九十七 卓文君、駆け落ち後の経営者
卓文君は司馬相如と駆け落ちし、酒場を営んだ才女として語られる。宮中で、恋のために家を離れた女性が「身を落とした」と嘲られる。彰子は、卓文君を「恋に溺れた女」ではなく、生活再建能力を持つ女性として評価する。恋愛の成功は情熱ではなく、食べていける仕組みを作れるかだと説く。
恋というものは、人をたいへん馬鹿に見せます。
前世でもそうでした。急に遠くを見る。返事の遅さで生死を感じる。会えただの会えないだので、一日の気圧が変わる。食べたかどうかより、既読がついたかどうかの方が重要になる。本当に、どうかしています。
でもまあ、分からなくもありません。好きな人がいる、というのは、それだけで世界の輪郭を少し変えます。景色の色も、風の温度も、妙に意味ありげになる。そういう時期が人にあるのは、べつに恥ではないでしょう。
問題は、その先です。
好きであることと、一緒に生きていけることは、まったく別です。ここを混ぜると、人はすぐ悲劇になります。
『史記』や伝承に見える卓文君の話を、ただ「恋に狂って駆け落ちした才女」と読んでしまうのは、私はだいぶ惜しいと思っています。
たしかに情熱はあったのでしょう。でも、卓文君のすごさは、駆け落ちしたあとにある。落ちて終わりではない。
家を出て、後ろ盾を失い、綺麗事だけでは食べられぬ場所へ行って、そこでちゃんと暮らしを立て直す。酒を売る。場を回す。人を呼ぶ。つまり、恋のあとに経営が来る。
そこまで行って初めて、「本気だった」と言えるのです。
その日の藤壺は、朝から妙に甘ったるく、そして少し意地悪でした。
若菜が香炉の灰をならしながら、何度か困ったように視線を泳がせている。有子は控えの紙を整えながら、あれは確実に「またですか」という時の指先の速さ。
春枝は紙箱を抱えたまま、「今日は紙より文の中身の方がべたべたしております」と、わりにそのままのことを言った。
小少将は、扇の動きが妙に涼しい。あの人がそこまで涼しい時は、たいてい腹を立てています。澄子は灯台の金具を磨きつつ、部屋の空気が少し浮ついているのを静かに見ていた。
そして紫式部はといえば、几帳の陰で完全に気配を殺し、手元の草子へ恐ろしい速さで筆を走らせていた。人が他人の恋の転落を面白がる時の、あの醜くも甘い空気を、余さず物語の養分に変換している背中でした。
つまり、恋の話です。そして、たぶん誰かが、その恋で「身を落とした」ことになっている。
「姫様」
赤染衛門が来た時点で、はい、そうですね、となりました。
「少し、よろしくない笑いが」
「誰が、誰を」
「小宰相の局に出入りしておる、篠と申す女房を」
ああ。
篠。まだ若いが、落ち着いた顔をした女房です。もともとは、それなりの家の娘だった。けれど、家の意に沿わぬ恋をして、その相手といったん家を離れた。
完全な駆け落ち、と言ってよいでしょう。
結果、後ろ盾は薄れ、暮らしは楽ではなく、のちに縁をたどって宮中へ戻ることになった。
そういう経緯だけ聞けば、世間はすぐ言います。
「身を落とした」
「恋に目がくらんだ」
「愚かな女」
恋に走ったこと自体は、たしかに無鉄砲だったかもしれない。でも、そのあとどう生き延びたかの方が、よほど大事でしょう。
「何を言われているの」
赤染衛門が少し眉を寄せます。
「“恋のために家を捨てたのですって”と」
「ええ」
「“才があっても、情に負ければああなりますのね”と」
「はい」
「“結局、女は身を持ち崩すと大変ですわねえ”とも」
「なるほど。上からですね」
「ええ」
「誰が」
「明子、佐江、それから恋文で日々忙しい若い者どもが少し」
はい。たいへん分かりやすい。自分たちは恋文で浮かれているくせに、実際に家まで飛び出した人を見ると急に冷静な顔をする。
そして、安全な位置から「そこまではしませんけれど」と上品ぶる。
かなりいやですね。
「篠は」
「静かに働いております」
「ええ」
「ですが、自分のことを話さぬようになっております」
「でしょうね」
人は、自分の過去が「反面教師」みたいに消費され始めると、口を閉ざします。語れば語るほど、相手が勝手に教訓にするから。
