↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生皇后 藤原彰子 〜 欠けることのない望月の世は私が創る 〜  作者: 条文小説


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/111

九十八 班昭、女子教育の逆襲

挿絵(By みてみん)


 宮中で、古参女房が「女は控えめで従順こそ美徳」と若手を黙らせようとする。彰子は後漢の才女・班昭が女性の心得を説いた『女誡』の従順さを表面的には受け取りつつ、「学ばぬ女でよいとは書いていない」と切り返す。読み書き・記録・儀礼・交渉を女房教育に組み込み、従順マウントを教育改革に変える。表向きは古典に従っているため、反対派は正面から批判できない。彰子の得意技、保守の皮をかぶった改革話。

 人は、「古い教え」を持ち出す時、だいたい二種類に分かれます。


 ひとつは、本当にその教えの中身を大事にしている人。


 もうひとつは、その教えを使って、いま目の前の相手を黙らせたい人です。


 前世でもそうでした。


「昔からそうだから」


「それが常識だから」


「出しゃばらない方がいい」


「女の子なんだから」


「若いんだから、まず従いなさい」


 本当に古い教えを読む人は、もう少し丁寧です。書かれていることと、勝手に足したことを分ける。どこまでが時代の制約で、どこからが人間の都合かを考える。でも、権威だけ借りたい人は、そこを全部混ぜます。


 「控えめであれ」と書いてある。だから、黙っていろ。「従順であれ」とある。だから、問うな。「慎みを守れ」とある。だから、覚えなくてよい。学ばなくてよい。


 ……どこにもそんなこと、書いていないでしょう。


 班昭(はんしょう)の『女誡(じょかい)』だって、私は丸ごとありがたがるつもりはありません。もちろん、時代の色は濃い。女の慎み、夫への従い、柔らかな振る舞い。そういうものが並んでいます。


 でも、だからといって、学ばぬ女でよいなどと書いてあるわけではありません。


 むしろ逆です。読む。知る。礼をわきまえる。言葉を選ぶ。振舞を整える。あれは要するに、女が何も知らぬまま座っていればよい、という本ではなく、女もまた教えられ、育てられ、学ぶべきだという話でもあります。


 そこを都合よく切り取って、若い女房を黙らせるのは、たいへん浅いのではないでしょうか。


 その日の藤壺は、朝から妙に静かでした。しんとしている、というより、若い者が口を引っ込めた時の静けさです。


 若菜が香炉の灰をならしながら、何度か遠くを気にしています。有子は控えの紙を整えているが、明らかに不機嫌な時の指先の速さでした。春枝は紙箱を抱えたまま、「今日は紙よりも、口の閉じ方が多うございます」と、珍しくそのままのことを言った。


 小少将は扇を使いながら、露骨に嫌そうな顔を上品に隠す努力を、半分でやめている。澄子は灯台の金具を磨きつつ、部屋の空気が縮こまっている理由を静かに拾っているようでした。


 そして紫式部はといえば、几帳の陰にすっかり気配を殺し、手元の草子へ恐ろしいほどの速さで筆を滑らせていました。古の書を読んだふりをして権威を振りかざす人間の浅はかさを、決して色褪せない物語の毒として、紙の上に冷ややかに定着させている背中でした


 つまり、誰かがまた「若い者は黙っていなさい」をやりました。


「姫様」


 赤染衛門が来た時点で、はい、そのとおりでしょうとも、となりました。


「少し、古参の言い分が」


「誰の」


「典侍の局に近い、滝子にございます」


 滝子。長く仕える古参女房です。礼も知っている。言葉も丁寧。失敗も少ない。そして、若い者が遠慮なく意見を言うのを、あまり好まない。


 悪い人ではありません。ただ、秩序を守ることと、若い者を黙らせることを、少し混ぜています。


「何を言ったの」


 赤染衛門が少し眉を寄せました。


「若い女房たちが、贈答の順や記録の取り方について相談しておりましたところ」


「ええ」


「“女はあまり前へ出て理を言うものではありません”と」


「はい」


「“控えめで従順こそ美徳にございます”と」


「はい」


「“そのように、覚えたことをすぐ口へ出すのは、雅ではございません”とも」


「だいぶ来ていますね」


「ええ」


「誰に」


「鈴や千草、それから夕霧にまで」


「なるほど」


「若い者ども、だいぶ口が重うなっております」


 よろしくない。前世でもありました。若い人が手順を見直そうとする。記録のやり方を工夫する。その時に出てくるのが、


「生意気」


「出しゃばり」


「まず従いなさい」


 です。つまり、中身で勝てない時に、態度の話へずらす。若い者の意見が正しいかどうかではなく、若い者が意見を言ったこと自体を悪いことにする。かなり便利で、かなり卑怯です。


 常盤が、柱の陰からひょこりと顔を出しました。


「班昭めいてまいりました」


「嬉しそうに言わない」


「申し訳ございません。でも、古き掟をまといながら、その実は新しき風を吹き込む……姫君のお気に召す筋書きですので。」


 ええ、嫌いではありません。正面から「古い教えは間違っています」と言っても、人は構えます。でも、「いえ、その古い教え、あなたの読み方が雑です」なら、かなり戦えます。


