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転生皇后 藤原彰子 〜 欠けることのない望月の世は私が創る 〜  作者: 条文小説


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28/99

二十七 泣く女房、笑う彰子

挿絵(By みてみん)


 新人女房が古参から雑用を押しつけられ、泣いている。彰子は『落窪物語』の継子いじめのような構図だと見抜き、雑用を可視化する表を作る。誰が何をどれだけしているか明らかになると、古参女房の搾取が露見。彰子は罰するのではなく、仕事を公平に分配し、得意分野で評価する制度を作る。

 いじめは、たいてい美しくありません。


 当たり前です。


 美しいいじめなど、あってたまるものではありません。けれど宮中では、ときどきそれが美しい布に包まれます。


 指導。作法。慣例。年長者の教え。若い者への試練。御殿のため。姫様のため。


 そういう言葉をかぶせると、ただのいじめが少しだけ正当なものに見えてしまう。


 前世でもありました。


 新人だから雑用は当然。若いのだから動いて。まだ仕事が分からないのだから、これくらいやって。先輩の背中を見て覚えて。私たちも昔はそうだった。


 はい。出ました。


 「私たちも昔はそうだった」。


 危険な言葉です。自分が苦しんだことを、次の人にも味わわせる理由にしてしまう。もちろん、雑用そのものが悪いわけではありません。


 誰かが部屋を整える。紙を運ぶ。水を用意する。灯を替える。使った道具を片づける。文を届ける。香炉を掃除する。そうした仕事がなければ、御殿は回りません。雑用は、御殿の土台です。


 問題は、それが見えないことです。


 見えない仕事は、軽く扱われる。軽く扱われる仕事は、弱い人に押しつけられる。押しつけられた人は疲弊する。疲弊しても、誰も気づかない。


 これが、いじめになります。


 感情の問題だけではありません。業務設計の問題です。


 ……などと言うと、赤染衛門に「また御殿を役所になさるのですか」と言われそうですが、今回は言わせてもらいます。


 いじめは、業務設計で潰せます。少なくとも、潰せる部分があります。


 その新人女房が泣いていたのは、藤壺の北側にある小さな控えの間でした。名前は、若菜。最近入ったばかりの女房です。家柄は高くありません。でも、動きが丁寧で、物を扱う手つきが柔らかい。声も控えめで、新入りらしく何でも一生懸命に覚えようとしていました。


 ただ、少し気が弱い。頼まれると断れない。


 嫌と言う前に、自分が我慢すれば済むと思ってしまう。私は、気になっていました。こういう子は、雑用を抱え込みやすい。そして案の定です。常盤が最初に気づきました。


「姫様。若菜殿が、近頃ずいぶん疲れております」


「何をしているの?」


「雑用が多すぎます」


「誰の分?」


「……いろいろな方の分を」


 常盤の言い方に、含みがありました。


「いろいろ?」


「はい。特に古参の一部女房から、細かな用をかなり頼まれているようです」


 赤染衛門が、眉を寄せました。


「大輔の君や弁の君ではございませんね」


「違います。教育係の方々ではなく、役目が少し曖昧な古参の女房たちです」


 私は扇を置きました。役目が曖昧な古参。危険です。


 役割が明確な人は、自分の仕事に責任を持ちやすい。


 けれど役割が曖昧な人は、自分の存在価値を守るために、下の者へ支配的になることがあります。


 もちろん全員ではありません。でも、起こります。


「若菜を呼んで」


「はい」


 しばらくして、若菜が来ました。目が赤い。泣いた後です。袖口に水の跡があります。手も荒れています。紙を扱う女房の手ではなく、水仕事をしすぎた手です。


「若菜」


「はい……」


「何を頼まれているのか、教えて」


 若菜はびくりとしました。


「いえ、私など、新入りですので」


「教えて」


「でも、皆様のお役に立つことですし」


「教えて」


 三度目で、若菜はようやく口を開きました。


「朝は、灯の後始末を。あと、香炉を洗って、紙箱の近くを掃いて、文を届けて、戻ったら水を替えて、御簾の端を直して、昼には古い紙の整理を」


「誰に頼まれたの?」


 若菜は口ごもりました。私は声を柔らかくしました。


「叱るためではないわ。見えるようにするため」


「見えるように?」


「ええ。今、あなたの仕事が見えていない」


 若菜は、少しずつ名前を挙げました。右近の君。中務の君。兵衛の君。


 どれも、古くからいる女房です。


 特別な大役はありませんが、長く御殿にいるため発言力はあります。そして、自分たちの細かな用を若菜に回している。典型的です。私は思いました。これは、『落窪物語』の継子いじめに似ています。


