八十三 宴の失敗を誰のせいにするか
宴で手配ミスが起こり、古参女房が新人に責任を押しつけようとする。彰子は個人攻撃を止め、工程を確認。原因は指示の曖昧さと確認不足だった。再発防止策を作り、新人を守る。責任追及ではなく仕組み改善。彰子の現代的管理能力が最も実務的に光る。
大きな失敗が起きた時、人はだいたい二つのことをします。
ひとつは、何が起きたのかを確かめること。もうひとつは、誰のせいにするかを探すこと。
そして残念ながら、後者の方がずっと早いかもしれません。
前世でもそうでした。書類が足りない、手配が漏れた、会場が回らない、納期が遅れた。そういう時、原因をたどるより先に、
「それ、誰がやったの?」
「担当は?」
「新人だったの?」
という言葉が飛びます。分かりやすいからです。人に原因を貼りつければ、その場はいったん落ち着いたように見えます。
でも、本当に怖いのはそこからです。ひとりに責任を押しつけて終わる組織は、同じ失敗を何度でも繰り返します。なぜなら、失敗を起こした仕組みがそのまま残るからです。
もちろん平安の宮中でも、それは同じでした。
宴の日の御殿は、外から見ると華やかです。几帳は整い、香は焚かれ、盃は並び、笑い声はやわらかく、すべてがいかにも滞りなく進んでいるように見えます。
けれど、その裏では膨大な手配が走っています。誰がいつ座るか。どの品をどの順で出すか。文や盃のやりとりをどこでつなぐか。
誰が前に出て、誰が控えで支えるか。途中で人が足りなくなった時、どこで埋めるか。要するに、宴というものは、優雅な顔をした工程管理です。
その日の宴も、はじめのうちは上手くいっていました。若菜の焚いた香は静かで、場をざわつかせない。小少将の見立てた装束は、前に出る者も控えの者も美しく見えた。
春枝の選んだ紙と包みは細やかで、有子の控えは抜けがない。澄子は灯のゆらぎを読み、大輔の君と弁の君は全体の流れを見ている。
新人の千代――まだ出仕して日が浅い、小柄で真面目な子――も、その日は初めて本格的な宴の補助に入っていたました。
持ち出しの順を覚え、先輩の指示どおりに器や紙を運び、合間には控えの位置まで気を配っていました。初めてにしては、よくやっていました。
少し肩に力は入っていたけれど、それは仕方がありません。慣れていない場で、緊張しない方がおかしいのです。
問題が起きたのは、中ほどを過ぎた頃でした。本来なら、次に出るはずの盃と、それに添えるはずの小さな文が、定められた位置にありません。
正確に言えば、盃は別の列に回され、文はまだ控えに残っていました。大きな破綻ではありません。でも、宮中の宴で「本来の順が少しずれる」というのは、見える人には十分見えます。
それに、ずれは小さいうちほど拾わないと、後で全部に響きます。有子が先に気づき、すぐ大輔の君へ目配せをした。大輔の君は一瞬で位置を調整し、弁の君が別の器でつなぎ、若菜が人の動揺を香の間で吸ってくれました。
つまり、現場は守られたのです。けれど、守られたからといって何もなかったことにはなりません。
宴がなんとか納まったあと、控えの間には、あの嫌な空気が漂っていました。表では静かに済んだ失敗ほど、裏で強く鳴ります。
「ですから申し上げましたのに」
最初に口火を切ったのは、古参の女房――典侍の局に近い年長の一人、兵庫の君でした。仕事はできます。場数も踏んでいる。ただし、自分のやり方以外が少しでも混じると、途端に人に厳しくなる種類の人です。
「新人をこのような大きな宴に入れるのは、まだ早いのでございます」
その言葉と同時に、何人かの視線が千代へ向きました。千代は顔を真っ白にした。もともと色白な子だから、こういう時は本当に血の気が引いて見えます。
「この子が、持ち出しの順を違えたのでしょう」