「まず、若い者たちを」


 鈴、千草、夕霧を呼ぶと、案の定、皆少し縮こまっていました。


「何を言われましたか」


 鈴が、おずおずと口を開きます。


「その……あまり、先のことまで申さぬ方がよいと」


「何を申したの」


「文の受け渡しを、札で分けた方が分かりやすいかと」


「ええ」


「それを、“若い童が仕切るようなことではない”と」


 なるほど。


 千草は、


「贈答の順で、前の例を紙に残した方が、と」


「ええ」


「でも、“女は黙って覚えるもの”と」


 夕霧は、少し困ったように言いました。


「返歌の控えを、似た文句ごとに分けて見た方が、後の若い者にも」


「ええ」


「ですが、“あまり知恵を見せるのは慎みがない”と」


 はい、見事に全部、実務提案ですね。そして、見事に全部、態度論で潰されている。私は少し息をつきました。


「あなたたち」


 三人がびくっとする。


「それで、口をつぐみましたか」


 沈黙。


「はい」


 と千草が小さく言った。


「どうして」


「……古参の仰せでございますので」


「ええ」


「女は控えめであるべき、と言われますと」


「……」


「出すぎたのかと」


 そこですよね。正しさそのものではなく、


「女らしくない」


「慎みがない」


「従順ではない」


 という印を押されると、人は中身まで引っ込めます。だから、この印の押し方は危険なのです。


「よろしい」


 私は頷きました。


「では、滝子を呼びましょう」


 滝子は、呼ばれてもまったく慌てぬ顔で来ました。こういう人は、悪意でやっているわけではないぶん。自分が正しいと思っています。


「滝子」


「はい、姫様」


「若い者たちに、控えめで従順こそ美徳と申したそうですね」


「恐れながら」


 と滝子は落ち着いて答えました。


「若い者があまり理を先に立てますと、場が乱れますれば」


「なるほど」


「女は、まず慎み、従い、黙して学ぶがよろしうございます」


「そうですか」


 私は少し首をかしげました。


「それは、どの書にございます?」


 滝子のまぶたが、わずかに動く。


「……女誡などにも、その心は」


 はい、来ました。ありがとうございます。待っていました。


「班昭の『女誡』ですね」


「はい」


「では聞きます」


 滝子が姿勢を正す。


「そこに、“学ばぬ女でよい”と書いてありますか」


「……」


「“読み書きを覚えるな”と」


「……」


「“記録を取るな”と」


「……」


「“礼を知らなくてよい”と」


「……」


 場がしんと静まりました。小少将が、扇の陰でごくわずかに笑う。完全に「そこですわ」の顔です。


 私は静かに続けました。


「従順さを表面的に取るのは簡単です」


「……」


「でも、班昭は、何も知らぬ女であれとは言っていない」


「……」


「むしろ、教え、学び、礼を知り、ことばとふるまいを整えよと言っている」


「……」


「それをどうして、“若い者は黙っていろ”に化けさせるのですか」


 滝子は、初めて少しだけ言葉に詰まりました。よろしい。入口としては悪くありません。


「わたくしは、ただ」


 滝子が慎重に言う。


「出すぎた知恵が、女の柔らかさを損なうことを」


「出すぎた知恵、ですか」


 私は繰り返しました。


「では、鈴の札分けは無用でしたか」


「……」


「千草の順書きは乱れを呼びますか」


「……」


「夕霧の控えの分類は、慎みを損ないますか」


「……」


 滝子は答えられない。だって全部、場をよくする具体策です。気に入らないのは、中身ではありません。若い者が“考えて口にした”ことです。


「滝子」


 私は少し声を和らげました。


「あなたが守りたいのは、秩序でしょう」


「はい」


「それ自体は悪くありません」


「……」


「でも」


 私は続けます。


「秩序とは、若い者の知恵を黙らせることではありません」


「……」


「使える知恵を、場の形へ入れることです」


「……」


 若菜が、そこでようやく少し安心した顔をしました。若菜は、若い者がしゅんとするのが本当につらいのでしょう。


 前世でもそうでした。組織を守る、と言いながら、実際には若い改善提案を止めるだけの人がいる。でも、秩序とは停滞ではありません。引き継げる形へ整えることです。


「班昭に従うなら」


 私は言いました。


「なおさら教育が要ります」


 滝子が少し顔を上げる。


「教育」


「ええ」


「読み書き」


「記録」


「儀礼」


「交渉」


「これらを若い女房へ教えなければ」


「……」


「何をもって“よく仕える女”とするのです」


「……」


 ここです。従順を言うなら、まず能力を育てなさい。能力もないまま黙っていろ、は、ただ便利に従わせたいだけです。


 常盤が後ろで、小声に言いました。


「古き掟をまといながら、その実は新しき風を吹き込む」


「静かに」


「でも、かなりお見事で」


「広めない」


「難しゅうございます」


 では、実際に形にします。


「衛門」


「はい」


「女房の学びの覚を作りましょう」


 赤染衛門が、やはり来ましたね、という顔をする。ええ、来ます。こういうのは理念で終わらせると、また“慎み”のひとことで潰されます。


「題は」


「……“女房たしなみの習ひ覚”」


「たいへん穏やこうございます」


“女子教育改革案”では雅が死にます。私は紙を広げて書きました。


 女房たしなみの習ひ覚


 一、読み書き。文を正確に読み、書き、控える

 一、記録。贈答・返歌・順序・例を紙に残す

 一、儀礼。場に応じた礼、順、ことばを学ぶ

 一、交渉。人に物を頼む時、断る時、つなぐ時の言い回しを覚える

 一、見合わせ。自分の知恵を勝手に押し出さず、場に合う形へ整えて出す

 一、引き継ぎ。覚えたことを、自分で抱え込まず次へ渡す


 滝子がその紙を見て、わずかに目を細めました。ええ、気づきましたね。これ全部、真正面から反対しにくいでしょう。


 なぜなら、表向きはぜんぶ「女房のたしなみ」だからです。慎みを捨てろとも、女が男のように振る舞えとも言っていない。ただ、慎みある女房であるためには能力が要ると言っているだけ。