 落窪の姫君は、継母にひどい扱いを受け、部屋に押し込められ、雑用をさせられ、衣も奪われる。もちろん、若菜はそこまでではありません。でも構図は同じです。力のある者が、弱い者に見えない負担を押しつける。


 本人は「仕方ない」と思い、周囲も「新人だから」と流す。そのうち、負担が人格評価にすり替わる。


 ――あの子は雑用向き。


 ――気が利く。


 ――頼みやすい。


 ――断らない。


 違います。それは搾取です。


「姫様」


 赤染衛門が低く言いました。


「いかがいたしましょう」


「表を作ります」


「やはり」


「やはり?」


「いえ、予想通りにございます」


 今回は、赤染衛門も止めませんでした。若菜は驚いています。


「表、でございますか」


「ええ。誰が何をどれだけしているか、見えるようにする」


 春枝が紙を用意しました。有子が筆を取ります。常盤は明らかに楽しそうですが、これは楽しむ案件ではありません。


「常盤」


「はい」


「これは噂ではなく、聞き取り。面白がらない」


「……はい」


 少し反省した顔をしました。まず、若菜の一日を書き出しました。朝一番、灯の後始末。香炉洗い。水の交換。紙屑の整理。文の取り次ぎ。御簾の端の直し。女房の衣箱運び。昼の湯の準備。古い紙の分別。夕方の灯の準備。使い終えた筆洗い。夜の香炉片づけ。


 多い。多すぎます。


 赤染衛門が顔をしかめました。


「これは、新入り一人に寄せすぎでございます」


 若菜は小さくなりました。


「私が遅いから、時間がかかるのかと」


「違うわ」


 私は言いました。


「量が多い」


 次に、誰が頼んだかを書きます。右近の君から三件。中務の君から四件。兵衛の君から二件。その他、名前の出ない細かな用が多数。そして、各仕事にどれくらい時間がかかるか。


 これは澄子が観察して補いました。


「香炉洗いは、丁寧にすれば一つにつきかなり時間がかかります。特に強い香の後は」


 春枝も言います。


「古い紙の分別は、雑にできませぬ。紙質を見なければなりません」


 有子が言います。


「筆洗いも、次に使う者のためには丁寧さが要ります」


 つまり、どれも「ちょっとお願い」で済む仕事ではない。積み重なると、一日を食います。私は表の上に題を書きました。


 雑務見える化表


 赤染衛門が、少しだけ目を閉じました。


「姫様。題が直截すぎます」


「では、御殿支度分担表」


「そちらでお願いいたします」


 赤染衛門が雅に修正しました。ただし、私の中では雑務見える化表です。翌日、私は関係する女房たちを呼びました。右近の君、中務の君、兵衛の君。三人とも、古くからいる女房です。


