七十七 葉公好龍、物語の読みすぎ注意
物語に憧れすぎた女房が、現実の蔵人を理想の若君に見立てて暴走する。彰子は「葉公、龍を好む」の故事を引き、物語は心を豊かにするが、現実認識を失えば危険だと諭す。推しと現実の男を分ける教育回。女房は失恋を回避し、あふれる思いを物語の創作へと昇華する。
物語は、人を救います。
これは本当です。退屈な日を越えさせてくれる。不安な夜に灯をともしてくれる。自分だけでは言葉にできなかった感情へ、名前を与えてくれる。誰かの苦しみを、遠い場所からそっと見せてくれる。
前世でも、私は何度も物語に助けられました。疲れきって帰った夜、何も考えたくなくて開いた本。明日も仕事だと思うと気が重いのに、続きを読みたくて少しだけ生きる気力が戻った物語。
現実があまりに世知辛い時、異世界でも宇宙でも過去でも魔法学校でも、どこか別の場所へ連れていってくれる文章。物語は、心の避難所です。
宮中でも同じです。女房たちは物語を読み、語り、写し、噂し、歌にし、衣の色にまで映します。
菅原の君など、物語がなければたぶん三日でしおれます。春枝は紙があれば生きていますが、物語の写しに良い紙を選ぶ時は、明らかに寿命が延びています。
紫式部は、物語を読む側ではなく作る側ですが、彼女の筆がどれほど人の心を深く掘るか、私はよく知っています。だから、物語を否定するつもりはありません。
ありませんが。物語は、現実の代わりにはなりません。ここは大事です。
物語は、現実を見る目を豊かにするものです。けれど、現実を見る目そのものを奪ってしまうと、危険です。
特に、恋愛が絡むと。人は、物語で読んだ「理想の君」を、現実の誰かへ勝手に重ね始めます。寡黙な人を「秘めた情熱の人」と思い込む。ただの無愛想を「心に傷を負った孤高の君」と解釈する。
一度目が合っただけで「運命」と決める。文の返事が遅いだけで「身分差に苦しんでいるのだ」と補正する。そして、相手本人ではなく、自分の中の物語を愛し始める。
危ない。たいへん危ない。
その日、藤壺に持ち込まれた問題も、それでした。発端は、菅原の君の悲鳴です。
「姫様、大変でございます!」
菅原の君が、珍しく物語を抱えて走り込んできました。いえ、珍しくはありません。物語を抱えているのは通常運転です。ただ、顔が真っ青なのは珍しい。
「どうしました」
「小萩が……小萩が、恋に落ちました!」
場が一瞬、静かになりました。常盤が即座に顔を上げます。
「恋ですか」
「常盤」
「流しません」
「まだ内容を聞いていない」
「先に誓っておきます」
よろしい。赤染衛門が眉間を押さえました。
「小萩とは、近頃、菅原の君と一緒に物語を読んでいた若い女房ですね」
「はい」
菅原の君は、今にも泣きそうです。
「たいへん熱心に物語を読む子で、感想もよく、登場人物の心を深く考える子で……」
「それは良いことでは?」
有子が首を傾げます。
「良いことです! 良いことでした!」
でした。過去形です。私は扇を開きました。
「何が起きたの?」
菅原の君は震える声で言いました。
「小萩が、現実の男房を、物語の理想の君と思い込んでおります」
常盤の目が光りました。
「詳しく」
「常盤」
「流しません。確認です」
菅原の君によれば、小萩は最近、ある恋物語に深くはまっていたそうです。内容は、身分ある姫君と、不遇ながら高潔な若君の恋。
若君は多くを語らず、いつも少し寂しげで、けれど本当は誰より誠実。姫君のために陰で尽くし、最後には自分の身を犠牲にして彼女を守る。
いかにも物語映えする人物です。小萩は、その若君にたいそう心を奪われました。そこまではよい。推しができることは、人生の潤いです。
問題は、その後です。小萩は宮中で、ある蔵人を見ました。名は、ここでは伏せます。その蔵人は、たしかに少し寡黙です。
宴の端で静かに控え、あまり笑わず、文を運ぶ時も淡々としている。背は高く、顔立ちも悪くない。ただし、私の目から見ると、寡黙というより単に眠そうです。仕事が多いのでしょう。