 その通りなのですから、文句のつけようがない。


「滝子」


「はい」


「あなたは古参です」


「……」


「ならば、若い者を黙らせるのでなく、形にして渡しなさい」


「……形に」


「ええ。鈴の札分けは、あなたが見て整えればよい」


「……」


「千草の順書きも、前例に照らして直せばよい」


「……」


「夕霧の分類も、使える形へして残せばよい」


「……」


「それが古参の役目です」


「……はい」


 よろしい。逃げ道を作ってあげるのも大事です。滝子のような人は、「自分が間違っていた」と面前で折るより、「自分こそ整理する役だったのだ」と置き直した方が変わりやすい。


 そして、若い者にはちゃんと役を与えます。


 鈴には、伝令札の分類と受け渡し記録。千草には、贈答順の控え作り。夕霧には、返歌の文句ごとの整理。


 若菜には、言い回しのやわらげ方。有子には、全体の記録運用。春枝は当然、紙の形式に異様な熱意を見せ始めた。…あなたはもう止めません。


「春枝」


「はい」


「紙の大きさ、折り方、用途別に見本を作れる?」


「喜んで」


「紙が生き生きしていますね」


 と有子。


「紙は常に生きております」


「そうですか」


 場に少し笑いが戻る。よろしい。改革はだいたい、少し笑える形で入れた方が根づきます。


 その日の午後から、小さな学びの場が始まりました。


 鈴が、札の色分けと受け渡しの順を説明する。最初はおそるおそる。でも、自分の提案が「童の出すぎ」ではなく「役」として扱われた途端、声が変わる。


「こちらは返りの要るもの」


「こちらは受け渡しのみ」


「急ぎはこの印を」


 有子が頷く。


「よろしいですね」


 鈴の顔が少し明るくなる。よかった。


 千草は贈答順の控えをまとめていました。「誰が先か」で角が立ちやすい場面を、前例と理由つきで残す。


 滝子がそれを見て、「この場合、家格だけでなく先触れの有無も書き添えなさい」と静かに言う。


 早いですね。ちゃんと“止める人”から“整える人”へ動いています。


 夕霧は返歌の文句を分類しながら、


「これはやわらかいようで断っております」


「こちらは待たせる“いずれ”」


 と説明する。若い女房たちが、目を丸くして聞いている。


 「すごい」と明子が漏らすと、夕霧は少し照れながらも、「いえ、ただ似たものを並べておるだけで」と言った。でも、その“ただ”が能力です。


 若菜は、ことばの柔らげ方を教えていました。


「同じことを申すにも」


「ええ」


「“ちがいます”より、“少し順が異なるように思われます”の方が」


「立ちにくい角がございます」


「なるほど……」


 よいですね。実務になっています。そして面白かったのは、滝子自身が少しずつその場へ入り始めたことでした。


 最初は見ているだけ。次に、「その言い回しは古例では」と一言。やがて、「それなら、こう書いておくと後の者が迷いませぬ」と言うようになった。


 つまり、若い者の知恵を、古参の整えで制度化する側へ回ったのです。それなら滝子はかなり強い。


 前世でも、改革が根づく時はだいたいそうです。若手の提案だけでは浮く。古参の経験だけでは固まる。両方がつながって初めて、運用になります。


 数日後、小さな成果が見えました。贈答の順で迷う時間が減った。返歌の控えが探しやすい。受け渡し札のおかげで伝令の抜けが減る。若い女房が「どう申せば」と立ちすくむ場面も減る。