 表向きは穏やか。


 しかし、若菜が呼ばれているのを見て、少し気まずそうな顔をしました。自覚はあるのです。


「今日は、御殿の支度仕事について確認します」


 私は静かに言いました。三人は頭を下げます。


「近頃、若菜に細かな仕事が多く集まっているようです」


 右近の君が、すぐに言いました。


「姫様。若菜殿は新入りゆえ、御殿の動きを覚えるためにも」


「覚えることは大事です」


 私は遮らず、しかし流されません。


「ですが、覚えるための仕事と、ただ押しつけられている仕事は違います」


 右近の君の口が止まりました。中務の君が言います。


「私どもも、昔は先輩方の用を多く」


「そうでしょう」


 私は頷きました。


「あなた方も大変だったと思います」


 三人が少し意外そうにしました。責められると思っていたのでしょう。


「でも、自分が大変だったことを、次の者へそのまま渡す必要はありません」


 部屋が静まりました。私は表を広げました。


「こちらをご覧なさい」


 有子が丁寧に書いた表。誰が、何を、何度頼んだか。どれくらい時間がかかったか。若菜の本来の学びの時間がどれだけ削られたか。それが明らかになっています。


 三人の顔が変わりました。右近の君は、少し青くなりました。


「これほど……」


 中務の君も、口を閉じます。兵衛の君は、目を伏せました。


「一つ一つは小さい」


 私は言いました。


「でも、重なると一人を潰します」


 若菜は、隣で小さく震えています。


「姫様、私は……」


「若菜は悪くない」


 私ははっきり言いました。


「頼まれた仕事を断れなかったことは、今後学べばよい。でも、悪いのは見えない仕事を一人に寄せた仕組みです」


 右近の君が唇を噛みました。


「私どもが、いじめたと仰せでございますか」


 その問いに、部屋が緊張しました。ここで「そうです」と言えば、感情の争いになります。違うと言えば、若菜の苦しみを消すことになります。だから私は、少しだけ笑いました。


「いじめかどうかは、心の中を覗かねば分かりません」


 三人がこちらを見ます。


「でも、結果として若菜に負担が偏っていました」


 私は表を指しました。


「心がどうであれ、偏りは直します」


 感情を裁くのではない。業務を直す。それが今回の方針です。次に、仕事を分類しました。雑用、と一言で片づけない。御殿を回す支度仕事として、種類を分けます。


 一、灯火管理

 二、香炉管理

 三、水・湯の準備

 四、紙屑と古紙の整理

 五、文の取り次ぎ

 六、筆洗い

 七、御簾・座の整え

 八、衣箱や調度の移動

 九、新人教育のための同行作業

 十、緊急の用


 赤染衛門が読み上げると、女房たちは静かに聞いていました。


「これらは、誰かがやらねばならない仕事です」


 私は言いました。


「だから、軽んじません」


 若菜の目が揺れました。


「ただし、一人に寄せません」


 私は続けます。


「仕事ごとに担当を分けます。得意な者が主となり、日ごとに補佐を交代する」


 春枝が紙関係。


 香炉は澄子が管理方針を作る。筆洗いは有子が手順を教える。灯火は弁の君の指示のもと交代制。文の取り次ぎは常盤が注意事項をまとめる。衣箱の移動は小少将が必要時に人を割り振る。新人教育の同行は大輔の君が計画する。


 そして、若菜は全部を一人でやるのではなく、各仕事を順番に学ぶ。


「若菜」


「はい」


「あなたには、まず香炉と紙の扱いを学んでもらいます。手つきが丁寧だから」


 若菜が目を見開きました。


「私の手つきが……?」


「ええ。雑に扱わないところは、強みです」


 若菜の目に涙が浮かびます。


「雑用向き、ではなく?」


「違う。丁寧な仕事に向いている」


 同じ行動でも、評価の言葉で意味が変わります。


 「頼みやすい子」として消費するのではなく、「丁寧な仕事ができる子」として育てる。これが大事です。私は右近の君たちを見ました。


「あなた方にも役をお願いします」


 三人は驚きました。


「私どもに?」


「ええ。右近の君は灯火の扱いが上手い。中務の君は座の整えに慣れている。兵衛の君は文の取り次ぎで失礼が少ない」


 三人の表情が変わりました。責められると思っていたところへ、得意分野を言われたのです。


「それぞれ、手順を若い女房たちに教えてください」


 右近の君が、戸惑いながら言いました。


「罰では、ないのですか」


「罰したいわけではありません」


 私は答えました。


「仕事を正しく配りたいのです」


 中務の君が目を伏せました。


「しかし、若菜殿へ負担をかけたのは事実にございます」


「そうね」


 私は頷きました。


「では、まず謝りなさい」


 部屋が静まりました。三人は、若菜へ向き直りました。右近の君が頭を下げます。


「若菜殿。私の用を多く頼みすぎました。すまぬことをしました」


 中務の君も。


「私も、自分の忙しさを言い訳にしておりました」


 兵衛の君も、静かに頭を下げました。若菜は、泣きそうな顔で何度も首を振りました。


「いえ、私こそ、遅くて」


「違う」


 私は言いました。


「謝罪を受け取る時、自分を悪くしない」


 若菜がはっとしました。


「はい……」


「謝った人の責任まで、あなたが持たなくていい」


 若菜は、涙をこぼしながら頭を下げました。


「はい」


 支度仕事の分担は、すぐに効果を出しました。まず、若菜の顔色が戻りました。全部を抱えなくてよくなったからです。香炉の扱いでは、彼女の丁寧さが本当に活きました。灰を整える手つきが静かで、香の残り方にも気づく。