あと、返事が短いのは、深い思いを秘めているからではなく、単に筆まめではないからです。けれど小萩には、そう見えなかった。
「あの方は、物語の若君そのもの」
「沈黙の奥に、苦しみを隠しておられる」
「誰にも理解されず、孤独に耐えている」
「私だけは分かって差し上げたい」
危険な言葉が並びます。菅原の君は最初、微笑ましく見守っていたそうです。
「物語を深く読むあまり、少し重ねてしまっているのだろう」と。
けれど、小萩の行動は次第に暴走しました。蔵人が通る時間を調べる。その道筋に偶然を装って立つ。彼の衣の色から心情を読み解く。彼が落とした紙片を拾い、大事にしまう。返事も求められていないのに歌を送る。
しかもその歌が、物語の若君へ向けたような、たいへん重い内容なのです。
「それは……」
赤染衛門が目を閉じました。
「止めねばなりませんね」
「はい」
私は即答しました。
「今すぐ」
常盤が小声で言いました。
「でも、物語のような恋に憧れる気持ちは、少し分かります」
「分かります」
私はうなずきました。
「だからこそ止めるのです」
憧れは悪くない。理想を持つことも悪くない。
しかし、現実の相手に自分の物語をかぶせて、相手本人を見なくなるのは危険です。それは恋ではなく、投影です。
前世でいう「推し」と「現実の相手」を混同する状態です。推しは尊い。分かります。でも、推しは推し。
現実の人間は、寝不足にもなるし、字が汚いこともあるし、面倒な返事を後回しにすることもあるし、思ったより普通に機嫌が悪い日もあります。そこを見ずに、理想の人物像だけを重ねると、相手にも自分にも失礼です。
「唐土に、『葉公、龍を好む』という話があります」
菅原の君が、涙目のまま顔を上げました。
「異国の物語でございますか?」
「ええ。ある男の話です」
私は言いました。
「その男は、たいそう龍を愛していました。家中の壁や柱に龍の絵を描き、龍の彫り物をし、龍の物語を愛し、来る日も来る日も龍を夢見ていました」
「まあ……よほど好きだったのですね」
春枝が感心したように言いました。
「紙にも、さぞ立派な龍を描かせたのでしょうね」
紙から離れてください。
「その男の龍への愛は本物だと、天にいる本物の龍が聞きつけました。そして喜んで、男の家の窓から顔を覗かせたのです」
「なんと素敵な!」
菅原の君が両手を合わせました。
「思いが天に通じたのですね!」
「いいえ。男は、本物の龍を見るなり、顔を真っ青にして逃げ出しました」
場が、しんとしました。
「……逃げたのでございますか?」
若菜が不思議そうに首を傾げます。
「ええ。男が愛していたのは『本物の龍』ではありませんでした。自分が都合よく頭の中で思い描いていた『絵の龍』、つまり自分自身の妄想を愛していただけだったのです」
私は続けました。
「物語を愛する心が、現実を見る目を奪った時、人は自分で描いた龍しか愛せなくなります。そして、目の前にいる本物の相手が見えなくなる」
小少将が静かに言いました。
「見たいものだけを、見てしまうのですね」
「そう」
「衣も同じです。高貴な色を重ねすぎると、その方自身の肌の色が見えなくなります」
「よい例えです」
小萩は今、物語の衣を厚く着せすぎています。現実の男房本人の姿が、分からなくなっている。
「小萩を呼びましょう」私は言いました。
「叱るのですか?」
菅原の君が不安そうに尋ねます。
「叱ります」
小萩を傷つけたいわけではありません。けれど、ここで曖昧に慰めると、彼女はさらに深く物語へ入ってしまう。本人も、相手も、周囲も傷つきます。
しばらくして、小萩が連れて来られました。若い女房です。大きな目をしていて、少し頬が紅潮しています。手には、何枚もの歌の下書きらしき紙。ああ。完全に燃えています。
「小萩」
私が名を呼ぶと、小萩は深く頭を下げました。
「はい」
「あなたが、ある蔵人を物語の若君のように見ていると聞きました」