 たいへんよろしい。つまり、従順マウントが、教育制度へ変換されたわけです。夕方、滝子が私のところへ来ました。


「姫様」


「はい」


「……わたくし」


「ええ」


「若い者が前へ出るのを見ると、つい、抑えた方がよいと思っておりました」


「そうでしょうね」


「ですが」


「ええ」


「教えぬまま黙らせるのは、たしかに、従わせることばかりでございました」


「……」


「知っているなら、渡さねばならぬのでございますね」


「その通りです」


 滝子は、少し苦く、でも柔らかく笑いました。


「班昭に従うつもりで、ずいぶん手前勝手に読んでおりました」


「ええ」


 私は答えます。


「かなり」


「……耳が痛うございます」


「聞こえるように申しました」


 よろしい。そのくらいでちょうどいい。そのあと、鈴がそっと私のところへ来ました。


「姫様」


「はい」


「わたくし、知っておることを申してもよいのでございますね」


「ええ」


「でも、勝手に前へ出るのでなく」


「はい」


「形にして、場へ渡す」


「……はい」


「それが学びです」


「はい」


 千草もまた、少し頬を紅くしながら言いました。


「“女は黙って覚えるもの”と申されて、そうかと思いましたが」


「ええ」


「紙に残すことも、覚えることのうちなのでございますね」


「その通りです」


 夕霧に至っては、少し晴れやかな顔で言いました。


「知恵を見せるのが慎みのなさ、ではなく」


「ええ」


「知恵を荒く出さず、使える形へするのが慎みなのでございますね」


「そうです」


 私は頷く。


「よく分かりました」


 若菜が、そのやりとりを少し離れたところで聞いて、やわらかく笑っている。

あの子は、人が「黙る」のでなく「整えて話せる」ようになるのが好きですね。


 常盤がしみじみ言いました。


「新しき風を吹き込む、だいぶお見事でございました」


「そうですか」


「反対派が正面から噛めぬところがまた」


「ええ」


 私は答えます。


「“女は学ばなくてよい”とは、さすがに言いにくいでしょうから」


「たいへん痛快で」


「広めない」


「難しゅうございます」


 春枝は紙箱を抱えたまま、誇らしげに言いました。


「紙が増えました」


「あなたはそこですね」


 と有子。


「でも、今回はよい増え方です」


 と私。


「はい。整理された増え方にございます」


 なるほど。それはたしかによい増え方です。小少将も、扇を揺らしながら静かに言いました。


「従順、ということばも、便利に使われすぎます」


「ええ」


 私は答えます。


「黙らせるために使う人がいる」


「でも、きちんと教えを受け、場を乱さぬよう整えて働くなら」


「それは従順と矛盾しません」


「その通りです」


 赤染衛門が控えを見ながら言いました。


「班昭も、こうして読むとずいぶん違って見えますね」


「ええ」


 私は答えます。


「表だけ読むと、“女はおとなしく”で終わる」


「はい」


「でも、教え、学び、礼を知り、場にかなうよう振る舞えと読むなら」


「……」


「かなり教育の書です」


「その通りでございます」


 赤染衛門はやわらかく笑いました。


「若い者どもにも、よい薬でございました」


「そうでしょうね」


「黙ることが美徳ではない」


「ええ」


「学んで、整えて、渡すこともまた、女房の徳」


「その通りです」


「しかも、表向きは古典に従っておられる」


「ええ」


「実に、姫様らしゅうございます」


「女は控えめで従順こそ美徳」


 その言い方は、たしかに一面では間違っていないのでしょう。でも、それを「だから学ぶな」「だから意見を持つな」「だから記録するな」へ化けさせるのは、ただの都合です。


 班昭は、学ばぬ女でよいとは書いていない。読むこと。知ること。礼を覚えること。ことばを整えること。それらもまた、女のたしなみのうちです。


 従順を言うなら、まず教育を与えなさい。


 慎みを言うなら、まず能力を整えなさい。


 黙らせるための美徳は、だいたい偽物です。

〜 出典 〜

『後漢書』卷84 列女伝 女誡(じょかい)


 鄙人愚暗(ひじんぐあんにして)、受性不敏(じゅせいふびんなり)、蒙先君之余寵(せんくんのよちょうをこうむり)、頼母師之典訓(ぼしのてんくんによる)。年十有四(よわいじゅうゆうしにして)、執箕箒於曹氏(きそうをそうしにとり)、于今四十余載矣(いまにおいてしじゅうよさいなり)。戦戦兢兢(せんせんきょうきょうとして)、常懼黜辱(つねにちゅつじょくをおそれ)、以増父母之羞(もってふぼのはじをまし)、以(もって)益中外之累(ちゅうがいのわずらいをえきせんことを)。夙夜劬心(しゅくやこしんし)、勤不告労(つとめてろうをつげず)、而今而後(いまよりのち)、乃知免耳(すなわちまぬかるるをしるのみ)。吾性疏頑(わがせいそがんにして)、教道無素(きょうどうもとなく)、恒恐子穀(つねにおそるしこく)負辱清朝(せいちょうにはじをおわんことを)。聖恩横加(せいおんおうかして)、猥賜金紫(みだりにきんしをたまう)、実非鄙人庶幾(まことにひじんのこいねがうところ)所望也(のぞむところにあらざるなり)。男能自謀矣(おとこはよくみずからはかる)、吾不復以為憂也(われまたもってうれいとなさざるなり)。但傷諸女方当適人(ただいたむしょじょまさにあにゆくべきに)、而不漸訓誨(しかるにぜんくんかいせず)、不聞婦礼(ふれいをきかずして)、懼失容它門(かたちをたもんにあるをうしない)、取恥宗族(はじをそうぞくにとらんことを)。吾今疾在沈滞(われいまやまいちんたいにあり)、性命無常(せいめいむじょうなり)、念汝曹如此(なんじらがかくのごときをおもい)、每用惆悵(つねにちゅうちょうをもちう)。間作女誡七章(ひまにじょかいしちしょうをつくる)、願諸女(ねがわくはしょじょ)各写一通(おのおのいっつうをうつし)、庶有補益(こいねがわくはほえきありて)、裨助汝身(なんじがみをひじょせんことを)。去矣(され)、其勗勉之(それこれをきょくべんせよ)。

卑弱第一(ひじゃくだいいち)

