「同じコミュニティのほうが厳しかったりすることもままあるよね」という過去回想
その神様というのは誰かからもしくは何かから生まれたというわけでなく、はじめからそこに存在していたらしい。
そもそも、本当に神様なのかどうかもよく分かっていないらしい。
それでも民を作ったり世に豊穣をもたらしたり、人知を超えた力をもっていたことは確かだったらしい。それに供物的なものを与えれば大概の願い事を叶えてくれていたから、崇めるに越したことはないという扱いだったらしい。
ただし、人格……というか神格というのだろうか? ともかく、性格のようなものに難があったらしい。
喩えるなら、聞き分けのないお子様、というようなものだったらしい。
最初は手近な供物を捧げていれば特に問題なく豊穣がもたらされたらしい。
それが段々と舌が肥えたのか供物を受け付けなくなってしまったらしい。
そのおかげで、空は割れるわ、大地はとろけるわ、海は砕けるわ。
世界は荒廃やら崩壊やらどころの騒ぎではなくなってしまったらしい。
さすがにそのままにしていられないので、教育係的な民が神様を連れて供物探しの旅に出ることになったらしい。
口に合う供物が見つかるまで、実に、実に様々な世界を渡り歩いたらしい。そしてつい最近になって漸くに、漸くに口に合う供物を見つけたらしい。
その世界の生き物のにはときおり非常に美味な内臓を持つ者がいたらしい。
ただし、どの個体でも良いというわけではなかったらしい。
しかも、生きたままの内臓でないと口に合わなかったらしい。
しかし、生きたままの内臓を複製するくらいの機器は普通に携帯していたらしい。
だから、生きたままの内臓を提供する個体の血統を保護することにしたらしい。
生きたままの内臓を提供するかわりに豊穣の一部を分け与える。
そういう契約をその血統の個体としたらしい。
定期的に内臓を提供するだけで神様の恩寵を受けられるなんて破格すぎる話らしい。
それなのに、どういうわけか定期的に提供を拒否する個体が現れるらしい。
どうも、機器の仕様で若干の感覚の共有が起こっているらしい。
それどころか、複製元の分身に近いものになることもあったらしい。
つまるところ、内臓を食いちぎられる感覚が複製元の個体にも伝わってしまうらしい。
そうはいっても、複製元の内臓が実際に食いちぎられるわけではないらしい。
そもそも、内臓自体には痛覚がないはずだから生命維持に支障はまったくないらしい。
おおよその個体達は多少の苦しみがあっても、恩寵のために喜んで内臓を提供しているらしい。それどころか、内臓を提供しない別個体について制裁のようなことをすすんではじめるらしい。教育係としては管理の手間が省けて非常に、非常に助かっているらしい。
ただし、機器の不調を複製元の不調と勘違いし、不必要に厳しくしすぎる例もあるらしい。
教育係としては複製元に不要なストレスを与えるのはいかがなものかと考えているらしい。というのも、ストレスで味が落ちるということもなくはない話らしい。
ひとまず今回、機器の不具合の修繕は完全になされたらしい。それならば、今度は不要なストレスを軽減する必要があるらしい。
そのためには。
「そのためには是非とも坂口様に──おや?」
「……」
目が覚めるとベッドサイドで湯浅さんがガサガサした笑みを浮かべていた。
いつの間にか生物なのか機械なのか分からない部屋ではなく、諸々から血を吹き出したときに居た病室のような場所に移動していた。しかも右腕にはどう見てもチューブがケーブルにしか見えない点滴が繋がっていた。実際に点滴だったのかは不確かだけれども、チューブ以外は点滴の形をしていた。
「お目覚めになりましたか。傷口のほうは塞いだのでもう痛みませんよね?」
「……ええ」
「それは実に結構です。さてさて、ワタクシとアノカタのあらましは今こちらの点滴で説明したしだいでございます」
点滴で説明するってなんだよ?
朦朧とする頭に訳の分からない情報を流されたおかげで、そんな言葉を出す気力は残っていなかった。
「奥様にはまだ知らせていないのですが、坂口様は以前あの複製品を素晴らしい品質で管理されていたと、恵叶さんから伺っています」
「……」
ただし、かつての同居人を餌としか見ていない言葉に苛立つ気力は残っていた。
「……たしかに一緒に暮らしてはいましたよ。ただ、内臓の模造品は自立していたので特にこちらでなにか世話を焼いていたわけではありません」
「なるほど。やはり、恵叶さんは複製品とのつながりが強いほうだったのですね。意識をかなり共有しているというお話を幼い頃におっしゃっていましたし」
「……」
それに、恋人を幼いうちから餌扱いしてきた言葉に憤る気力も。
「そう考えると、内臓を食い荒らされる感覚を耐えてまで傷つける相手を始末することを選んだのですから、恵叶さんにとって坂口様は特別な存在だったのでしょうね」
あとは、自分もその一端に関わってしまったという罪悪感も。
腿の動脈は撃ち抜かれていたっぽかったのだし、いっそのこと失血でどうにかなっていれば──
「ああ、シオンさん! よかったわちゃんと起きてくれて!!」
「!?」
「本当に心配したんだから!」
──そんなモノローグに浸る暇もなく、仕切りカーテンを勢いよく開けて現れた会長に点滴で痺れた手を強く握られた。