小萩の顔が一気に赤くなりました。
「そ、それは……」
「恋をするなとは言いません」
私は先に言いました。
「ただし、自分の頭の中の龍を見るのはやめなさい」
小萩が顔を上げました。
「龍……?」
「あなたが愛しているのは、現実のあの方ですか。それとも、あなたが物語の絵の具で塗り固めた『理想の君』ですか」
「私は、あの方を……あの方の沈黙の奥にある誠実さを、見ております。いつも寂しげで、誰にも心を開かず、それでも御用には誠実に」
「本人に聞いたの?」
「え?」
「寂しいと、本人が言ったの?」
「いえ、ですが、目が」
「誰にも心を開かないと、本人が言ったの?」
「それは……」
「誠実であることは、どの仕事で確認したの?」
小萩は黙りました。私は畳みかけません。ただ、ひとつずつ鏡を置きます。
「あなたが見ているのは、相手ですか。それとも、物語の若君ですか」
小萩の指が、紙を強く握りました。
「でも、物語と同じなのです。あの方が振り返った時の目が、若君が姫を思う場面と」
「似ていると感じたのね」
「はい」
「感じたことは否定しません」
私は言いました。
「でも、似ていることと、同じであることは違います」
小萩は唇を震わせました。
「私は、あの方を理解しているつもりで」
「理解ではなく、補完かもしれません」
「補完……」
「相手が語っていない部分を、あなたが物語で埋めています」
場が静かになりました。菅原の君も、胸を押さえています。彼女にも刺さっているのでしょう。
「推しと現実の男を分けなさい」
私は、思わず前世語で言いました。赤染衛門が眉をひそめました。
「おし?」
しまった。
「強く心を寄せる物語上の人物、です」
「なるほど」
菅原の君が妙に真剣に頷きました。
「推し……」
「広げない」
「はい」
「推しは、あなたの心の中で育ててもよい存在です。理想化してもよい。美しく飾ってもよい。何度でも都合よく解釈してもよい。なぜなら、相手は物語の中にいるから」
小萩はじっと聞いています。
「でも、現実の蔵人は違います。彼には彼の生活があります。疲れも、都合も、好みも、嫌なこともある。あなたの理想を背負うために生きているわけではありません」
その言葉で、小萩の目に涙が浮かびました。
「私は……迷惑をかけていたのでしょうか」
「まだ引き返せます」
私は言いました。
「だから、今止めます」
赤染衛門が静かに筆を取りました。
「心得を作りますか」
「作ります」
春枝が紙を選ぼうとしました。
「物語と現実の心得なら、どの紙が」
「今回は普通の紙で」
「なぜですか」
「普通が大事だから」
春枝は少し考え、頷きました。
「では、飾りの少ない、書きやすい紙にいたします」
よろしい。
赤染衛門が題を書きます。
――物語と現実の心得。
一、物語の人物と現実の人を同一にせぬこと。
一、相手が語っていない心を、勝手に物語で埋めぬこと。
一、偶然を運命と決めつけぬこと。
一、返事のない文を重ねぬこと。
一、相手の行動を、自分に都合よく解釈し続けぬこと。
一、推しは心を豊かにするもの、現実の人は尊重するものと心得ること。
一、あふれた物語は、相手へ押しつけず、創作へ向けること。
小萩が、最後の一文で顔を上げました。
「創作へ……」
「はい」
私はうなずきました。
「あなたの中に、それほど強い若君像があるなら、現実の蔵人へ背負わせるのではなく、自分で物語にしなさい」
菅原の君が、はっとしました。
「小萩は、感想がとても上手なのです。人物の心を読むのも深くて」
「なら、書けます」
小萩は慌てました。
「私などが物語を書くなど」
「最初から上手くなくていいのです」
紫式部が、几帳の陰から静かに言いました。小萩がびくりとします。紫式部は続けました。
「見たいものが強くあるなら、それを人に押しつけるのではなく、紙の上に置きなさい。紙は迷惑がりません。破れば怒りません。直せば変わります」