兵庫の君は言います。
「控えの位置から見ておりましたもの。文も盃も、手元で迷っておりました」
千代の唇がかすかに震えた。
「……わ、わたくし」
「ほら、ご自分でもお分かりなのです」
兵庫の君が畳みかける。
「分からぬ者を前に出せば、こういうことになるのです」
だめです。こういう時の「ほら」が一番だめです。本人がまだ何も言えていないのに、周囲が“そういう話だったこと”にし始める。
常盤が眉をひそめた。小少将は露骨に冷たい目になっています。有子は紙を持つ手を止め、若菜は千代の方を気にして落ち着かない。春枝は、紙箱を抱えたまま怒っている時の顔です。珍しい。
私はそこで口を開いた。
「待ちなさい」
強い声ではありません。でも、部屋の空気が一度そこで止まるくらいには、静かに落とした声でした。
兵庫の君が、はっとしたように口を閉じる。
私は千代を見ました。千代は今にも泣きそうでしたが、泣くまいとしている。真面目な子です。こういう子は、一度「お前のせいだ」と言われると、実際に全部自分が悪かったと思い込みます。それをさせてはいけません。
「まだ、誰のせいかは決まっていません」
私がそう言うと、兵庫の君は少し強張った顔で答えた。
「ですが、千代が迷っていたのは事実にございます」
「迷ったことと、原因であることは別です」
「……」
「それに、迷うような指示であった可能性もあります」
部屋が静まり返ります。古参の前で、指示する側の曖昧さを言う。それは、それなりに響きます。兵庫の君は不服そうでした。
「しかし、新人でなければ防げたことでは」
「かもしれません」
私はあっさり認めました。
「でも、新人が防げなかったことと、新人だけが悪いことは違います」
これは大事です。前世でもそうでした。経験者なら防げた、は成り立つことがあります。でもそれは同時に、経験者でない人が防げるようにしていなかった側の責任でもあります。
千代が、涙をこらえたままこちらを見ていました。私はできるだけ落ち着いた声で言います。
「千代。順に聞きます。あなたは、誰から何を言われましたか」
「……は、はい」
か細い声だったが、ちゃんと返事はした。よし、それで十分です。
「まず、盃について」
「兵庫の君より、“次は梅枝の盃を先に”と……」
「文は」
「有子様の控えの文を、あとから添えるようにと……」
「同時に?」
「い、いいえ。少し間がありまして……」
私は視線を上げる。
「有子」
「はい」
有子はすぐに答えた。
「わたくしは、文は盃と一緒に、と前に伝えております」
「千代に?」
「はい。ただ、別の持ち出しを整えながらでしたので、はっきり復唱させたかと申されれば……」
そこで言葉が切れる。有子は正直です。自分に不利なことでも、曖昧にしない。
「大輔の君」
「はい」
「その場で全体の順を、誰が最終で見ていましたか」
「……兵庫の君と、わたくしと」
「最終確認は」
「口頭にて」
「指差しは」
「しておりません」
はい。
だんだん見えてきましたね。
兵庫の君が少し苛立った顔をした。
「ですが、基本の順は決まっていたことにございます」
「決まっていたことと、最後にずれなかったことは違います」
私はその場に紙を持ってこさせた。春枝が、待ってましたと言わんばかりにすべらせてくる。仕事が早い。
「工程を見ます」
常盤が小声で言う。
「出ました、工程」
「あなたは嬉しそうにしない」
「申し訳ございません」
私は紙の中央に線を引き、上から順に書いた。今回の流れ次に出す盃の確認添える文の確認持ち出し担当への指示最終の復唱持ち出し前での受け取り確認
「さて」
私は皆を見る。
「どこで、食い違いが起きてもおかしくなかったですか」
誰もすぐには答えない。兵庫の君も黙っています。なら、こちらでほどいていきましょう。