 澄子が感心しました。


「若菜殿は、香炉の底に残る匂いをよく覚えておりますね」


「強い香の後は、少し苦みが残る気がして」


「それは大事です。次の香を邪魔します」


 若菜の顔が少し明るくなりました。春枝も、紙の扱いを教えます。


「この紙はまだ使えます。こちらは下書き用へ。こちらは燃やす前に確認」


「はい」


「手が丁寧です。急がず、でも迷いすぎず」


「はい」


 若菜は少しずつ、自分の仕事に誇りを持ち始めました。


 一方、右近の君たちも変わりました。


 最初は気まずそうでしたが、自分の得意分野を教える役を得たことで、ただ新人に用を頼む立場ではなくなりました。右近の君は灯火の扱いを教えます。


「灯は明るければよいものではありません。御簾の内では、影が強すぎるとお顔が疲れて見えます」


 中務の君は座の整え。


「座は、身分だけでなく、その日の役目で少し変わります。筆を取る者は、光が入る側へ」


 兵衛の君は文の取り次ぎ。


「文を受ける時は、相手の前で香を強く嗅ぎすぎないこと。あまりに値踏みして見えます」


 なるほど。彼女たちにも、確かに知識があります。それが、今までは「自分の仕事を新人に回す」形でしか出ていなかった。


 役割を与えれば、知識は教える力になる。これもまた、再配置です。ただし、すべてがすぐに美しく解決したわけではありません。


 古参の中には、不満も残りました。


「昔は、若い者が雑用をするのが当然でしたのに」


 そう漏らす人もいました。


 私はそれを聞いて、全員を集めました。


「若い者が支度仕事を学ぶのは大事です」


 私は言いました。


「でも、学びと押しつけは違います」


 女房たちは静かに聞いています。


「支度仕事は、御殿を支える大切な仕事です。だからこそ、誰か一人に隠して押しつけるものではありません」


 私は続けました。


「新人にさせるなら、何を学ばせるためかを明らかにする。終わったら教えた者が確認する。できるようになったら評価する」


 赤染衛門が頷きます。


「雑務を教育に変えるのですね」


「そう」


「見えない負担を、見える技能に」


「その通り」


 これが大事です。雑用という名前をやめる。支度仕事。基礎仕事。御殿を保つ技能。そう名前を変えるだけでも、扱いが変わります。


「ただし」


 私は少し声を低くしました。


「誰かを泣かせてまで仕事を押しつけることを、藤壺では認めません」


 部屋が静まりました。


「『昔はそうだった』は理由になりません」


 右近の君たちが、静かに頭を下げました。これで、線は引けました。罰ではない。でも、許容もしない。藤壺の基準を示す。


 数日後、若菜が私のもとへ来ました。


「姫様」


「どうしたの」


「香炉の灰を整えました。澄子様に見ていただき、次の香が立ちやすいと」


「よかったわね」


 若菜は、小さく笑いました。前より少し、顔が明るい。


「私、ずっと、何でも頼まれるのは自分に価値がないからだと思っておりました」


「うん」


「でも、姫様が、丁寧な仕事に向いていると仰ってくださって……」


 彼女は袖を握りました。


「初めて、自分の手が嫌ではなくなりました」


 私は少し黙りました。自分の手が嫌ではなくなった。それは、大きなことです。いじめは、人に自分を嫌わせます。自分が鈍いから。自分が弱いから。自分が断れないから。自分が役に立たないから。


