七十四 万葉集、身分を越えた話芸大会
身分の低い使用人が面白い話を知っているが、女房たちは聞く価値がないと見下す。彰子は、天皇から防人まで身分を越えて等しく言の葉を収めた『万葉集』の精神にならい、話芸大会を開く。下働きの話が最も面白く、公卿まで笑う。身分マウントが一時停止し、語る力そのものが評価される。彰子の場の懐の深さが示される。
人は、話を聞く前から、話の価値を決めてしまうことがあります。
誰が語るか。どの家の者か。どの身分か。どの衣を着ているか。どの席に座っているか。
声の前に、肩書きを聞く。言葉の前に、出自を見る。
前世でも、ありました。会議で、若い人がまっとうな意見を言っても流される。同じことを偉い人が言うと、急に「さすが」となる。
現場の人が危ないと言っても聞かれない。後からコンサルが横文字で言うと、なぜか資料に載る。
実に不思議です。いえ、不思議ではありません。単に、腹立たしいだけです。
そして平安宮中は、そういうものがたいへん濃い場所でした。
血筋。家柄。後ろ盾。父の官位。母の出自。仕える御殿。着ている衣の色。座る位置。文の紙質。香の強さ。何から何まで、身分と格がついて回ります。
もちろん、秩序は必要です。誰がどこに座るのか。誰が誰に直接言葉をかけられるのか。どの順番で物を渡すのか。そういう決まりがなければ、宮中はすぐに混乱します。
けれど。秩序と見下しは違います。礼儀と蔑みは違います。身分を守ることと、相手の言葉を聞かないことは、まったく別の話です。
その日、藤壺では、前回から続く「御籠もり語りの会」が、すっかり日課になっていました。
疫病の噂で行事が縮小され、人の出入りが減ったために始めた、小さな物語会です。
一日一人、短い話を語る。
怖すぎず、長すぎず、誰かを傷つけすぎず、最後に少し笑えるか、心が軽くなること。最初は不安を和らげるためでした。
けれど、数日も経つと、女房たちはすっかりこの会を楽しみにするようになっていました。菅原の君は毎朝から題を考えています。
春枝は語りの記録に使う紙を選びすぎて、赤染衛門に箱を没収されました。
若菜は語りの時間に合わせて香を整え、澄子は灯と風の通りを見ています。
常盤は噂を物語に混ぜたくて仕方ない顔をしていますが、毎回、赤染衛門に「事実と作り話を分けなさい」と釘を刺されています。
よいことです。
ところが、その日、少し困ったことが起きました。
昼過ぎ。
局の外で、若い下働きの女が笑いを堪えきれずに肩を震わせていました。
手には水桶。
袖は少し濡れていて、髪も女房たちのように整ってはいません。
名は、たえ。
藤壺の水仕事や掃除を手伝っている、まだ年若い使用人です。
常盤が、それを見逃すはずがありません。
「たえ、何を笑っているの?」
たえは慌てて頭を下げました。
「いえ、何でもございません」
「何でもない笑い方ではなかったわ」
「本当に、大したことでは」
「大したことかどうかは、聞いてから決めます」
常盤、そういうところです。噂好きの執念が強い。
たえは困ったように水桶を抱え直しました。
「昨夜、門のあたりで聞いた話が、少しおかしくて……」
「話?」
その言葉に、菅原の君の耳が動きました。物語係は、話という単語に弱い。
「どのような話ですか?」
菅原の君が身を乗り出すと、たえはますます小さくなりました。
「いえ、私などが申し上げるようなものではございません。下々の、くだらない話で」
その時、近くにいた女房の一人が、扇で口元を隠しながら笑いました。
「まあ、下働きの話など、聞いてどうなさるの」
別の女房も続きます。
「御籠もり語りの会と申しても、語るのは女房たちでしょう」
「雑仕の笑い話では、御前が汚れますわ」
「言葉遣いも怪しゅうございましょうし」
空気が、すっと変わりました。たえの肩が、さらに縮こまります。
菅原の君は、言い返したそうに口を開きかけましたが、身分の差を前に迷っています。常盤も、噂は聞きたいのに、場の空気をどう扱えばよいか分からない顔です。
赤染衛門は眉間を押さえました。紫式部は几帳の陰で筆を止めています。
私は、扇を開きました。
ぱさり。
その音で、場が静かになりました。
「話が、身分で汚れるのですか」