「まず一つ。盃と文の指示が、別の者から、別の時に出ています」
私は指で示した。
「これで新人は、頭の中で結び直さなければならない」
「……」
「二つ。最終確認が口頭だけです」
「……」
「三つ。復唱が徹底されていません」
「……」
「四つ。前で受け取る側も、受け取る瞬間に違いへ気づける仕組みになっていない」
有子がそっと息をつく。大輔の君も、静かに頷いた。兵庫の君は、まだ言いたそうでした。
「しかし、千代が迷っていたのであれば、その場で尋ねれば」
「尋ねにくかったのかもしれません」
私は言った。
「急いでいる場で、古参の方がたへ割って入るのは、新人には難しいでしょう」
「……」
「そして、その難しさを含めて整えるのが、教える側の役目です」
そこまで言うと、千代がついにぽろりと涙を落とした。
ああ、だめです。この子はずっと、聞いてはいけないと思っていたのでしょう。
若菜がそっと近づいて、千代のそばへ座った。何も言わない。ただ、近くにいる。ああいう寄り添い方は若菜のいいところです。
私は続けます。
「今回の原因は、千代ひとりではありません」
「……」
「指示の分散」
「確認不足」
「復唱なし」
「最終受け取りの照合なし」
「つまり、工程の穴です」
兵庫の君が、ようやく少し視線を落とした。たぶん、自分にも思い当たることがあるのだろう。悪意で新人へ押しつけたというより、長年の感覚で「迷った者が悪い」と口にしてしまったのです。
そういう古参、前世にも山ほどいました。本人は現場を守ってきた自負がある分、仕組みの穴より人の未熟を先に責めてしまう。でも、そこを止めないと、若い人から折れていきます。
ふと視線をやると、御簾の陰に控えていた紫式部が、手元の草子にすらすらと何かを書きつけているのが見えました。
彼女はこういう時、決して口を挟みません。ただ、人が人を責める時の冷たい響きや、怯える者の震え、そしてその場の空気がどう変わっていくかを、恐ろしいほど正確に切り取って物語の糧にしてしまう。
今もきっと、宴の裏側で起きたこの小さな軋轢を、どこかの姫君や女房の悲哀として書き留めているのでしょう。
「衛門」
「はい」
赤染衛門は、すでに察した顔で筆を持っている。
「残しましょう」
「やはり」
「ええ。宴の手配について」
「題は」
「……『宴用度次第覚』」
「分かりやすいですね」
「今日は雅さより実用です」
「珍しゅうございます」
「放っておきなさい」
場に、ようやく少しだけ笑いが戻った。いいことです。空気が張りつめたままだと、人は学ぶより縮みます。私は、その場で再発防止の形を書き始めました。
――宴用度次第覚
一、盃と添え文は、一組で指示する
一、指示は、できる限り一人がまとめて出す
一、持ち出し役は、受けた指示を必ず復唱する
一、前に渡す前に、控えで指差し確認をする
一、新人を入れる時は、横に確認役を一人添える
一、ずれが起きた時は、まず工程をたどり、人を責めるのは後にする
常盤が、妙に感心した声を出した。
「最後の一行、だいぶ効きます」
「効かないと困ります」
「兵庫の君、胸が痛うございますか」
「常盤」
「申し訳ございません」
まったく、この子はすぐ口が滑る。兵庫の君は、少し苦い顔をしたが、怒りはしなかった。自分でも分かっているのだろう。
私は千代に向き直った。
「千代」
「……はい」
「あなたにも直すところはあります」
千代の肩がびくりとする。でも、ここで全部免罪にはしません。それはそれで、かえって本人を宙に浮かせる。
「迷った時に、そのまま持っていかないこと」
「はい……」
「分からぬ時は、止めて尋ねること」
「はい」
「ただし、それができるよう、こちらも場を整えます」
「……はい」
