表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーティを追放された俺、実は異世界帰りの魔王の愛犬だった~凶悪な魔物に懐かれ、世間は大騒ぎ~  作者: ささかま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/4

3話 地球のお買い物

目を覚ますと、胸の上が重かった。

呼吸に合わせて柔らかな髪が頬へ触れる。

視線を落とすと、魔王様が俺へ抱きついたまま眠っていた。


昨夜、布団を半分ずつ使うことになった。

そのはずなのに、魔王様は完全に俺の側へ寄っている。

腕は首へ回され、片脚まで俺の腹へ乗っていた。



「……魔王様」



小さく呼んでも反応はない。

代わりに、抱きつく力が少し強くなった。


犬の姿だった頃は、こうして同じ寝床で眠ることも多かった。

あの頃なら何も思わなかったはずなのに、今は俺も魔王様も人間の姿をしている。


起こさずに抜け出そうと、腕をそっと持ち上げる。

魔王様は目を閉じたまま、俺の胸へ頬を擦りつけた。



「ワンちゃん、どこ行くの……」



寝ぼけた声と一緒に、甘えるような匂いが濃くなる。

俺は動きを止めるしかなかった。



「朝食を作ります」


「お肉……」


「朝から肉ですか?」


「朝でも、お肉はお肉だよ」



魔王様は目を開けると、俺の胸へ顎を乗せた。

寝起きにもかかわらず、肉の話をした途端に瞳が輝いている。


冷蔵庫に残っている肉は昨夜すべて食べた。

そう伝えると、魔王様は世界の終わりを迎えたような顔になった。



「卵ならあります」


「卵にお肉を入れればいいんじゃない?」


「入れる肉がありません」


「じゃあ買ってきて」


「先に今あるものを食べます」



俺が身体を起こすと、魔王様は仕方なく腕を離した。

布団の上へ座り、乱れた髪のまま俺の動きを見つめている。


卵を焼き、残っていたパンと一緒に机へ並べた。

魔王様は卵焼きを箸で持ち上げ、匂いを確かめるように鼻へ近づけた。



「お肉の匂いがしない」


「入れていませんから」


「朝から野菜だけ食べている気分」


「卵は野菜ではありません」



口では不満を言いながら、魔王様は一口食べた。

頬が緩み、すぐに次の一切れへ箸が伸びる。


全部食べ終えた頃には、皿を持ち上げて残っていないか確認していた。



「おかわり」


「もうありません」


「ワンちゃんは食べないの?」


「俺の分はあります」


「半分くれたら撫でてあげる」



昨日と同じ取引を持ちかけられた。

断るつもりだったのに、気づけば自分の皿を差し出している。


魔王様は満足そうに卵焼きを食べると、約束どおり俺の頭へ手を伸ばした。

耳の後ろを掻くように撫でられ、身体から力が抜ける。



「朝からよい子だね」


「食べ物で釣られているだけな気がします」


「それがワンちゃんでしょ?」



否定しきれなかった。

犬だった頃から、肉と撫でる手には弱い。


食器を片づけている間、魔王様は部屋の中を探検し始めた。

棚を開け、机の引き出しを覗き、最後にはテレビのリモコンを手に取る。


適当にボタンを押すと、消えていた画面が急に明るくなった。

魔王様は驚き、俺の背後へ素早く隠れる。



「箱の中に人がいる」


「映像です」


「閉じ込められてるんじゃないの?」


「違います」



画面では朝の情報番組が流れていた。

司会者が天気を伝え、その横には各地のダンジョン周辺の警戒情報が表示されている。


魔王様は俺の背後から顔を出し、画面へ近づいた。

裏側まで覗き込み、人が隠れていないことを確認している。



「どうしてこの人たちは箱の中で喋れるの?」


「遠くで撮ったものを映しています」


「魔法?」


「地球では機械と呼びます」


「魔法より難しいね」



今度はリモコンのボタンを押し続け、次々と番組を切り替える。

