」
「ありがたい」
「教主さんは、『その他、必要なものがあれば、私のところに来なさい。もしくは、あまりに離れていないところなら、送り届けさせよう』とおっしゃった」
「私のところ」とは、普遍的中立地帯である教主領のことであった。そこはイール国やソルヴァル国からも遠くないにもかかわらず、専守防衛と信仰の権威、そしてエルノール国の後ろ盾のゆえに、攻め込むことができないのだった。
「いろいろ、お世話になるね、アリシア。僕は、僕は——」
ケントは泣いていた。アリシアは、ケントの肩を撫でた。それから、アリシア自身の上着を脱ぎ、ケントへと着せた。
二人は、このようにして世界へと出発したのである。




