【3】
この国には、問題児の王子が数多いる。
その中でも一番醜聞が多いのは第五王子・ルロメイ王子である。見目と気立ては良いのだが、頭が悪くて運も悪い。やることなすこと、いちいち醜聞、騒動になるのだ。
そんな王子の更生は王族と重臣たちの重要課題だった。
本人のあずかり知らぬところで進められた「僻地修行及び身柄預かり」は、速やかに周辺諸侯に打診されたがこぞって拒否したため、ピアンジュ公爵家に持ち込まれていた。
「マ、マ、マリエラ、王都から続々と早馬が!」
「あらお父さま、動いて大丈夫なのですか?」
寝間着姿の公爵が、杖をつきながら執務室へ転がり込んできた。慌てたマリエラが、そっと父の手をとりソファーに誘って、ブランケットを持ってきて描ける。
「これを、読んでくれ。返書を貰えるまで絶対帰らないと、皆、馬車の中や出来たばかりの宿屋で頑張っている」
はい、とマリエラは落ち着いて紙の束を手に取る。
「……ようは、王都で持て余した問題児を、王都と悪友から引き離したいのね。承知しましたわ」
書状という体裁をとった嘆願書を読んだマリエラは、あっさり引き受けた。
「え、本当に大丈夫なのかい?」
「ええ」
父公爵の不安げな視線を受けて、マリエラはにっこり微笑む。
「お任せください、お父さま」
こうしておよそ十日後——。
銀髪のイケメンが到着してしまった。王国最北端の僻地、ピアンジュ公爵領に。
「なんて田舎なんだ、ここは! ド田舎じゃないか! まったく! 第五王子ルロメイ王子の到着だというのに、村人の出迎えすらないなんて」
馬車から降りるなり、王子の不満たらたらの声が響き渡る。その声を聴いた途端――。
黒い塊が森の方から猛スピードで走ってきた。どどどど、と地面が揺れた気がして王子は思わず足元を見た。
「がう! がうがう!」
「うおお!? な、なんだ!?」
「ジョー! どうしたの、お客さまに牙をむいちゃだめよ。失礼いたしました、殿下」
「ぐあああ!」
ひいい!? と王子は飛び下がった。
「ま、ま、まて……ちょっとまて、この熊、いや、犬?」
「殿下、失礼いたしました。我が家のペットのジョーにございます。娘のマリエラが主に面倒を見ております」
ペット! といったきり、ルロメイ王子は絶句した。
「少し気性が荒いようなのです、申し訳ございませんわ」
と、マリエラも言う。
(い、いや、なんで……魔獣ジャバウォックがこんなところに?)
「いや、まて……ぼくの勘違いかもしれない、確認しなければ」
王子は、蒼褪めた顔のまま、公爵とマリエラに向き合った。
「すまないが、この村に王家の歴史を記した歴史書はあるか?」
はい? と、マリエラと父公爵は目が点になった。女好きで遊び人、王立学院を王族史上最低点で何とか卒業した、醜聞だらけのダメ王子の口から、最も似つかわしくない単語が飛び出したのだ。
「歴史書、ですか? お読みになるのですね?」
「もちろんだよ、公爵」
「でしたらルロメイ王子殿下、我が家の書庫にございます」
「公爵、すぐに案内してくれ!」
がうがう、と牙をむくジョーを軽く撫でて宥めながら、公爵が案内に立つ。その父を、さっとマリエラがサポートする。
「おお、これは美しい」
と、王子が言った瞬間。
「ぐあおぉお!」
ジョーが今までに聞いたことの無いほど盛大に吼えた。
「ど、どうしたの? ダメよ」
「がああ!」
「ひ、ひえっ!」
黒い塊が後ろ足で立ち上がり、前足を振り上げた。
(し、死ぬ!? いや、死にたくない! けど、やばいやつだぞ!)
慌てふためいて飛び上がる王子と、やたら唸るペットを交互に見てマリエラは不思議そうに首を傾げた。




