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EP5:ウィルス

 レポートを開いた真玄たちは、書かれている文章をじっくりと読み始めた。

 内容を簡単にまとめると、以下のようなものとなっている。


 人間の体内でのみ繁殖する、新しいウィルスが発見された。そのウィルスは、人間の感情によって分泌されるホルモンを栄養源として繁殖するという。

 そして、摂取したホルモンの種類により、排泄物が異なる。この排泄物の中に、がん治療に役立つ成分が含まれていることを発見した、とのことだ。


「うーん、難しくて分かんないなぁ」


「要するに、怒ったり泣いたりした時に出てくるものを食べてるウィルスがいて、そのおしっこが役に立つものかもしれないってことだよ」


「えぇ、おしっこって、なんか汚いなぁ」


「それを言ったら、お腹の中のあかちゃんのおしっこはどうなるのさ」


「え、お腹の中のあかちゃんって、おしっこするの?」


「うん、でも全然汚くはないよ」


「へぇ……」


 あまり興味なさそうに太地の話を聞く麻衣をよそに、真玄は「そんなことより」とレポートに書かれている文章を指さした。

 そこには、こんなことが書かれている。


【人間の持つ欲求を満たし、満足感を得て長時間の幸福を感じる時に出されたホルモンを栄養源とした場合、その排泄物は爆発性を有するものになる】


「ば、爆発!? そんな危ないものができるの?」


 爆発性、と聞いて麻衣は思わず大声で言った。それを見て、沙羅はコクリと頷く。


「爆発物、大抵は窒素酸化物。窒素も酸素も、人間の身体にはいっぱいある。実在するかどうかはともかく、理論上は……」


 そこまで言って、沙羅は真玄の方に顔を向ける。


「真玄、まさかこれって……」


「うん、多分、これが『リア充エクスプローダー』の正体だ」


 リア充エクスプローダーの正体、と聞いて太地や麻衣も息を飲む。


「でも真玄、ただ爆発物が出来たからと言って、それだけじゃ爆発、しない」


「この先を読めば分かる。この爆発物を作るホルモンを栄養源とした場合、すぐにそのウィルスは死んでしまう。その時に、熱を放出しながら死ぬ……」


「なるほど、それが、熱源」


「さすがに一匹だと大した熱にならないだろうけど、何万、何億と重なれば、結構な熱量になるっていうことだろう。爆発する前に顔が赤くなるのは、きっとそのせいだ」


 爆発する前は必ず顔が赤くなっていた。真玄は一度も触れたことがないが、恐らくかなりの高温になっていたのだろう。


「うーん、でも正体がわかったところで、僕達にはどうすることもできないんじゃない? 結局、そのウィルスとやらを取り除かないといけないわけだし、僕達にそんなことできないよ?」