常盤が、柱の陰からひょいと顔を出しました。
「卓文君めいてまいりました」
「嬉しそうに言わない」
「申し訳ございません。でも、“駆け落ち後の経営者”はかなり好きな題で」
私も好きです。たいへん本気で。
「篠を呼びましょう」
しばらくして来た篠は、目の澄んだ女でした。派手ではありません。でも、浮ついてもいない。生活の苦労を一度ちゃんとくぐった人の目は、どこか余計な夢を削られています。そのかわり、足元が見える。
「篠」
「はい、姫様」
「何か、皆に言われていますか」
篠は少しだけ笑いました。無理のない、でも少し乾いた笑い。
「恋の話は、皆さまお好きにございますから」
「ええ」
「面白うございましょう」
「面白い?」
「恋に身を投げた娘が、そのあと困った、という筋は」
「……」
「たいへん、話の形がようございます」
私は少し目を細めました。
「あなたにとっては、話ではありませんね」
篠はその言葉に、少しだけ黙りました。それから静かに頷く。
「はい」
「後悔していますか」
問いはまっすぐすぎるでしょうか。でも、ここは濁さない方がいい。
篠はしばらく考えてから答えました。
「恋したこと自体を、なかったことにはいたしませぬ」
「ええ」
「家を出たことも、あの時はあれしか選べぬと思うたのでしょう」
「うん」
「ただ」
「ただ?」
「好きであれば、何とかなると思うたのは浅うございました」
「……」
「何とかするには、手が要りました」
「その通りです」
はい。篠は、ちゃんと分かっている。
「何をしましたか」
篠は、少し驚いた顔をしました。
たぶん「つらかったでしょう」とか「かわいそうに」と来ると思っていた顔です。でも、そちらには行きません。
「暮らし立てるために、何をしたの」
篠は少し息をついて、それからぽつりぽつりと話し始めました。
持って出たものは多くなかったこと。相手は歌も気位もあったが、すぐ銭になる才は少なかったこと。
だから、自分が人の間に立ち、酒や食べ物を出す場を手伝い、客の機嫌を読み、勘定をごまかされぬよう見、仕入れのようなことまで覚えたこと。
どの時間に人が来るか。どんな言葉でまた来たくなるか。何を削って何を残すか。
おや。予想以上に、ちゃんと経営ですね。
前世でもそうでした。恋だけでは暮らせないと気づいた人が、そのあと本当に強くなる時があります。
在庫。客足。金の流れ。役割分担。感情の熱が、生活の構造に変わります。私はかなり好きです。そういうの。
「篠」
「はい」
「あなた、場の回し方が分かるのですね」
篠は少し戸惑ったように言う。
「……たぶん、生きるために」
「ええ」
「そうするよりほかなく」
「それが能力です」
「……」
「恋に溺れた女、ではなく」
私はきっぱり言いました。
「生活再建能力のある女です」
篠の目が、少しだけ大きくなりました。よろしい。まず、評価軸をひっくり返します。
若菜が少し離れたところで、ほっとしたような顔をした。若菜は、誰かの過去が「恥」だけで終わらぬのを見ると、本当に安心します。
では、笑った側です。明子、佐江、それから恋文に頬を染めている若い女房たちを呼びました。
皆、呼ばれた時点で少し青くなっています。よろしい。
「篠のことを“身を落とした”と言いましたね」
沈黙。
「正しいことを言えばよいのです」
明子が、おずおずと口を開きました。
「……そのように、見えまして」
「何が」
「恋のために家を出るなど」
「ええ」
「女としては」
「女としては?」
「……危ういことかと」
「危ういでしょうね」
私はあっさり頷きます。皆が少し驚く。
「恋で家を出るのは、たいてい危ういです」
「……」
「だから?」
「え」
「危うかった人は、その後ずっと“身を落とした女”で固定されるのですか」
「……」
「そのあと、どう生きたかは見ない?」
「……」
佐江が小さく言いました。
「ですが、恋に走ったのでございますし」
「ええ」
私は答えます。
「走りました」
「……」
「でも、走ったあとに倒れたままだったわけではない」