私が尋ねると、女房たちははっとこちらを向きました。
「い、いえ、中宮様。そういう意味では」
「では、どういう意味です?」
「その……御前で語るには、ふさわしさというものが」
「ふさわしさ」
便利な言葉です。前回の「風流」と同じくらい便利です。人は、自分の偏見を直接言いたくない時、「ふさわしくない」と言います。「ふさわしくない」と言えば、相手を傷つけているのではなく、場を守っている顔ができる。
けれど、その内側にあるものを見れば、だいたい身分マウントです。私は、たえを見ました。
「たえ」
「は、はい」
「その話は、人を傷つける話?」
「いえ、その、少し間抜けな男の話でございます」
「病を笑いものにする?」
「いいえ」
「誰かの実名を出す?」
「出しません」
「では、聞く価値があります」
女房たちがざわめきました。
「中宮様、ですが」
「我が国の古き書に、『万葉集』という言の葉の集がありますね」
赤染衛門が、はっとした顔をしました。菅原の君の目は、一瞬で輝きました。
「古き時代の、名高き歌集でございますね!」
「ええ。あの集には、帝や公卿の歌だけでなく、名もなき防人や、土を耕す農民たちの歌までが共に収められています」
「防人や、農民の……」
「高貴な者の雅な恋歌もあれば、庶民の泥臭い生活の歌もある。上品な言葉ばかりではありません。けれど、あの集の中では、帝の歌も庶民の歌も等しく扱われ、ただ心を打つ『言の葉の力』が問われています」
「言の葉の力……」
菅原の君が、うっとりと繰り返しました。
「話とは、語り手の身分だけで決まるものではありません」
私は言いました。
「よい話は、どこからでも来ます。台所からも、門のそばからも、牛車の陰からも、紙箱の隙間からも」
「紙箱からも?」
春枝が反応しました。
「比喩です」
「はい……」
「身分が高ければ、必ず面白い話ができるわけではありません。逆に、身分が低いからつまらないとも限らない」
その言葉に、一部の女房たちが気まずそうに目を伏せました。私は続けます。
「そこで、今日の御籠もり語りの会は、少し形を変えます」
赤染衛門が筆を構えました。こういう時の対応が早い。
「題して、身分を越えた話芸大会」
「姫様」
「だめ?」
「だめではございませんが、かなり直截です」
「では、万葉語りの会」
「そちらで」
赤染衛門は、迷わず後者を書きました。
――万葉語りの会。
内容は、こうです。
一人一話。
語り手の身分で順を決めない。話の長さは短く。実名で人を貶めない。下品さだけで笑いを取らない。ただし、庶民の言葉や暮らしを無理に雅に直さない。聞く者は、語り手を見下さず、話そのものを聞く。評価するのは、家柄ではなく、語りの面白さ。
「評価、でございますか」
小少将が興味深そうに言いました。
「はい。最後に、もっとも場を明るくした話を選びます」
「褒美は?」
常盤が尋ねます。
「褒美……」
私は考えました。金品を出すと、また面倒なことになります。身分差のある場で褒美を渡すのは、扱いを間違えると波風が立つ。
「今日は、勝者の話を春枝がよい紙に写し、藤壺の文箱に残します」
春枝の顔が輝きました。
「よい紙でございますか」
「一枚だけ」
「……承知いたしました」
今、一瞬、三枚くらい選ぼうとしましたね。
見えています。
旅語りの会は、その夕刻に開かれました。いつもの女房たちだけではありません。水仕事を手伝う者。灯を替える者。掃除をする者。文を運ぶ童。厨房に近い者。
普段は御簾の内に長く留まらない者たちも、少し離れた位置に座りました。もちろん、席は秩序を崩しすぎないよう整えます。
礼儀は守る。けれど、声は届く。この加減が大事です。澄子が灯を控えめに置き、若菜が香を薄く焚きました。香が強すぎると、下働きの者たちが緊張します。
小少将は、たえが立つ場所の足元に小さな敷物を置きました。
「冷えるでしょう」
「ありがとうございます……」
たえは、泣きそうな顔で頭を下げました。小少将は何でもない顔をしています。こういうところ、本当にさりげない。
初めに語ったのは、菅原の君でした。さすがに場を整える役です。
彼女は、旅の途中で自分の荷物を褒めすぎた男が、最後に荷物と入れ替わって牛に運ばれるという、よく分からないけれど勢いのある話をしました。