古者生女三日(いにしえおんなをうんでみっかには)、臥之床下(これをしょうかにふせ)、弄之瓦塼(これにがせんをろうせしめ)、而斎告焉(しかしてつつしんでつぐ)。臥之床下(これをしょうかにふすとは)、明其卑弱(そのひじゃくをあきらかにし)、主下人也(ひとにくだるをつかさどるなり)。弄之瓦塼(これにがせんをろうせしむるとは)、明其習労(そのしゅうろうをあきらかにし)、主執勤也(しっきんをつかさどるなり)。斎告先君(つつしんでせんくんにつぐとは)、明当主継(まさにけいさいしをつかさどるべき)祭祀也(をあきらかにするなり)。三者蓋女人之常道(さんしゃはけだしにょにんのじょうどう)、礼法之典教矣(れいほうのてんきょうなり)。謙譲恭敬(けんじょうきょうけい)、先人後己(ひとをさきにしおのれをあとにし)、有善莫名(ぜんありてはなづくることなく)、有悪莫辞(あくありてはじすることなく)、忍辱含垢(はじをしのびあかふくみ)、常若畏懼(つねにおそれおののくがごとくする)、是謂卑弱(これをひじゃくにして)下人也(ひとにくだるというなり)。晩寝早作(ばんしんそうさくし)、勿憚夙夜(しゅくやをはばかることなく)、執務私事(しじをとりつとめ)、不辞劇易(げきいをじせず)、所作必成(なすところかならずなし)、手跡整理(しゅせきせいりする)、是謂執勤也(これをしっきんというなり)。正色端操(せいしょくたんそう)、以事夫主(もってふしゅにつかえ)、清静自守(せいせいみずからまもり)、無好戯笑(ぎしょうをこのむことなく)、絜斉酒食(しゅしょくをけっせいし)、以供祖宗(もってそそうにきょうする)、是謂継祭祀也(これをけいさいしというなり)。三者苟備(さんしゃいやしくもそなわりて)、而患名称之不聞(しかるにめいしょうのきこえざる)、黜辱之在身(ちゅつじょくのみにあるをうれうるは)、未之見也(いまだこれをみざるなり)。三者苟失之(さんしゃいやしくもこれをうしなわば)、何名称之可聞(なんのめいしょうかきくべく)、黜辱之可遠哉(ちゅつじょくかとおざからんや)。

夫婦第二(ふうふだいに)

夫婦之道(ふうふのみちは)、参配陰陽(いんようにさんぱいし)、通達神明(しんめいつうだつす)、信天地之弘義(まことにてんちのこうぎ)、人倫之大節也(じんりんのたいせつなり)。是以礼(ここをもってれいは)貴男女之際(だんじょのきわをたっとび)、詩著関雎之義(しはかんしょのぎをあらわす)。由斯言之(これよりこれをいえば)、不可不重也(おもんじざるべからざるなり)。夫不賢(おっとけんたらざれば)、則無以御婦(すなわちもってふをぎょすることなし)、婦不賢(ふけんたらざれば)、則無以事夫(すなわちもってふにつかうるなし)。夫不御婦(おっとふをぎょせざれば)、則威儀廃欠(すなわちいぎはいけつす)、婦不事夫(ふおっとにつかえざれば)、則義理堕闕(すなわちぎりだけつす)。方斯二事(このふたつのことにおいて)、其用一也(そのようはいつなり)。察今之君子(いまのくんしをさっするに)、徒知妻婦之(いたずらにさいふの)不可不御(ぎょせざるべからざるをしり)、威儀之不可不整(いぎのととのえざるべからざるをしり)、故訓其男(ゆえにそのおとこをおしえ)、検以書伝(けんするにしょでんをもってす)、殊不知夫主之不可不事(ことにおっとにつかえざるべからず)、礼義之不可(れいぎのそんぜざるべからざる)不存也(をしらざるなり)。但教男而不教女(ただおとこをおしえておんなをおしえざるは)、不亦蔽於彼此之数乎(またひしのすうにおおわれるにあらずや)。礼(れいに)、八歳始教之書(はっさいにしてはじめてこれにしょをおしえ)、十五而至於学矣(じゅうごにしてまなびにいたる)。独不可依此(ひとりこれによりてもって)以為則哉(もってのりとなすべからざらんや)。

敬慎第三(けいしんだいさん)