「……」
「暮らしを立てた」
「……」
「人を呼び、場を回し、世の流れを見た」
「……」
「そこを見ずに“恋に溺れた女”で止めるのは、だいぶ雑です」
場がしんと静まりました。
「卓文君を、あなたたちはどう読んでいますか」
私は続けます。
「恋に狂った女」
「……」
「愛に殉じた女」
「……」
「それだけ?」
「……」
「違うでしょう」
私は言いました。
「生活を再建した女です」
「……」
小少将が、そこで扇をゆるく動かしながら言いました。
「恋文は美しゅうございますけれど、飯は炊けませぬものね」
「ええ」
私は頷きます。
「愛で米は炊けません」
場が少し止まる。
「炊く方法を考えるのが、本気の恋です」
常盤が、後ろでほとんど崩れそうになっていた。やめなさい。そういう時だけ本当に顔に出ます。
でも、言いたいことはそこです。情熱は否定しない。恋も否定しない。ただし、それが本物かどうかは、熱ではなく、そのあと生活をどう作るかに出ます。
前世でもありました。
「好きだから何とかなる」
「二人なら平気」
「愛があれば」
……なに一つ何とかなりません。何とかするのは、家賃計算と役割分担と収入です。
私は言いました。
「恋文で胸を熱くするのは結構です」
「……」
「でも、もし本当に誰かと生きるつもりなら」
「……」
「その人と何を食べ、どこで暮らし、誰がどう働くかまで考えなさい」
「……」
「そこまで行かぬ恋は、だいたい恋文のうちが花です」
「……はい」
若い女房たちが、かなり真面目な顔になっている。よろしい。少し冷えた方がいい場面です。
ただし、ここで篠を「すごい苦労人」として祭り上げるのも違います。必要なのは、彼女の経験を、場に役立つ知として位置づけること。私は決めました。
「衛門」
「はい」
「篠に、出入りと差配の見立てを手伝ってもらいましょう」
赤染衛門が、やはり来ましたね、という顔。ええ、来ます。こういうのは、可哀想でも武勇伝でもなく、運用へ落とすのが大事です。
「題は」
「……“客あしらひと差配の覚”」
「分かりやすうございます」
「今日は素直にいきます」
「承知しました」
私は紙に項目を書き出しました。
客あしらひと差配の覚
一、人の出入りの多い時刻と流れを見る
一、誰に何を先に出すと場が落ち着くか考える
一、少ないもので場を回す工夫を覚える
一、人の機嫌と財布のひもは別に見る
一、ことばの熱に流されず、勘定と現実を確かめる
一、暮らしを立てる知恵を、恥ではなく技として扱う
若い女房たちが、その紙を見て少し目を丸くしている。はい、恋の話が、急に台所と勘定の話へ落ちました。でもそこが本質です。
「篠」
「はい」
「あなた、場に誰が来ると空気が変わるか、見ますか」
「見ます」
「誰が払いがよく、誰が口ばかりかも」
篠がほんの少し苦笑する。
「……見ます」
「よろしい」
私は頷きます。
「たいへん役に立つ目ですね」
「ありがとうございます」
「それを、藤壺の若い者へ渡して」
篠は少し驚いたようでした。たぶん、自分の過去が「教えるもの」になると思っていなかったのでしょう。
「恋の話をする時に」
私は続けます。
「浮いた文句だけでなく、現実も一緒に見せてあげて」
「……はい」
「あなたにしか言えぬことです」
「はい」
その日の午後から、小さな“差配の見習い”が始まりました。人の出入りの時間を篠が読む。
「この刻は、急ぎの文が重なります」
「この方は、先に一声ないと機嫌が曲がります」
「こちらは体裁を好みますが、実は量より間にうるさい」
有子が横で、かなり興味深そうに聞いている。記録係として、人の流れを読む人には弱いのです。
若菜は、篠の「ことばの熱に流されない」の部分をたいへん真面目に聞いていました。
「好きだと申す方が」
「ええ」
「本気かどうかは」
「何を急ぎ、何を待てるかで少し見えます」
「……なるほど」
若菜にそれを教えるのは、かなり効きますね。若菜は人のやさしさを見るのがうまいが、その熱が持続するかどうかまでは、まだ少し甘いところがあります。
