第12話
ケントの目の前には、青白く燃えている炎があった。骨に徹するような青白さで、普通の炎ではない。積み重ねられた薪の輪郭は、静かに侵食されている。
ケント・アーヴィングの神明裁判が、行われようとしていた。一般に、エルノール国の裁判は公開であるが、この一件だけはそうではなかった。ギルバート王、王妃ソフィア、教主ジュリアン、騎士団の長など、ごく一握りの要職者たちの臨席に限られた。アリシアもアペイロン石の証言者であり、そこにいた。民は、このような裁判があることなど、いざ知らなかったのである。
ケントには、炎の中の聖具を取り出すことが求められた。「聖火の審問」である。神々の前で誓った事柄について、罪があるなら火傷を負い、そうでないなら無傷である。加えて、清浄な炎の色も、正邪に応じて変化するのだった。
その審問が行われる前には、国家を代表する告発者が、ケント・アーヴィングの罪を逐一、述べ上げていた。
「この者が行った所業は、前代未聞である。なぜなら、国家の運命を左右するアペイロン石を、王の勅命なく使おうとしたからだ。しかも、この者は恐るべき謀略を立てていた。すなわち、石を用いて、王殺しのクーデターを起こそうと試みたからである。
そもそもアペイロン石は、暁の大塔の実験の結果、永久機関と判明したのである。仮にこれが無事であれば、我が国はこの世界の覇者となっていたであろう。にもかかわらず、この者の所業のため、石は世界のあちこちに四散し、失われてしまった。しかも、世界は今なお、崩壊の危機に直面している。
したがって、こうした一連の行為は、明らかに『国家社会の秩序を分裂させる罪』の中でも、もっとも悪質なものに相当する。したがって、我々はケント・アーヴィングに死刑を求刑するのである」
こうした告発者に対して、代言人は次のように述べたが、それはいかにも平凡な反論であった。
「ケント・アーヴィングは現在、『存在剥離症候群』に罹患しており、いずれ死すべき身である。したがって、そのような人間に死罪を科するのは、屋上屋を架するだけでなく、いかにも酷なことではないかと考える。また、仮にそうでなかったとしても、『誤るは人の常』との言い伝えがあるように、寛大な処断を要望しなければならない」
なお、裁判官は証人に話を聞き、証拠を調べなければならなかった。
アリシアは「確かに、アペイロン石は永久機関でした」と言った。東方の採掘官も、同様に証言した。
次に行うべきことは、四散して失われた石に関してである。現場に詰めていた番兵は、以下のように証言した。
「私は『ギルバート王の命令につき、保管庫を開いた上で、その場を離れて欲しい』と言われましたので、その通りにしました。そして、一時間ほど経過したころでしょうか。保管庫の方角で、大きな衝撃音がしたのは。私は何か起こったと思い、その場へと駆けつけました。すると、保管庫の中は恐るべき状況でした。そこにはケント様が倒れており、またその傍らには、砕け散った石の残骸があったのです」
次の証人は、ケントを治療した医師であった。
「はい。確かにケント・アーヴィング氏は、『王を討つ』と申しました。むろん、熱病のうわ言としてですが、ただ一回だけではなく、繰り返し述べました。この耳で聞いたことですから、間違いございません」
以上のように、証人や証拠は出揃い、告発者や代言人もそれぞれの主張を行った。
むろん、裁判官がケント自身に問うたことは言うまでもない。
獄中での取り調べでもそうであったが、繰り返し迫られても、ケントは沈黙していた。話すことは何もない、と感じたからである。