女房たちは笑いました。下働きの者たちも、遠慮がちに笑いました。
次に春枝。紙問屋の娘が、あまりに紙を愛しすぎて、恋文の内容より紙質で相手を選ぶ話。これは春枝にしか語れない話です。
「最後、その男はどうなったの?」
常盤が尋ねると、春枝は真顔で言いました。
「紙質はよかったのですが、墨の吸いが悪かったので、お断りしました」
「そこなのね」
私は呟きました。赤染衛門が少し笑いました。
若菜は、香木を自慢しすぎた貴人が、香の名前を間違え続け、ついに香炉の灰にくしゃみで叱られる話をしました。灰が叱る展開が多いですね、若菜。でも面白いのでよいです。
そして、いよいよ、たえの番になりました。たえは立ち上がったものの、膝が震えています。
「無理に雅な言葉にしなくていいわ」
私は声をかけました。
「あなたが聞いた時のまま、分かるように語って」
「……はい」
たえは深く息を吸いました。
「これは、門番の知り合いの、そのまた知り合いの男の話でございます」
常盤が目を輝かせました。
「出所が遠いわね」
「でも物語として聞きます」
私は釘を刺しました。たえは少し笑い、話し始めました。
「あるところに、たいそう見栄っ張りな男がおりました。男は、たいした官もないのに、自分は宮中の奥の奥まで顔が利くと、町で言いふらしておりました」
数人の女房が、すでに笑いを堪えています。そういう男、います。
「男はある日、酒の席で申しました。『私は帝のおそばに召されるほどの者だ。御簾の内のことも、何でも知っている』と」
たえは、少しずつ調子を取り戻してきました。声に間が生まれます。
「すると、隣にいた老婆が言いました。『それほど奥に出入りなさるなら、うちの鶏が逃げたのを見ませんでしたか』」
女房たちが吹き出しました。
「男は負けじと申しました。『見たとも。たいそう立派な鶏であった。ちょうど中宮様の御前を歩いていた』」
藤壺の空気が揺れました。たえの目が少し輝きます。
「老婆は驚いて申しました。『まあ、うちの鶏は出世したものだ。では、戻ってきたら、御所帰りの鶏として高く売れますな』」
常盤が膝を叩きそうになり、赤染衛門に睨まれて止まりました。
「男はさらに調子に乗りました。『その鶏は、帝から直々に米を賜っていた』と」
ここで、たえは一拍置きました。間がうまい。
「すると老婆は言いました。『では、その米代を払っていただきましょう。うちの鶏は、ただ飯を食うようには育てておりません』」
爆笑。
といっても、御前なので皆、扇や袖で口を隠しています。しかし、肩が震えています。小少将まで笑っています。若菜は香炉の灰をこぼさないよう必死です。春枝は笑いすぎて紙を落としました。
「男は慌てて、『いや、実はそこまで奥へは行っていない』と申しました。老婆はすかさず、『では、うちの鶏の居場所を知らぬのですね』」
たえは、また一拍置きました。
「男は『知らぬ』と答えました。老婆は言いました。『では、知らぬことを知っているように言う口だけは、宮中の奥より深いようで』」
今度こそ、場が崩れました。
「口だけは奥より深い!」
常盤がとうとう声を出して笑いました。赤染衛門も扇で口元を隠していますが、目が笑っています。菅原の君は涙目です。紫式部は几帳の陰で肩を震わせています。
そして、その時。ちょうど用件で藤壺に立ち寄った公卿の一人が、御簾の外で足を止めました。
名は控えます。ええ、控えます。ただ、普段はとても偉そうな方です。その方が、たえの最後の一言を聞いてしまったらしい。
「知らぬことを知っているように言う口だけは、宮中の奥より深い……」
低く繰り返した後。
「ふっ」
笑いました。御簾の外で。公卿が。下働きの女の話に。それは小さな笑いでしたが、場にとっては十分すぎる事件でした。
女房たちが目を丸くします。たえは真っ青になりました。自分が何か失礼をしたと思ったのでしょう。しかし、その公卿は咳払いを一つして、わざとらしく言いました。
「なかなか、機知がある」
それだけ言って、用件を済ませ、去っていきました。
静寂。
そして、常盤が小声で言いました。
「勝ちましたね」
「何に?」