小少将に至っては、「衣に財をかける方と、食に財をかける方では、女への扱いも違いますのね」などと、たいへん現実的な質問をしていました。ええ、そのへんもだいぶ大事です。
春枝はなぜか、「少ない紙で見映えを保つには」
と聞いていた。本当に紙です。
篠は、そういう問いにひとつひとつ答えました。しかも、決して悲壮な顔をしない。「苦労しましたの」と自分を売らない。ただ、見てきたことを淡々と運用へ落とす。これは強いです。
前世でも、本当に立て直した人は、苦労自慢が少ない。そのかわり、打ち手が具体的です。感情論ではなく、次に何をするかがすぐ出る。
数日後、その知恵がさっそく役に立つことがありました。急な来客が重なり、贈り物も返礼も控えも少し詰まりかけたのです。いつもなら、人手の多い方へ何となく寄せて場当たり的に回すところでしょう。
でも篠は、さっと言いました。
「まず、待てぬ方を一人」
「ええ」
「その次に、見栄えを気にする方へ形だけでも先に」
「うん」
「甘いものは後で足ります」
若菜が目を丸くする。
「足りますか」
「足ります。先に声だけ通れば」
有子が即座に動き、春枝が紙を選び、若菜が言い回しを整え、夕霧が文句の温度を見て、場は思った以上に滑らかに収まりました。
さすがです。恋に身を投げた女、ではなく、完全に場を立て直す人です。
ふと視線をやると、紫式部が几帳の陰で、またひっそりと筆を動かしていました。恋に破れた女の惨めさではなく、泥水をすすって立ち上がり、涼しい顔で客を差配する女の強かさ。彼女の書く物語に、きっと今までとは少し手触りの違う、たくましい女房の姿が加わるのでしょう。
終わったあと、明子がしみじみ言いました。
「……篠さま、思っていたのと違いました」
「何を思っていたの」
と私が訊く。
「もっと、その」
「はい」
「情に流されやすい方かと」
「なるほど」
「でも、いちばん現実をご存じで」
「ええ」
「わたくしたちの方が、よほど恋に酔っておりました」
そこまで分かれば十分です。
夕方、篠が私のところへ来ました。
「姫様」
「はい」
「わたくし……これまで」
「ええ」
「自分のしたことは、少し恥のようにも思うておりました」
「家を出たことが?」
「はい」
「浅かったこともございますれば」
「ええ」
「ですが、今日」
「うん」
「恥だけではないと、少し思えました」
私は頷きました。
「浅かったことは浅かったのでしょう」
「……はい」
「でも、その後に手を打った」
「はい」
「それは値打ちです」
「……はい」
「恋に落ちたことより、落ちたあとにどう立て直したかの方が、よほどあなたの力です」
篠は、その言葉を聞いて、少しだけ笑いました。
前よりずっと、息の入った笑いでした。
「愛で米は炊けませぬものね」
おや。それ、自分で言いますか。
「ええ」
私は答えます。
「でも、炊き方を覚えた恋は、少し強い」
「……はい」
少し離れたところで、常盤がしみじみ言いました。
「恋愛の成功は情熱ではなく仕組み、でございますねえ」
「だいぶ夢がありませんが、その通りです」
「でも、たいへん効きます」
「ええ」
若菜は、篠へやわらかく言いました。
「篠さまのお話を聞いておりますと」
「ええ」
「好き、だけでは人は一緒に生きられぬのだと、少し寂しくもございますが」
「ええ」
「でも、そのあとに何を作るかまで考えるのは、やはりやさしいことなのでございますね」
篠は、その言葉に少し驚き、それから静かに頷きました。
「はい」
「好きな相手と生きたいなら」
「ええ」
「相手に夢ばかり食べさせるわけにはまいりませぬ」
「その通りです」
いいですね。若菜はやさしさを感情だけでなく手段まで含めて理解し始めている。
小少将は扇を揺らしながら、いかにも納得した顔で言いました。
「恋に落ちるのは一夜で足りますけれど、暮らしは日々でございますものね」
「ええ」
私は答えます。
「だから、日々を作れる人の方が強い」
「まことに」
春枝が紙箱を抱えたまま、ぽつりと言いました。
「紙も、恋文だけでは尽きますが、勘定帳があれば続きます」
「また紙ですか」
と有子。
