「一気にまくし立てる系の話を全部聞き逃さずに理解できる人は結構な特殊能力者だと思う」という話
無言で歩く古めかしい屋敷の廊下はやはり必要以上に長く感じるものなのだと思う。それが、あったばかりのエビフライとミイラが雑に合わさったような人ならばなおさらだ。
「ところで、坂口様。貴女には私がどのように見えますでしょうか?」
「え?」
大いに失礼な胸の内を見透かされたかのような質問に、あからさまに肩が跳ねてしまったことを覚えている。今思えば「丁寧な方」だとか、「礼儀正しい方」だとかの人柄的なことを答えるのが無難だったのかもしれない。
「えーと……、失礼かとは存じますがなんだかエビフライとミイラが合わさったようなかんじに見えます」
ただし、私は何を思ったのかバカ正直に外見のことを口にしてしまった。われながら、失礼かと存じますがという前置きで許される範囲を超えていた質問だと思う。それでも、湯浅さんは実に楽しそうに黒い穴にしかみえない目を細めガサガサした口角を上げていた。
「はっはっは。いやはや、そうだろうなとは思いましたが、やはりそうでしたか。これはじつに興味深い」
「えーと」
「実はですね。ワタクシ、本来ならば成人男性に見えているはずなんですよ」
「……はい?」
「それも、あなた方に見苦しくないよう俳優の方に似た」
言っている意味はさっぱり分からなかった。たしかに声は男性っぽく聞こえたけれど、あんな特殊な見た目の俳優は見たことがなかった。
「恵叶さんから話をきいたときに、もしや、と思いましたが、本当にそうだったとは」
感慨深そうにも見える表情がカサカサと音を立てながら何度も頷いた。何の説明もなしに勝手に納得姿を見ている家に、屋敷に着いてからの諸々で抱いていた不安のものが徐々に苛立ちへと変わっていった。
「あの、さっきから一体なんの話をしているのかまったく分かりかねるのですが。私には教えていただけないような話なら、半端に話題にださないほうが良いのではないですか?」
気がつけばかなり嫌みっぽい物言いになっていた。今思えば完全な八つ当たりだ。
「おや。これは大変失礼いたしました。たしかに、坂口様のおっしゃるとおりですね」
それでも、湯浅さんは不快そうにすることもなく深々と頭を下げた。その姿を見て苛立ちの奥から罪悪感が沸いてきたのを覚えている。少なくとも人間っぽい形をした決して頭を下げることがない相手よりもずっと話が通じそうだと感じた。
「いえ……、こちらこそ言葉が過ぎました。どうか頭をあげてください」
ただし、ガサガサした頭がゆっくりともたげられたときに、その感想が若干ずれていたということを痛感させられたのだった。
「それはそれはありがとうございます。奥様には余計なことを話すなと申しつけられているのですが、ワタクシの姿が見える方を蔑ろにするのはよくないですものね。それに、いくら待ってもワタクシの姿が見えない奥様よりも貴女のほうに付きたいというのが本当のところです。なにしろ奥様ときたらアノ縺昴l縺ッ縺昴l縺ッ縺ゅj縺後→縺・#縺悶>縺セ縺吶ょ・・讒倥↓縺ッ菴呵ィ医↑縺繧ッ繧キ縺ョ蟋ソ縺瑚ヲ九∴縺ェ縺・・・讒倥h繧翫b雋エ螂ウ縺ョ縺サ縺・↓莉倥″縺溘>縺ィ縺・≧縺ョ縺梧悽蠖薙・。それを奥様は恵叶さんのせいだとお考えですが、本当はすべて奥様の教育方針がまちがっているからなのですよ。このままだと恵叶さんの負担も大きい、奥様への恩恵も少ないまま、アノカタ薙→縺ッ縺溘@縺九〒縺ッ縺ゅk縺ョ縺ァ縺吶ゅ>縺医・縲√Ρ繧ソ繧ッ繧キ縺ッ縺ゅ¥縺セ縺ァ繧ゅ♀菴ソ縺・・繧ゅ・縺ァ縺ゅ▲縺ヲ謚陦楢・〒縺ッ縺ェ縺それに、そうだ、そうでした、貴女は悲鳴もお持ちでしたものね。アレを自力で見つけられるのは偶然ではなく必然なのでしょう。なにせ、アノカタの次の教育にはあれが必須なのですから。それを奥様は見つけられなかった。でしたら、次のッ雋エ螂ウ縺ァ縺・∪繝ッ繧ソ繧ッ繧キ縺檎筏縺励※縺・k縺薙→繧貞・縺ヲ逅・ァ」縺吶k縺薙→縺ッ髮」縺励>縺ァ縺励g縺・°繧峨√Ρ繧ソ繧ッ繧キ縺ィ縺励※縺ッ縺ゥ縺ェ縺溘r蜆ェ蜈医☆縺ケ縺阪°縺ッ縺九j縺九・縺ヲ縺・k縺ョ縺ァ縺吶ゅ◆縺縺励√d縺ッ繧頑ャ。縺ョと思うのですが、貴女はいかがお考えでしょうか? 今この時点の率直な感想で構いませんのでお聞かせ願えませんか?」
相変わらず曖昧な記憶のなかでも特に曖昧……といよりも、視覚的にも聴覚的にもノイズが酷すぎてもはや記憶と呼んで良いのかさえも分からない。ただ、最後に首を傾げていたので何か意見を求められていたことはたしかだったと思う。とはいっても、何に対してのどんな意見を求めらられていたかはさっぱりだった。
なにかあったら彼に相談するのもいいと思うよ
そんななか、恵叶の声がやけにはっきりと頭の中に響いた。
どのみち何を言っているか分からないなら、ひとまずこちらの本心だけでも伝えておくのも悪手ではない気がした。
「……私はただ恵叶と穏やかに過ごしていきたいだけなんです」
「なるほど。坂口様だけでなく恵叶さんもご一緒に、というこですか」
「はい」
「それは、実に、じつに結構ですね」
回答が正しかったのかは未だに分からないけれど、ミイラのような顔は穏やかな表情を浮かべていたように思う。
「ならやはり螂ウ縺ョ縺サ縺・↓莉倥¥しましょう。今日のお夕食は残さず召し上がってくださいね」
「ありがとうございます。ごちそうになります」
かろうじて聞き取れた言葉にお礼を言ったところで、覚えのある襖が見えてきた。
「奥様、坂口様をお連れいたしました」
「ありがとう、湯浅。さ、シオンさんどうぞ中へ」
「……失礼いたします」
促されて襖を開けると、会長が懐石料理のようなものが用意されたテーブルについて微笑んでいた。
恵叶の姿は客間のどこにも見当たらなかった。