 そう思わせる。


 でも、本当は構造が悪いことも多い。若菜の手は、悪くなかった。ただ、使われ方が悪かったのです。


「これから、香炉係の補佐をお願いします」


「はい」


「ただし、抱え込みすぎないこと」


「はい」


「困ったら早めに言う」


「はい」


 若菜は、深く頭を下げました。その夜、赤染衛門と心得をまとめました。題は、支度仕事を分かつ覚。内容はこうです。


 一、雑用と呼んで軽んじない。御殿を支える支度仕事と見る。

 二、誰が何をどれだけしているか、見えるようにする。

 三、一つ一つは小さくても、重なれば一人を潰す。

 四、新人に任せる仕事は、何を学ばせるためかを明らかにする。

 五、押しつけではなく、教育と確認を添える。

 六、古参の経験は、新人を使うためではなく教えるために使う。

 七、謝罪を受ける者は、相手の責任まで背負わない。

 八、昔つらかったことを、次の者へ渡す理由にしない。

 九、得意分野で役割を与え、評価する。

 十、泣く者が出た時は、心だけでなく仕事の流れを見る。


 赤染衛門が最後の一文を書き終え、静かに言いました。


「姫様。これは、とても大切な覚にございます」


「ええ」


「御殿が大きくなるほど、見えない仕事は増えます」


「そうね」


「今のうちに整えておくべきことでした」


 私は頷きました。藤壺は、ずいぶん仕組みを作ってきました。紙箱。歌会。衣。香。恋文。物語。漢籍。地方情報。牛車動線。健康管理。でも、それらを支える日々の支度仕事が偏っていれば、御殿は歪みます。


 大きな制度より、小さな掃除や灯の準備が、人を追い詰めることもある。そこを見なければならない。


 深夜。私は一人、香炉を見ていました。若菜が整えた灰は、確かに美しい。表面がなだらかで、香が静かに立つ。派手な才ではありません。でも、こういう手が御殿を支えます。


 落窪の姫君は、物語の中で救われます。


 でも現実には、誰かが見つけなければ、泣いている新人はそのまま沈みます。王子様のような少将が来るとは限らない。ならば、御殿の中で救う仕組みを作るしかありません。


 私は扇を閉じました。


 泣く女房、笑う彰子。


 笑う、といっても、若菜を笑ったわけではありません。いじめを雅な慣例に包んでいる構図を見た時、少し笑ってしまったのです。


 ああ、また構造が悪い、と。


 なら、構造を直しましょう。感情論で怒鳴ることもできます。誰かを罰することもできます。でも、それだけでは、また別の新人が泣くかもしれません。


 だから、仕事を見えるようにする。誰が何をしているかを明らかにする。押しつけを教育へ変える。古参の力を支配ではなく指導へ変える。新人の弱さを、丁寧さという強みに置き直す。


 いじめは、感情だけで起こるのではありません。


 見えない仕事、曖昧な役割、断れない空気、昔からの慣例。そうしたものが絡んで起こります。


 ならば藤壺は、そこをほどきます。明日も御殿が静かに回るように。誰かの涙が、見えない仕事の底に沈まないように。


 藤壺は、支度仕事まで見える御殿になります。

〜 出典 〜

『落窪物語』継子いじめ


 きたかた、「つねたてまつれど、はふらかしたまふにや、くばかりもえたまはぬ」ともうたまへば、「あなうたてのことや。おやにとくおくれて、こころもはかばかしからずぞあらむかし」といらへたまふ…


〜 舞台背景 〜

 『落窪物語』(おちくぼものがたり)は、10世紀末頃に成立したとされる中古日本の物語である。全4巻。作者は不明[1]。源順、源相方などが候補に挙がっており、巻四は清少納言が書き加えたとする説まであるが、いずれも確定に至っていない。題名の「落窪」は、主人公の薄倖な女君が置かれた居室の名前に由来する。美しい容貌を持つ主人公の落窪の女君が、その名の通り寝殿の隅にある、畳の落ち窪んだ陋屋ろうおくに住まわされ、継母からのいじめにあうが、結末は右近の少将に見初められ結ばれるという、シンデレラとも似通った構図を持つ継子いじめ譚。『落窪物語』は『源氏物語』に先立つ中古の物語で『枕草子』にも言及がある。恩讐のけじめをはっきりさせているやや単純な筋ながらも、継子いじめの筋を軸に、当時の貴族社会を写実的に描写した物語として評価されている。出典:wikipedia

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