「でも今回はかなりよいです」
と私。春枝は誇らしげでした。赤染衛門が控えを見ながら言いました。
「卓文君も、こうして読むと」
「ええ」
私は答えます。
「恋に溺れた才女というより」
「はい」
「恋のあとに、暮らしを立てた女ですね」
「その通りでございます」
「情熱だけで終わらなかった」
「ええ」
「だからこそ、話が残る」
「そうです」
赤染衛門はやわらかく笑いました。
「若い女房たちにも、だいぶ効きました」
「そうでしょうね」
「恋文で盛り上がるだけでは、米は炊けぬと」
「ええ」
「炊く方法を考えるのが本気の恋」
「その通りです」
恋は、人を浮かせます。家を出たくもなる。世界の端まで行ける気にもなる。それは、まあ、あるでしょう。
でも。好きであることと、生きていけることは別です。恋愛の成功は、情熱だけでは決まりません。そのあと、どんな暮らしを作るか。何で食べるか。誰が何を担うか。足りないものをどう補うか。熱のあとに仕組みを作れるかどうかです。
恋に走った女を、ただ“身を落とした”と笑うのは浅い。そのあとに生活を立て直したなら、見るべきはむしろそこです。
愛で米は炊けません。炊く方法を考えるのが、本気の恋です。
〜 出典 〜
『史記』(司馬相如列伝)文君当爐
是時卓王孫有女文君新寡、好音。故相如繆与令相重、而以琴心挑之。相如之臨邛、従車騎、雍容閑雅甚都。及飲卓氏、弄琴。文君窃従戸窺之、心悦而好之。恐不得当也。既罷、相如乃使人重賜文君侍者、通殷勤。文君夜亡奔相如。相如乃与馳帰成都。家居徒四壁立。卓王孫大怒曰、「女至不材、我不忍殺、不分一銭也。」人或謂王孫、王孫終不聴。文君久之不楽、曰、「長卿第倶如臨邛、従昆弟仮貸、猶足為生。何至自苦如此。」相如与倶之臨邛、尽売其車騎、買一酒舎酤酒、而令文君当鑪。相如身自著犢鼻褌、与保庸雑作、滌器於市中。卓王孫聞而恥之、為杜門不出。昆弟諸公更謂王孫曰、「有一男両女、所不足者非財也。今文君已失身於司馬長卿。長卿故倦遊、雖貧、其人材足依也。且又令客。独奈何相辱如此。」卓王孫不得已、分予文君僮百人、銭百万、及其嫁時衣被財物。文君乃与相如帰成都、買田宅、為富人。
(要約)大富豪の娘で未亡人の文君は、宴席で司馬相如の琴の音色に魅了され、その夜のうちに駆け落ちします。二人は相如の故郷へ向かいますが、彼の家は壁しかないほどの極貧でした。激怒した父・卓王孫は「一銭も援助しない」と娘を見放します。貧乏暮らしの末、文君は相如に提案して実家のある町へ戻りました。二人は持ち物を売り払って酒場を開き、お嬢様の文君が店先で接客し、相如もふんどし姿で皿洗いをして泥臭く働きました。娘夫婦が市場で労働する姿に、父は恥ずかしくて家から出られなくなります。親戚たちから「才能ある娘婿にあんな真似をさせるな」と説得され、ついに父は折れました。文君は多額の持参金と百人の召使いを勝ち取り、相如と共に故郷へ戻って大金持ちになりました。
〜 舞台背景 〜
卓文君(たくぶんくん、紀元前175年 - 紀元前121年)は、漢代の女性。賦の作者として有名な司馬相如の妻であり、「文君当爐」の逸話で知られる。『百美新詠図伝』では、歴朝で最も名高い美人百人に選ばれている。また、中国四大美人と認知されることもある。臨邛の富豪である卓王孫の娘である。結婚した後に夫を失い、実家に戻っていたとき、司馬相如と出会う。司馬相如は父の卓王孫の開いた宴会に呼ばれており、司馬相如の琴の巧みな演奏に卓文君は心惹かれた。卓文君は音楽を好んでおり、そのことを知っていた司馬相如が卓文君の好意を得るために計画的に琴を奏でたのだともいう。卓文君は自身が未亡人であるため、司馬相如に引け目を感じていた。しかし、卓文君はすぐに司馬相如からの恋文を受け取る。二人で成都へと出奔するが、父に勘当されて貧窮した。そこで卓文君は司馬相如を連れて臨邛に戻ると、酒場を構え、卓文君が接客を行った。卓王孫はこれを恥じ、やむなく自身の財産を卓文君に分け与えたという。これが「文君当爐」の逸話として知られており『史記』・『漢書』に詳細な記述がある出典:wikipedia