赤染衛門が聞き返します。
「身分を越えました」
「常盤」
「流しません」
「今のは流してもよいのでは?」
「姫様?」
赤染衛門に睨まれました。
いけません。私まで乗ってしまいました。けれど、正直、気分はよかったのです。身分の低い使用人の話を、女房たちが笑い、公卿まで笑った。
それは、秩序が壊れたわけではありません。誰も席を乱していない。誰も礼を失っていない。ただ、一瞬だけ。話の面白さが、身分を追い越したのです。
私は扇を閉じました。
ぱちり。
「今日の一番は、たえですね」
たえは目を見開きました。
「わ、私でございますか」
「はい。間がよかった。老婆の切り返しもよかった。何より、見栄を張る者の弱さを、嫌味になりすぎず笑いに変えた」
たえは、どうしてよいか分からない顔で頭を下げました。
「もったいないお言葉でございます」
「春枝」
「はい!」
春枝はすでに紙を抱えていました。早い。
「一枚だけ」
「……はい」
「たえの話を、分かりやすく写して。言葉は直しすぎないこと。町の味を消さないで」
春枝は真剣にうなずきました。
「承知いたしました。よい紙に、しかし気取りすぎぬように」
「赤染衛門、心得を」
「もう書き始めております」
さすがです。
――万葉語りの心得。
一、語り手の身分で話の価値を決めぬこと。
一、場の礼は守り、声の道は閉ざさぬこと。
一、庶民の言葉を無理に雅へ直しすぎぬこと。
一、笑いは上から投げず、共に受け取ること。
一、実名で人を貶めぬこと。
一、機知を見つけたら、身分に関わらず褒めること。
一、語る力を、語り手本人の尊厳ごと扱うこと。
有子が清書しながら、ぽつりと言いました。
「話は、どこにでもあるのですね」
「ええ」
私はうなずきました。
「御簾の内だけにあるものではありません」
紫式部が静かに言いました。
「むしろ、御簾の外の方が、人はよく転びます」
「式部様」
菅原の君が震えました。
「それ、物語に」
「します」
今回は止めませんでした。紫式部は、少しだけ口元を緩めました。
「ただし、誰の話か分からぬように」
よろしい。その後、旅語りの会は何度か開かれました。灯を替える童が、火を怖がる鼠の話をしました。
厨房近くの女が、粥を薄めすぎた男が、最後には水を食べる羽目になる話をしました。文を運ぶ者が、恋文を取り違えたふりをして自分の失敗を笑いに変えました。
女房たちは、最初こそ戸惑っていました。けれど、次第に変わっていきました。
「その言い回し、面白いですね」
「町では、そのように申すのですか」
「今の間の取り方、もう一度」
「その老婆、強いですね」
下働きの者たちも、少しずつ顔を上げるようになりました。もちろん、身分差が消えたわけではありません。翌日になれば、席順は戻ります。
言葉遣いも戻ります。命じる者と従う者の関係も残ります。一度の話芸大会で、世の中がひっくり返るほど簡単ではありません。
けれど。少なくとも藤壺では、声の価値を身分だけで決めることに、少しだけためらいが生まれました。
それは小さな変化です。でも、小さな変化ほど、場の底を支えます。
前世でも、そうでした。現場の人が言った危険。若手が出した違和感。事務の人が気づいた穴。掃除の人が見つけた異変。それを、立場が低いからと聞き流す組織は、いつか大きな失敗をします。
逆に、声を拾える場は強い。誰が言ったかではなく、何を言ったか。どの身分かではなく、何を見ているか。どの席に座るかではなく、どんな言葉を持っているか。
「姫様」
会が終わった後、たえがそっと近づいてきました。
「本日は、ありがとうございました」
「面白かったのは、あなたの話です」
「でも、私などが御前で話すなど、思いもよりませんでした」
「緊張した?」
「はい。膝が消えるかと思いました」
「膝は消えないわ」
「消えそうでした」
たえは真剣でした。私は少し笑いました。
「また面白い話を聞いたら、教えて」
「私が、でございますか」
「ええ。ただし、実名で人を困らせる話はだめ。誰かを傷つけるだけの話もだめ。笑った後に、少し息がしやすくなる話がいい」
たえは、何度も頷きました。
「覚えておきます」
その背中を見送ると、赤染衛門が隣に来ました。