千代の返事に、少しだけ力が戻る。よし、それでいい。
私は兵庫の君を見る。
「兵庫の君」
「……はい」
「あなたは場数が多い。だからこそ、新人がどこで迷うかを、一歩先に見てください」
「……」
「“そんなことも分からぬのか”ではなく“どこで分からなくなるか”を見るのです」
「はい」
兵庫の君は、さすがにそこでは頭を下げた。無駄に意地を張らないだけ、まだよい。大輔の君が静かに口を開いた。
「わたくしも、最終確認を曖昧にいたしました」
「ええ」
私は頷く。
「役が上になるほど、“自分は分かっている”と思いやすいものです」
「耳が痛うございます」
「聞こえるように言っています」
小少将が袖の陰で笑う。澄子は小さく「灯も同じです」と呟いた。
「何が」
「見えていると思った時ほど、影を落とします」
「あなたの例えはいつも灯ですね」
「はい」
少しずつ、皆が口を開き始める。
春枝が言った。
「包みも、一組のものは一緒に置いた方がよろしゅうございますね」
「ええ、採用します」
「まあ」
嬉しそうです。
有子は、
「控えの文にも、出す順だけでなく、どの器に添うかを小さく記しておきましょうか」
と言った。
「よいですね」
「では、そのように」
有子はこういう改善が早い。
若菜は、千代の肩をそっと撫でながら、
「急いでいる時ほど、息をひとつ置くようにした方が……」
と小さく言った。
「それも大事です」
私は答える。
「人は焦ると、知っていることから順に落とします」
前世でもそうでした。重大事故の後に「注意します」で終わるところは、たいていまたやります。でも、「どの順で」「誰が」「どこで確認するか」まで落としたところは、少しずつ変わります。
問題は、人を責める方が気持ちいいことなのです。改善より処罰の方が、一瞬だけすっきりする。でも、そのすっきりはたいてい高くつきます。
その夜、控えの間はいつもより静かでした。宴のあとの疲れもある。けれど、それだけではありません。皆、それぞれに今日のことを考えている顔だった。
千代はまだ少し目が赤かった。若菜が横について湯を持たせ、春枝がやわらかい紙を選んで鼻をかむよう勧めています。その紙選びにそこまで心を砕く必要があるのかは分かりませんが、春枝なりの慰めなのでしょう。
私は千代を呼んだ。
「こちらへ」
千代はおずおずと近づいてきた。
「今日は、怖かったですね」
そう言うと、千代はまた少し泣きそうな顔になった。でも今度は、昼のように一人でこらえる顔ではありません。
「……はい。わたくし、本当に、全部わたくしのせいかと……」
「そう思ったでしょうね」
「はい……」
私は扇を置いた。
「でも、違いました」
「……はい」
「だから、違うものを違うと言うのは、大事なのです」
「はい」
「ただし、あなたが何も悪くなかったわけでもありません」
「はい」
「そこも、分けて覚えてください」
千代はこくりと頷いた。
「わたくし……次は、迷う前に尋ねます」
「ええ」
「でも、また皆さまのお手を止めてしまったらと」
「止めていいのです」
私は言います。
「手を止めて一度確かめる方が、間違えて全部を止めるより軽い」
千代はその言葉を、まるごと胸に入れるように聞いていました。
「分からぬ時に止まれるのは、弱さではありません」
私は続ける。
「大きく崩さないための力です」
「……はい」
少し離れたところで、常盤が小声で言った。
「よい言葉です」
「広めないで」
「ええ、こっそり胸に留めます」
「あなたの胸はだいぶ口に近いでしょう」
「否定しにくうございます」
笑いが、やわらかく広がる。そこで意外にも、兵庫の君が近づいてきた。場が少しだけ緊張する。千代の肩も固くなる。
兵庫の君は、しばらく言葉を選ぶようにしてから、千代へ頭を下げた。