「いや、多分、方法、ある。相手がウィルスなら、なんとかなるかもしれない」


「え?」


「ウィルスの研究をしてるなら、特効薬とかワクチンとか、そういうの、研究しているかもしれない」


「じゃあ、この病院内に、その……特効薬があるかもしれない?」


「あくまでも、可能性の話」


 そう言って、沙羅はレポートを閉じた。


「とにかく、もしもリア充エクスプローダーの正体がこれだとすると、大きな進展。あるかは分からないけど、特効薬、探す価値、あると思う」


「よし、じゃあ一階に降りて調べてみよう」


「その前に、このレポート、コピーが欲しい。原本を持ちだすの、まずい。たしか、この部屋に、コピー機、あったはず」


 そう言うと、沙羅はレポートを片手に資料室の反対側の隅に向かった。そこにあるコピー機の電源を入れると、ブーンという音と共にコピー機が起動する。


「……全部読んでないから、とりあえず、全部コピー。真玄たちは、先に行ってて」


「わかった、じゃあ先に一階に降りてるよ」


 コピーを取り始める沙羅を置いて、真玄たちは資料室を後にした。



 一階は二階よりもさらに病室が少なく、診察室や購買などの施設がメインとなる。ほとんどの部屋で鍵が掛かっており、調べられる場所はほとんど無かった。

 診察室を見た麻衣の話によると、診察室の奥にも部屋があるとのことだ。しかし、ドアは閉められており、詳しいことはわからない。


「もう少しちゃんと調べてくれば良かったのに」


「うるさいなぁ、そんな時間無かったのよ」


 太地と麻衣が言い合う間にも、真玄はどうにか部屋に入れないかと辺りを調べる。どこかに鍵が無いかとも思ったが、さすがに見つからなかった。


「ま、普通大事な鍵を一般人が見つかるような場所に保管しておくわけがないよね」


「そ、それはそうだけど、ほら、こういう世界だからさ」


「それもそうか。元の世界で病院の中うろうろしてたら、不審者だしね」


「なんだかやりづらい……」


 太地に茶化されながらも、次々と部屋を調べていく。しかし、ほとんど入れそうな部屋は無かった。

 最後に残ったのは、奥にある手術室だけだ。向かう途中の廊下では急に照明が少なくなり、辺りが一気に暗くなる。窓もなく、あるのは非常灯や消火栓の赤いランプ暗いだ。


「ねぇ、お化けとか、出ないかなぁ」


「どうかなぁ? 病院って、何人も死んでるから、もしかしたら……」


「ひぃ、た、太地、そういうのやめてくれない?」


 通路には三人の声と、足音が響く。コツコツという足音が、まるで自分の足音ではないかのように聞こえる。

 いくつもの部屋を通りすぎ、曲がり角を曲がった奥に、大きな扉が見えた。その上には、大きな表示灯が見える。誰かが手術をしている間、そのランプが点灯するのだろう。


「ん、誰かいる?」


 扉の下には、二人分の人影が見える。見た感じ、男と女だろうか。近づくと、徐々にその正体が明らかになってくる。


「やっぱりここまで来たね」


「ふっふーん、かわいいクロミナちゃんたちには、君達の行動なんてお見通しなのよね」


 腰に手を当てた、青いフードの上着を着た少年と、地面まで着く長い髪の少女。人影の正体は、アマミヤとクロミナだった。


「アマミヤにクロミナか。お前たちがいるっていうことは……」


「さぁ、どうだろうね。でも、マスターからこの先は通すなと言われているんだ。だから、大人しく帰ってくれないかな」


 アマミヤは「それでも近づくなら」と両足を開いて構える。真玄は二十メートルほど離れたところで立ち止まると、アマミヤに呼びかけた。


「なあ、お前たち案内人って、その、マスターに人質を取られているんだろ? だったら、俺たちと協力しないか?」


「……仮に人質がいるとしたら、マスターには逆らえない。そりゃそうさ、仲間が殺されるかもしれないんだから。君達も、この前のことでわかっただろう? マスターは、いつでも君達を殺せる」


「わかってる。でも……」


「それに、どうやってマスターを倒す気なんだい? 君達はマスターのことを知らないし、僕達も教える気はないよ」


「それは……」


 アマミヤの質問に、真玄は俯きながら言葉を詰まらせる。それを見て、アマミヤは呆れた様子でため息をついた。


「はぁ……シロサキマクロ、何も考えずに行動するのは、君の悪い癖だ。少しは計画を立てて行動したらどうだい?」


 すると、太地が真玄の隣に立ってアマミヤに言った。


「フフフ、アマミヤ、マクロ君は確かにせっかちで無計画だけどさ、行動力だけは凄いんだよ。僕達も、マクロ君がいなきゃ、こんなことしていなかっただろうしね」


「……確かに、彼の行動力は大したものだ。それに、彼に付いてきている君達もね。でも、そろそろ終わりにしようか。僕達だって、仕事なんだ」


「まだまだ終わりじゃないよ。いや、もうすぐ終わるんだから、こっちだって邪魔はされたくないよ」


「そう……じゃあ、仕方ないね」


 アマミヤが目を閉じると、周囲に黒い影が現れる。そして、その影が分身していき、四体まで増えた。


「ダミードール、あいつらを捕まえろ」


 アマミヤが指示をすると、その影が真玄と太地へと向かっていく。真玄はなんとか影をかわそうとするが、さすがに二対一では相手にならず、あっさりと取り押さえられてしまった。


「え、ちょ、ま、マクロン? た、太地まで!?」


 何が起こっているか分からず、麻衣は真玄たちが影に抑えられるのをただ見ていることしかできない。すると、後ろから足音が聞こえた。


「……!? 真玄、太地、何があった!?」


 コピーを取り終えた沙羅が、慌てて真玄のそばに駆け寄る。しかしその時、黒いロープのようなものが沙羅の身体に巻き付いた。


「……!? これは……髪の毛!?」


 沙羅が髪の毛の出所を探る。すると、腕を組んだクロミナが、見下すような視線でこちらを見ていた。


「ふっふーん、私がただ趣味で髪を伸ばしていると思った? 私だって、ナビゲーターだからこれくらいはできるのよ」


「え、ちょ、ちょっとクロミナちゃん? なんでこんなひどいことを……」


「さっきも言ったじゃない。マスターには逆らえないって。まあでも、アマミヤみたいに荒っぽいことは女の子にはできないからね。これで大人しくしてもらうわよ! ヘアーウィップ!」


 クロミナは残った髪の一部を、麻衣に向けて飛ばす。麻衣は動くことができず、なすすべもなく捕まってしまった。


「きゃっ! ちょ、クロミナちゃん、やめてよもう!」


「はいはい、ということで、今日のところはおとなしく帰ってね」


 結局真玄たちは、アマミヤのダミードールとクロミナの髪の毛で病院から追い出されてしまった。

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