陰陽殊性(いんようせいをことにし)、男女異行(だんじょおこないをことにす)。陽以剛為徳(ようはごうをもってとくとなし)、陰以柔為用(いんはじゅうをもってようとなす)、男以強為貴(おとこはきょうをもってとうとさとなし)、女以弱為美(おんなはじゃくをもってびとなす)。故鄙諺有云(ゆえにひげんにいうあり)、「生男如狼(おとこをうんでおおかみのごとくすとも)、猶恐其尪(なおそのおうなるをおそる)。生女如鼠(おんなをうんでねずみのごとくすとも)、猶恐其虎(なおそのとらなるをおそる)」。然則修身(しからばすなわちみをしゅうむる)莫若敬(けいにしくはなく)、避強莫若順(きょうをさくるはじゅんにしくはなし)。故曰敬順之道(ゆえにいわくけいじゅんのみちは)、婦人之大礼也(ふじんのたいれいなり)。夫敬非他(それけいはたにあらず)、持久之謂也(じきゅうのいいなり)。夫順非他(それじゅんはたにあらず)、寛裕之謂也(かんゆうのいいなり)。持久者(じきゅうとは)、知止足也(しそくをしるなり)。寛裕者(かんゆうとは)、尚恭下也(きょうかをおもんずるなり)。夫婦之好(ふうふのよしみ)、終身不離(しゅうしんはなれず)。房室周旋(ぼうしつしゅうせんして)、遂生媟黷(ついになれなれしきをしょうず)。媟黷既生(なれなれしきすでにしょうずれば)、語言過矣(ごげんあやまつ)。語言既過(ごげんすでにあやまてば)、縦恣必作(しょうしかならずおこる)。縦恣既作(しょうしすでにおこれば)、則侮夫之心生矣(すなわちおっとをあなどるのこころしょうず)。此由於不知止足者也(これしそくをしらざるによるなり)。夫事有曲直(それことにはきょくちょくあり)、言有是非(ことばにはぜひあり)。直者不能不争(ちょくなるものはあらそわざるあたわず)、曲者不能不訟(きょくなるものはうったえざるあたわず)。訟争既施(しょうそうすでにほどこされば)、則有忿怒之事矣(すなわちふんぬのことあり)。此由於不尚恭下者也(これきょうかをおもんぜざるによるなり)。侮夫不節(おっとをあなどりてせっせざれば)、譴呵従之(けんかこれにしたがう)、忿怒不止(ふんぬやまずんば)、楚撻従之(そたつこれにしたがう)。夫為夫婦者(それふうふたるものは)、義以和親(ぎはもってわしんし)、恩以好合(おんはもってこうごうす)、楚撻既行(そたつすでにおこなわば)、何義之存(なんのぎかこれぞんせん)。譴呵既宣(けんかすでにのべられなば)、何恩之有(なんのおんかこれあらん)。恩義倶廃(おんぎともにすたれば)、夫婦離矣(ふうふはなれるなり)。

婦行第四(ふぎょうだいし)

女有四行(おんなにしこうあり)、一曰婦徳(いちにいわくふとく)、二曰婦言(ににいわくふげん)、三曰婦容(さんにいわくふよう)、四曰婦功(しにいわくふこう)。夫云婦徳(それふとくというは)、不必才明(かならずしもさいめい)絶異也(ぜついなるにあらざるなり)。婦言(ふげんは)、不必弁口利(かならずしもべんこうり)辞也(じなるにあらざるなり)。婦容(ふようは)、不必顔色(かならずしもがんしょく)美麗也(びれいなるにあらざるなり)。婦功(ふこうは)、不必工巧也(かならずしもこうこう)過人也(ひとにすぐるるにあらざるなり)。清閑貞静(せいかんていせい)、守節整斉(しゅせつせいせいし)、行己有恥(おのれをおこなうにはじあり)、動静有法(どうせいほうある)、是謂婦徳(これをふとくという)。択辞而説(じをえらびてとき)、不道悪語(あくごをいわず)、時然後言(ときてしかるのちにいいて)、不厭於人(ひとにいとわれざる)、是謂婦言(これをふげんという)。盥浣塵穢(じんあいをかんかんし)、服飾鮮絜(ふくしょくせんけつにして)、沐浴以時(もくよくときをもってし)、身不垢辱(みをこうじょくせざる)、是謂婦容(これをふようという)。専心紡績(せんしんぼうせきし)、不好戯笑(ぎしょうをこのまず)、絜斉酒食(しゅしょくをけっせいし)、以奉賓客(もってひんかくにほうずる)、是謂婦功(これをふこうという)。此四者(このししゃは)、女人之大徳(にょにんのたいとくにして)、而不可乏之者也(これとぼしくすべからざるものなり)。然為之甚易(しかるにこれをなすははなはだやすく)、唯在存心耳(ただこころをそんずるにあるのみ)。古人有言(こじんのいうにあり)、「仁遠乎哉(じんとおからんや)。我欲仁(われじんをほっすれば)、而仁斯至矣(じんここにいたる)」と。此之謂也(これのいいなり)。

専心第五(せんしんだいご)

礼(れいに)、夫有再娶之義(おっとにさいしゅのぎあり)、婦無二適之文(ふににてきのぶんなく)、故曰夫者天也(ゆえにいわくおっとはてんなり)。天固不可逃(てんはもとよりのがるべからず)、夫固不可離也(おっとはもとよりはなるべからざるなり)。行違神祇(おこないしんぎにたがえば)、天則罰之(てんすなわちこれをばっす)、礼義有愆(れいぎにあやまちあれば)、夫則薄之(おっとすなわちこれをうすんず)。故女憲曰(ゆえにじょけんにいわく)、「得意一人(いっぴつをとくいにするは)、是謂永畢(これえいひつという)。失意一人(いっぴつにしついするは)、是謂永訖(これえいきつという)」と。由斯言之(これよりこれをいえば)、夫不可不求其心(おっとにはそのこころをもとめざるべからず)。然所求者(しかるにもとめるところのものは)、亦非謂佞媚(またねいびしてかりそめに)苟親也(したらむというにあらず)、固莫若専心正色(もとよりせんしんせいしょくにしくはなし)。礼義居絜(れいぎきょけつし)、耳無塗聴(みみにみちのききなく)、目無邪視(めにじゃしなく)、出無冶容(いずるにやようなく)、入無廃飾(いるにはいしょくなく)、無聚会群輩(ぐんぱいをしゅうかいすることなく)、無看視門戸(もんこをかんしすることなく)、此則謂専心正色矣(これすなわちせんしんせいしょくという)。若夫動静軽脱(もしそれどうせいけいだつ)、視聴陜輸(しちょうきょうしゅ)、入則乱髪(いりてはすなわちかみをみだし)壊形(かたちをこぼち)、出則(いでては)窈窕作態(ようちょうとしてたいをなし)、説所不当道(いうべからざるところをとき)、観所不当視(みるべからざるところをみれば)、此謂不能(これせんしんせいしょく)専心正色矣(あたわずというなり)。