「姫様は、場を広げるのがお上手ですね」
「広げすぎると怒られるけれどね」
「今日は、よい広がりでございました」
珍しく褒められました。ありがたい。
「ただし」
来た。
「次に公卿が御簾の外で笑った件を、常盤が広げぬように」
「常盤」
私が呼ぶと、常盤はすでに逃げる姿勢でした。
「流しません!」
「夢にも」
「流しません!」
「公卿の名も」
「伏せます!」
「たえの名も、勝手に外へ売らない」
常盤は、少しだけ不満そうにしながらも頷きました。
「でも、よい話でしたのに」
「よい話だからこそ、守って広げるの」
私は言いました。
「話は、語り手から奪ってはいけません」
常盤は、その言葉に少し驚いた顔をしました。
「噂と違うのですね」
「違います。噂は勝手に走る。物語は、語り手の手を離す時にも礼が要ります」
紫式部が几帳の陰で、小さくうなずきました。
その日の夜。春枝が清書した、たえの話が文箱に納められました。紙は上等すぎず、粗末すぎず。文字は読みやすく、けれど、老婆の言葉だけは少し町の調子を残してある。よい仕上がりでした。
題は、赤染衛門がつけました。
――口だけは宮中の奥より深き男の話。
少し長い。でも、よい題です。私はその文を見ながら、静かに思いました。
宮中は、声に身分を着せたがります。高い声。低い声。聞くべき声。聞かなくてよい声。
けれど、本当に場を救う言葉は、思わぬところから来ます。水桶を持つ手から。厨房の湯気の向こうから。門のあたりの笑い話から。御簾の外で暮らす人々の、転んで、笑って、また立つ日々から。
万の言の葉が、身分を越えて一つの集に書き留められたように。藤壺でも、その日だけは、話の面白さが身分の壁を少しだけ飛び越えました。
完全に壊したわけではありません。そんな簡単なものではありません。けれど、一時停止はできた。身分マウントを、ぱちりと止めて。代わりに、皆で笑いました。それだけでも、宮中では十分に事件です。
藤壺の文箱には、また一つ、新しい話が増えました。そして女房たちは、ほんの少しだけ覚えました。話の価値は、語り手の袖の色だけでは決まらない。
笑いは、上から与えるものではなく、同じ場で受け取るもの。語る力は、人の尊厳と一緒に扱うもの。
その夜、藤壺の灯は、御簾の内と外のあわいを、いつもより少し広く照らしていました。
〜 出典 〜
『万葉集』東歌/巻14・3399
信濃路は 今の墾道 刈りばねに 足踏ましなむ 沓はけ我が背 (詠み人知らず)
(訳)信濃への道は、切り開かれたばかりの新しい道。切り株で足を怪我してしまうかもしれないから、どうか靴を履いていってね、あなた。
※旅立つ夫を気遣う妻の愛情を詠んだ歌です。技巧を凝らした貴族の歌とは違う、名もなき庶民の妻の泥臭くも真っ直ぐな愛情。こういった飾らない言葉が天皇の歌と同じ書物に遺されている事実に、万葉集の面白さがあります。だ、そうですw
〜 舞台背景 〜
「万葉集」(まんようしゅう、まんにょうしゅう、旧字体: 萬葉集)は、奈良時代末期に成立したとみられる日本に現存する最古の和歌集である。万葉集の和歌はすべて漢字で書かれている(万葉仮名を含む)。天皇、貴族から下級官人、防人(防人の歌)、大道芸人、農民、東国民謡(東歌)など、さまざまな身分の人々が詠んだ歌が収められており、作者不詳の和歌も2100首以上ある。7世紀前半から759年(天平宝字3年)までの約130年間の歌が収録されており、成立は759年から780年(宝亀11年)ごろにかけてとみられ、編纂には大伴家持が何らかの形で関わったとされる。完本では鎌倉時代後期と推定される西本願寺本万葉集がもっとも古い。和歌の原点である万葉集は、時代を超えて読み継がれながら後世の作品にも影響を与えており(一例「菟原処女の伝説」)、日本文学における第一級の史料であるが、方言による歌もいくつか収録されており、さらにその中には詠み人の出身地も記録されていることから、方言学の資料としても重要な史料である。日本の元号「令和」は、この万葉集の「巻五 梅花の歌三十二首并せて序」の一節を典拠とし、記録が明確なものとしては日本史上初めて元号の出典が漢籍でなく日本の古典となった。出典:wikipedia