春枝が小声で言いました。
「ただし、紙にも向き不向きが」
「春枝」
「はい、黙ります」
紫式部の言葉は、静かでした。けれど、小萩の胸に届いたようでした。涙が一粒、膝に落ちます。
「私、あの方ではなく、私の中の若君を見ていたのですね」
「そうかもしれません」
「恥ずかしいです」
「恥ずかしさで済んでよかった」
私は言いました。
「相手を追い詰めたり、自分が傷つきすぎたりする前でよかった」
小萩は、何度も頷きました。
「文は、もう送りません」
「よろしい」
「落とされた紙も……お返しします」
「それは今すぐ」
「はい……」
常盤が小声で言いました。
「落とした紙を拾って保管は、なかなか」
「常盤」
「流しません」
「夢にも」
「流しません」
その後、小萩は蔵人へ、簡単な詫びの文を出しました。もちろん、重い恋文ではありません。
「以前、拾った紙を保管していたことをお詫びし、お返しします。今後は御用の妨げにならぬよう慎みます」
それだけです。赤染衛門が無駄な情緒を削り、小少将が紙の選び方を地味にし、春枝が「地味すぎても失礼」と調整しました。
蔵人からは、短い返事がありました。
「承知した。お気遣いなく。以上。」
本当に短い。これを以前の小萩なら、「多くを語れぬ苦しみ」と読んだかもしれません。けれど、今の小萩は違いました。返事を見て、少し笑いました。
「普通に、短い方なのですね」
「そうです」
私は言いました。
「それが現実です」
「思ったより……軽いです」
「それも現実です」
失恋というほどの恋に育つ前でよかった。失恋未満。物語から現実へ戻る時、そのくらいで済むなら上出来です。
その日から、小萩は少しずつ物語を書き始めました。最初は、菅原の君のそばで、感想の延長のような短い場面。
寡黙な若君が、実は寡黙なのではなく、言葉を選びすぎて何も言えなくなる人だった、という話。姫君は、若君の沈黙を勝手に美化せず、毎回「今、何を考えているのですか」と聞く。若君は困りながらも、少しずつ答える。
派手な恋ではありません。でも、以前の小萩が書きそうだった「孤独な若君を私だけが分かる」話より、ずっとよい。相手に心がある。相手が都合よく理想化されていない。
菅原の君は感動していました。
「小萩、これはよいです! 沈黙をすぐ深い愛にしないところが新しいです!」
「そこなのですね」
小萩は照れながら笑いました。紫式部も、几帳の陰で一言だけ言いました。
「問いがあるのは、よいことです」
小萩は、その一言で泣きそうになっていました。
よかった。現実の蔵人へ向かっていた熱が、紙の上へ移った。これは健全です。前世でも、推しへの情熱が絵や小説や考察や手芸に昇華されることはありました。
人は、強い感情を持った時、それをどこへ流すかが大事です。相手本人にぶつければ、迷惑になることがある。自分の中に閉じ込めれば、苦しくなることがある。けれど、創作にすれば、誰かの楽しみになることもある。
もちろん、創作にも節度は必要です。実在の人を勝手にさらしすぎない。相手が分かる形で書きすぎない。現実の秘密を物語に混ぜすぎない。そのあたりも、心得へ追加しました。
――創作へ向ける時の心得。
一、実在の相手が分かる形で書きすぎぬこと。
一、相手の秘密を勝手に物語へ混ぜぬこと。
一、理想を描くなら、現実の誰かに背負わせぬこと。
一、書いた後、自分の心が少し軽くなるか確かめること。
赤染衛門が満足そうに頷きました。
「これなら、物語を禁じずに済みますね」
「禁じるのは違います」
私は言いました。
「物語は悪くありません。読みすぎて現実を失うのが危ないだけです」
菅原の君が、しみじみと頷きました。
「私も、気をつけます」
「あなたは特に」
「はい……」
「悲恋の気配がすると、すぐ火鉢になるから」
「火鉢」
常盤が吹き出しました。
「常盤もです」
「私も?」
「噂を物語にしすぎます」
「はい……」