料理番組になると指を止め、肉料理が映った瞬間に画面へ釘づけになった。



「これを作ろう」


「材料がありません」


「買いに行こう」


「服はそのままで大丈夫ですか?」



魔王様は自分の姿を見下ろした。

昨日から着ている服と、小さな鞄に入っていた着替えが一組だけ。

このまま一緒に暮らすなら、日用品も服も足りない。



「ワンちゃんが選んで」


「俺は子供の服に詳しくありません」


「似合うって言ってくれれば何でもいいよ」



そう言われると断れない。

朝食を終えた俺たちは、近所の商業施設へ向かうことになった。


外へ出ると、魔王様は見るものすべてに足を止めた。

道路を走る車を目で追い、自動ドアが開けば何度も出入りしようとする。


横断歩道では、信号が赤から青へ変わるのをじっと眺めていた。



「この光が命令してるの?」


「青なら渡っていいという合図です」


「赤でも誰もいなければ渡れるよね?」


「渡らないでください」


「地球の決まりは細かいね」



魔王様は不満そうに頬を膨らませた。

それでも俺が止まると、隣で大人しく待っている。


通りに並ぶ自動販売機を見つけると、再び足が止まった。

透明な窓の奥に並ぶ飲み物を見て、瞳が輝く。



「宝箱だ」


「違います」


「お金を入れると中身が出るんでしょ?」


「そうですが、宝箱ではありません」


「好きなものを選べる宝箱だね」



否定しても聞く気はないらしい。

魔王様は俺から硬貨を受け取り、目を輝かせながらボタンを押した。


下の取り出し口へ缶が落ちる。

大きな音に肩を跳ねさせたあと、恐る恐る手を入れた。



「出てきた」


「出てきます」


「もう一回やっていい?」


「一日一本です」



残念そうな顔をされたが、これ以上買えば全部試そうとするだろう。

缶を開けると甘い匂いが広がり、魔王様は一口飲んで目を丸くした。



「甘い」


「飲みすぎると身体に悪いです」


「魔王に毒は効かないよ」


「今は人間の身体でしょう」


「ワンちゃんが心配してくれるなら、一本にする」



嬉しそうに笑われ、俺は何も言えなくなった。


商業施設では、魔王様が次々と服を手に取った。

派手な柄には興味を示さず、黒を基調にした服ばかり選ぶところは魔王だった頃と変わらない。


試着室から出てきた魔王様は、黒いワンピースの裾を摘まんで一回転した。



「どう?」


「似合っています」


「本当?」


「はい。

魔王様らしいです」



満足そうな匂いが広がった。

その一着に加え、普段着と寝間着、下着や日用品まで買い揃える。


荷物はすべて俺が持った。

魔王様は新しい服の入った袋だけを大事そうに抱えている。


帰り道、さっきまで楽しそうに歩いていた魔王様が突然足を止めた。

表情から笑みが消え、ゆっくりと周囲を見回す。



「魔王様?」



返事はない。

魔王様は目を閉じ、鼻ではなく魔力を探るように意識を集中させた。


俺も呼吸を止め、街に混ざる無数の匂いを分けていく。

排気ガス、食べ物、人間、地球の魔力。

その奥に、一瞬だけ懐かしい匂いが混ざった。


異世界の土。

濃い魔力。

魔王城の周辺で何度も嗅いだものに近い。


俺は荷物を抱えたまま、匂いの流れた方向へ走ろうとした。



「追います」


「待って」



魔王様が俺の袖を掴んだ。

もう一度鼻を動かしても、異世界の匂いは消えている。


人混みの中に、それらしい姿は見つからなかった。



「もう遅いね」



魔王様の声には、わずかな寂しさが混じっていた。

それでも、昨日までとは違う。


魔王様以外にも、異世界から地球へ来た何かがいる。

それだけは、俺の鼻が確かに捉えていた。



「次は逃しません」



魔王様は俺の袖を握ったまま、小さく頷いた。



「うん。

一緒に見つけよう、ワンちゃん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