曲従第六(きょくじゅうだいろく)

夫得意一人(それいちにんをとくいにするは)、是謂永畢(これえいひつという)。失意一人(いちにんにしついするは)、是謂永訖(これえいきつという)。欲人定志(ひとのこころざしをさだめ)専心之言也(せんしんせんとほっするのげんなり)。舅姑之心(きゅうこのこころ)、豈当可失哉(あにまさにあやまつべきや)。物有以恩(ものにおんをもって)自離者(みずからはなるるものあり)、亦有以義(またぎをもって)自破者也(みずからやぶるるものあり)。夫雖云愛(おっとあいくすというといえども)、舅姑云非(きゅうこひなりといえば)、此所謂以義(これいわゆるぎをもって)自破者也(みずからやぶるるものなり)。然則舅姑之心奈何(しからばすなわちきゅうこのこころいかん)。固莫尚於曲従矣(まことにきょくじゅうよりたっときはなし)。姑云不爾而是(しゅうとめしからずとしてしかりとすれば)、固宜従令(まことによろしくめいにしたがうべし)、姑云爾而非(しゅうとめしかりとしてしからずとすれば)、猶宜順命(なをよろしくめいにしたがうべし)。勿得違戾是非(ぜひをいれいし)、争分曲直(きょくちょくをそうぶんすることえるなかれ)。此則所謂曲従矣(これすなわちいわゆるきょくじゅうなり)。故女憲曰(ゆえにじょけんいわく)、「婦如影響(ふはえいきょうのごとくならば)、焉不可賞(いずくんかしょうすべからざらんや)」と。

和叔妹第七(わしゅくまいだいしち)

婦人之得意於夫主(ふじんのふしゅにええとするは)、由舅姑之愛己也(きゅうこのおのれをあいするによるなり)。舅姑之愛己(きゅうこのおのれをあいするは)、由叔妹之誉己也(しゅくまいのおのれをほむるによるなり)。由此言之(これによりてこれをいえば)、我臧否誉毀(わがぞうひよきは)、一由叔妹(いつにしゅくまいによる)、叔妹之心(しゅくまいのこころ)、復不可失也(またうしなうべからざるなり)。皆莫知叔妹之(みなしゅくまいのうしなうべからざる)不可失(をしることなく)、而不能和之(しかしてこれとわしてもって)以求親(おやをもとむるあたわざるは)、其蔽也哉(そのへいなるかな)。自非聖人(せいじんにあらざるよりは)、鮮能無過(すくなくしてよくあやまちなし)。故顔子貴於能改(ゆえにがんしはよくあらたむるをたっとび)、仲尼嘉其不弐(ちゅうにはそのふたたびせざるをよみす)、而況婦人者也(しかるをいわんやふじんにおいてをや)。雖以賢女之行(けんじょのおこない)、聡哲之性(そうてつのせいをもつといえども)、其能備乎(それよくそなわらんや)。是故室人和(このゆえにしつじんわせば)則謗掩(すなわちそしりおおわれ)、外内離則悪揚(がいないはなればすなわちあくあがる)。此必然之勢也(これひつぜんのいきおいなり)。易曰(えきにいわく)、「二人同心(ににんこころをおなじくせば)、其利断金(そのりきんをたつ)。同心之言(どうしんのげんは)、其臭如蘭(そのにおいらんのごとし)」と。此之謂也(これのいいなり)。夫嫂妹者(それそうまいとは)、体敵而尊(たいはてきにしてたっとく)、恩疎而義親(おんはそにしてぎはしたし)。若淑媛(もししゅくえんけん)謙順之人(けんじゅんのひとならば)、則能依義(すなわちよくぎによって)以篤好(もってよしみをあつくし)、崇恩以結援(おんをたっとびてもってたすけをむすび)、使徽美顕章(きびをしてけんしょうせしめ)、而瑕過隠塞(しかしてかかをいんそくし)、舅姑矜善(きゅうこもぜんをほこり)、而夫主嘉美(しかしてふしゅもよしみす)、声誉曜于邑隣(せいよはゆうりんにかがやき)、休光延於父母(きゅうこうはふぼにのぶ)。若夫憃愚之人(もしそれしょうぐのひとなれば)、於嫂則託名(あによめにおいてはなをかして)以自高(してみずからたかくし)、於妹則因寵(いもうとにおいてはちょうによって)以驕盈(もってきょうえいす)。驕盈既施(きょうえいすでにほどこされば)、何和之有(なんのわかこれあらん)。恩義既乖(おんぎすでにそむけば)、何誉之臻(なんのほまれかいたらん)。是以美隠(ここをもってびかくれて)而過宣(あやまちのべられ)、姑忿而夫慍(しゅうとめいかりておっとうらみ)、毀訾布於中外(きしはちゅうがいにしかれ)、恥辱集于厥身(ちじょくはそのみにあつまり)、進増父母之羞(すすんではふぼのはじをまし)、退益君子之累(しりぞいてはくんしのわずらいをえきす)。斯乃栄辱之本(これすなわちえいじょくのもとにして)、而顕否之基也(けんぴのきなり)。可不慎哉(つつしまざるべけんや)。然則(しからばすなわち)求叔妹之心(しゅくまいのこころをもとむるは)、固莫尚於謙順矣(まことにけんじゅんよりたっときはなし)。謙則徳之柄(けんはいなわちとくのつか)、順則婦之行(じゅんはいなわちふのおこない)。凡斯二者(およそこのふたつは)、足以和矣(もってわするにたる)。詩云(しにいわく)、「在彼無悪(かれにありてあくなく)、在此無射(ここにありていとわれず)」。其斯之謂也(それこれのいいなり)。