それぞれの危険があります。菅原の君は物語に酔う。常盤は噂を育てる。春枝は紙を増やす。若菜は灰を見すぎる。小少将は衣で相手の人生まで読もうとすることがある。赤染衛門は、すべてを記録しようとする。私も、前世知識で何でも管理表にしようとする。
人は皆、見たい枠を持っています。大事なのは、その枠を自覚することです。
異国の男は、自分が描いた理想の枠で龍を愛しました。その目には、都合よく彩られた壁の絵だけが美しく見え、目の前に現れた生身の龍は恐ろしい化け物に見えた。それは滑稽で、少し哀しく、そして他人事ではありません。
私たちも、同じことをします。恋物語を読めば、現実の沈黙に深い意味を見たくなる。悲劇を読めば、障害のある恋を尊く見たくなる。英雄譚を読めば、誰かの無謀を勇気と呼びたくなる。宮中物語を読めば、ちょっとした仕草に運命を読みたくなる。
でも、現実の人は、物語の役を演じるために生きているわけではありません。その人は、その人です。眠い時は眠い。忙しい時は返事が短い。優しい時もあれば、鈍い時もある。高潔に見えて、ただ不器用なだけかもしれない。冷たく見えて、単に腹が減っているだけかもしれない。
現実は、物語よりずっと雑で、ずっと細かく、ずっと面倒です。だからこそ、面白い。
その日の夜、藤壺の文箱には「物語と現実の心得」が納められました。飾りの少ない、普通の紙。春枝は少し物足りなさそうでしたが、最後には納得していました。
「普通の紙だからこそ、何度も読み返せますね」
「そうです」
若菜が香炉の灰を整えます。香は薄く、現実の匂いを消さない程度。澄子が灯を少し下げ、小萩は菅原の君の隣で、初めての物語の続きを書いています。
その横顔は、まだ少し恥ずかしそうで、けれど落ち着いていました。失恋は回避されました。暴走も止まりました。そして、物語への憧れは、別の物語を生み始めています。
これでいい。物語は、現実から逃げるためだけのものではありません。現実へ戻る力をくれるものでもある。
推しは、心を豊かにする。現実の人は、尊重する。その二つを混ぜなければ、物語は呪いではなく、灯になります。
藤壺の灯は、その夜も静かに揺れていました。絵に描いた竜を、現実の相手に押しつけないために。寡黙な蔵人を、理想の若君にしないために。そして、あふれた憧れを、誰かの袖へ絡ませるのではなく、紙の上へそっと置くために。
私は、小萩の筆が動く音を聞きながら、心の中で小さく呟きました。
物語を読むな、ではありません。物語を読みすぎて、現実の人を見失うな。
推しは推し。現実の男は、現実の男です。
〜 出典 〜
『新序』雑事五 葉公好龍
葉公子高好龍、鉤以写龍、鑿以写龍、屋室彫文以写龍。於是夫龍聞而下之、窺頭於牖、拖尾於堂。葉公見之、棄而還走、失其魂魄、五色無主。是葉公非好龍也、好夫似龍而非龍者也。
(訳文)楚国(春秋戦国時代)の葉という県の領主であった子高は大の龍好きで、帯の留め具にも龍を描き、酒器にも龍を描き、家の中の彫刻にも龍を描いていました。すると、この噂を聞きつけた本物の龍が天から降りてきて、窓から頭をのぞかせ、座敷に尾を引きずりました。葉公はこれを見るなり、すべてを放り出して逃げ惑い、魂を抜かれたように腰を抜かし、顔面蒼白になってしまいました。結局のところ、子高は本物の龍が好きだったわけではなく、絵や彫刻などの偽物の龍が好きだっただけなのです。
〜 舞台背景 〜
『新序』(しんじょ)は、前漢の劉向による故事・説話を集めた書物であり、おなじ劉向による『説苑』(ぜいえん)とよく似た内容を持っている。唐以前の書はみな二〇巻とあるが、宋以後、伝えるところはみな十巻とある。現行本は10巻で構成され、全部で181章からなる[3]。ある程度内容によって分類されている。最初の5巻は「雑事」と題がついている。6巻以降は「刺奢」「節士」「義勇」「善謀」「善謀下」となっている。多くは先秦の話であるが、最後の巻10は漢代の逸話を述べる。出典:wikipedia