「先ほどは……少し、言いすぎました」
おや。そこまで来ましたか。千代が目を見開く。兵庫の君は、ぶっきらぼうなままだったが、続けた。
「急ぐ場では、つい強く申してしまいます。だが、あなたひとりへ寄せてよい話ではございませんでした」
「……」
「次からは、わたくしも指示を一つにいたします。迷ったら、その場で聞きなさい」
「は、はい……!」
千代は慌てて頭を下げた。声が少し裏返っている。かわいそうだけれど、少しだけ可愛いです。
若菜がほっと息をつく。有子もわずかに肩を抜いた。大輔の君は静かに頷いていた。
こういうのです。完璧な謝罪でなくてよい。でも、立場のある人が「ひとりのせいではなかった」と口にするのは大きい。その後、藤壺では宴の準備のしかたが少し変わった。
盃と文は、春枝が一組ずつ薄い紐でまとめて仮置きするようになった。有子は控えに小さな印を足し、大輔の君は持ち出し前に必ず復唱を入れる。兵庫の君は相変わらず口調はきつめだったが、指示を出す時は以前より短く、まとめて言うようになった。
そして千代の横には、しばらく若菜か有子のどちらかがつくことになった。罰ではない。保護でもない。育成です。
数日後、小さめの内輪の宴があった。本番ほどではないが、やはり持ち出しと順がものを言う場です。
その時、千代は途中でぴたりと手を止めた。
「……兵庫の君」
「何です」
「こちら、盃と文、順がこれでよろしゅうございますか」
兵庫の君が一瞬だけ見る。
「……よいです。行きなさい」
それだけのやりとりでした。でも、私は見ていました。千代が止まれたこと。兵庫の君が、止めたことを責めなかったこと。そして、そのあと何事もなく流れたことを。
それでいいのです。宴のあと、千代は少しだけ誇らしげな顔をしていた。若菜がそっと言う。
「今日は、お声をかけられましたね」
「……はい。怖うございましたけれど」
「でも、止まれました」
「はい」
春枝が横から口を出す。
「次は紙の包みの見分けも覚えましょう」
「えっ」
「大事です」
「春枝、それはいま急がなくてよいです」
「そうでございましょうか」
「だいぶ違います」
小少将が笑っている。
「藤壺は、失敗のあとに教えることが増えます」
「その方が得です」
私が言うと、
「得、で片づけますのね」
と小少将。
「失敗をただ痛い目で終わらせるのは、もったいないでしょう」
「……彰子様らしゅうございます」
夜更け、赤染衛門とその日の控えを見返しながら、私は小さく息をついた。
「今日は、だいぶ実務でございましたね」
赤染衛門が言う。
「ええ。たまには役に立つでしょう、こういうのも」
「たまに、ではなく、かなり」
「そうですか」
「新人を守る時、ことさら冴えておいでです」
「……そうかもしれません」
前世で何度も見たのです。失敗のたびに新人が折れ、古参だけが残り、やがてその古参も疲れ、なのに仕組みは変わらない場所を。あれは、だいぶ嫌な光景でした。
だからせめて、自分の手が届く範囲では、同じことを繰り返したくない。
「兵庫の君も、少しは分かってくださったでしょうか」
赤染衛門が問う。
「ええ。分かったと思います」
「ずいぶん強くお止めになりましたものね」
「新人を守る時は、少し強くなります」
「存じております」
赤染衛門は、やわらかく笑った。
「でも、千代だけを庇って終わらせなかったのが、今日のよいところでございました」
「はい」
「千代にも直すところを渡し、古参にも直すところを渡しました」
「その方が次へつながります」
「ええ」
私は扇を閉じた。失敗が起きた時、誰かひとりを悪者にするのは簡単です。簡単で、早くて、少しだけ気が済む。
でも、本当に場を守るのは、痛いところを人ではなく工程に見つけることです。誰が悪いか、より先に、