(要約) 私がこの7章を書いたのは、嫁にいく娘たちが婚家で礼儀知らずだと笑われ、実家の恥になることを心配したからです。どうかこれを書き写し、よく学んでください。

 1. 卑弱(謙虚さと勤勉) 女性は常に一歩下がり、謙虚であること。手柄をひけらかさず、嫌な仕事も率先して行い、家事や先祖の祭祀(おまつり)を真面目にこなしなさい。

 2. 夫婦(夫婦のあり方) 夫婦の結びつきは絶対的なものです。夫は妻を正しく導き、妻は夫に正しく仕えなければなりません。そのためには、男だけでなく女にもしっかりと教育が必要です。

 3. 敬慎(敬意と慎み) 夫婦は長年一緒にいると、つい遠慮がなくなり、言葉が行き過ぎて喧嘩や暴力につながります。常に夫への敬意を忘れず、出過ぎた態度をとらないようにしなさい。

 4. 婦行(4つの行い) 女性には以下の4つが求められます。特別な才能や美貌はいりません。心がけ次第で誰でもできます。婦徳:貞操を守り、恥を知ること。婦言:言葉を選び、悪口や余計なことを言わないこと。婦容:着物や体を常に清潔に保つこと。婦功:機織りや来客への食事の準備に専念すること。

 5. 専心(夫への誠実さ) 女性にとって夫は「天」のような存在です。夫の心をつなぎとめるために、媚びへつらう必要はありません。噂話を避け、派手な身なりをせず、礼儀正しく誠実に振る舞うことこそが重要です。

 6. 曲従(姑への絶対服従) 夫との関係を良好に保つには、舅(しゅうと)や姑(しゅうとめ)に愛されなければなりません。たとえ姑が間違ったことを言っても、絶対に言い返さず、ひとまず従いなさい。

 7. 和叔妹(義兄弟・小姑との調和) 舅や姑に愛されるには、夫の兄弟姉妹(特に小姑)の評判が決め手になります。彼女たちを敵に回すと、家中に悪い噂を流されて立場を失います。へりくだって親しく付き合い、味方につけることで、あなたの家庭内の立場は盤石になります。


※ 男尊女卑の元凶と見なされ、班昭の罪責とされた『女誡』は、一見すると「ひたすら我慢して男や姑に従え」という窮屈な内容ですが、その本質は「完全アウェーである嫁ぎ先で、いかに周囲を味方につけ、自分の身を守り、家庭という組織を平穏に運営するか」という、極めて現実的なサバイバル術、人間関係のマネジメント論じゃないのかなと感じました。


〜 舞台背景 〜

 班昭(はんしょう、建武21年(45年)- 元初4年(117年))は、中国・後漢の著作家。中国初の女性歴史家。和帝朝に仕える女官。一名は姫。字は恵姫、または恵班。出典:wikipedia

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜
宅建見習い栞の人情事件簿 〜転生したら昭和の不動産屋だったので、巻き込まれているうちに宅建過去問が解けるようになりました〜
名探偵 藤原彰子の宮中事件簿 ――『転生皇后 藤原彰子』スピンオフ外伝
転生皇后 藤原彰子 〜 欠けることのない望月の世は私が創る 〜
新訳 太閤記 ~ 転生 豊臣秀吉、未来を識る僕は史実の道を静かに歩む 〜
新訳 三河物語 〜 徳川家康と家臣団の戦国サバイバル 〜 with 逆行転生犬シロ
新訳 北条五代記 〜 近所の隠居が書いたメモがガチの戦記だった件〜
美しき女帝 北条政子 〜 婚約破棄どころか強制結婚!? 平家のエリートに嫁がされそうになったので、豪雨の山を越えて愛する無職の元へ走ってみた 〜
新訳 曽我物語 〜 復讐系なろうの原点、父を殺された兄弟の二十年の復讐譚〜
箴言・格言・名言集 〜頑張るあなたへ、今日を乗り越えるための一言〜
拝啓、愛読者様。― 想いを少しだけ 謹呈 条文小説
六道輪廻抄 〜 戦国転生記 〜
コミックス「六道輪廻抄〜戦国転生記〜」
動画生成AIが作成したイメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。