どこで曖昧になったか。何が重なったか。どうすれば次は止まるか。
そうやって仕組みを直していけば、失敗はただの傷ではなくなります。藤壺にはその日、また一つ新しいものが増えました。
誰かがつまずいた時、その人ごと落とさずに、次は皆で転ばぬよう支えるための、小さな手順が一つ。
〜 出典 〜
『紫式部日記』五十日の祝
御五十日は、霜月の朔日の日。例の、人々のしたてまうのぼりつどひたる御前の有様、絵にかきたる物合の所にぞ、いとよう似てはべりし。大納言の君、宰相の君、小少将の君、宮の内侍とてゐたまへり。右の大臣よりて、御几帳のほころび引きたちみだれたまふ。さだすぎたりとつきしろふも知らず。扇をとり、たはぶれごとのはしたなきも多かり。大夫、かはらけとりて、そなたに出でたまへり。美濃山うたひて、御遊び、さまばかりなれど、いとおもしろし。…
(訳)若宮(後の後一条天皇)の生後 五十日のお祝いは、十一月一日でした。いつものように、女房たちがすっかり着飾って御前に集まっているありさまは、まるで絵に描かれた「物合」の場面にとてもよく似ておりました。大納言の君、宰相の君、小少将の君、宮の内侍といった女房たちが並んで座っていらっしゃいます。そこへ右大臣(藤原顕光)が近寄ってきて、御几帳の布の隙間を無遠慮に引き開けて乱れさせなさいます。女房たちが「もういいお年なのに(みっともない)」と陰でつつき合っているのもご存知なく、女房の扇を取り上げたりして、見苦しい冗談を言うことも多くありました。大夫(藤原公任)は、杯を手にして、そちら(女房たちのいる方)へ出ていらっしゃいました。催馬楽の「美濃山」を歌って、管弦の遊び(演奏)が形ばかり行われましたが、たいそう趣深く素晴らしいものでした。……
※紫式部が、彰子が出産した敦成親王(後の後一条天皇)の誕生祝いの宴(産養や五十日の儀など)について、まるでイベント運営の業務報告書のように詳細に書き残しています。女房たちの配置や動き、粗相があってはならないという極度の緊張感の中、女房たちが衣装の乱れや手順に神経をすり減らしている様子が綴られています。…というVIP勢揃いの宴オペレーションという平安マニア垂涎のネタですので、この「五十日の儀」ググると凄い量のnoteやブログがヒットします。座席配置図を作ってる方…絵巻と物語を照合してる方…なんか皆さん楽しそうw
〜 舞台背景 〜
古典の日は、古典を顕彰する日本の記念日である。日付は11月1日。2012年に法制化された。同日から教育・文化週間が始まり、前後の時期に関連行事が行われる。紫式部日記の寛弘5年11月1日(1008年12月1日)の記述に、源氏物語の作者紫式部に対して、藤原公任が「あなかしこ、このわたりに若紫やさぶらふ」(そういえば、このあたりに若紫の姫君がいらっしゃるのでは)と語りかけたとある。「若紫」とは源氏物語の登場人物であることから、この記述は日本を代表する古典文学である源氏物語が歴史上はじめて記録されたものであることを根拠としている。このため、作家の瀬戸内寂聴、茶道裏千家前家元・千玄室(呼びかけ人代表)などが呼びかけ人となり、記述の日から千年目に当たる2008年(平成20年)の前年、2007年(平成19年)1月に京都府などを中心に立ち上げられた源氏物語千年紀委員会が、11月1日を古典の日とすることを提案した。2008年11月1日に記念式典を開催し、古典の日が宣言された。2012年(平成24年)、福田康夫元首相を会長とする超党派の「古典の日」推進議員連盟が3月に発足し、本格的に法制化へ動き出した。古典の日を祝日ではなく、国の制定する記念日とする法案が8月に議員立法で提出され、9月に施行された。出典:wikipedia




